(モンテカルロシミュレーションで検証 連載56)
1.超過死亡者はコロナ死亡者の4倍
図1は、2022年3月から現在までの超過死亡(朱領域)とコロナ死亡者(緑線)です。まず、コロナ感染が始まった第1波、第2波では、超過死亡がマイナスです。超過死亡数とは、前年までの死亡者の動向を考慮して今年の予測死亡数を出し、今年の観測された死亡数がその予測から超過した分を指します。従ってマイナスもあり得ます。
強烈なコロナ対策のためマイナスになったという説もありますが、正確なところは分かりません。第3波の時期はその反動のためかコロナによる死亡者の増加が超過死亡に完全には同期していません。
その後、第4波から超過死亡の結果が出ている本年の7月までは、超過死亡とコロナ死亡者が見事に重なっています。ただし重要な事は、図1のコロナ死亡者数(緑線)は実際に報告されているコロナ死亡者数を4倍にしたものだということです。つまり、4,5,6波とも同じく超過死亡者数はコロナ死亡数の4倍になっています。
もし、4倍しなくてもコロナ死亡者が超過死亡者に重なっていれば、コロナ禍による死亡者が増大し、それに伴って超過死亡者も増大したという当たり前のことになります。しかし、2021年のコロナ死亡者は1万5千人、超過死亡者は6万1千人でコロナ死の4倍あるというのが実際のデータです。
2.コロナ死の3倍の超過死亡はどこから来たのか
国立感染症研究所が提供している超過死亡の情報には、死因別の超過死亡のデータがあります。
このデータを基に、朱色の全超過死亡を死因別に、水色(呼吸器、循環器系、老衰)、黄色(コロナ)、紫(ガン、自殺)の3つのグループに分けて図2にプロットしました。各グループともゼロからプロットしていますので、形、大きさを直接比較できます。
特筆すべき点は、どのグループもコロナと同じピーク構造を持っていることです。つまり、死因はコロナと異なりますが、死亡の機序はコロナ死と同等のものであることが示唆されています。
では、コロナ死の3倍の超過死亡はどこから来たのか。そこで、山中伸弥教授の新型コロナ情報発信ボードにある論文の数値に着目しました。この論文には、感染後のウイルス排出期間について、PCRで陽性が確定した後、感染性のウイルスが検出されなくなるまでの期間は、デルタ株が平均4日、オミクロン株が5日、更に、PCRが陰性になるまでの期間は、それぞれ10日と11日である、という数値が記載されています。
シミュレーションで死亡者の分布を再現するには、PCR陽性から死亡に至る期間はデルタ以前では2週間としていましたが、デルタ以後は日本の場合25日に延長しています。デルタ以後、オミクロンに至って、コロナ肺炎による死亡が減り、コロナ感染を契機として既往症の悪化が死亡につながることなどから、期間が長期化したと考えられます。
従って、PCRが陰性になる期間が11日というのは、死に至るまでの期間に比べて十分に短い時間で、死に至るまでの期間にPCR検査では陰性になっている可能性があります。
コロナ禍の初期では、PCR検査陽性の死者はすべて死因が新型コロナになるという方針がありましたが、逆にいうと、PCR検査が陰性の場合、コロナ死とはなりません。そこで、コロナ感染で死亡に至る人のうち、死亡時にPCR検査が陽性になる人と陰線になる人の割合を、モンテカルロシミュレーションで求めてみました。PCR陽性から死亡までの期間を25日、PCR陰性になるまでの期間を11日として計算しました。
結果は、
(コロナ死亡PCR陽性+陰性)/(コロナ死亡PCR陽性)= 4.0
です。つまり、全体のコロナ死亡者は、死亡時PCR陽性者の4倍、図1、2で用いた係数4倍が出ました。
この比は、PCR陰性になるまでの日数を変えると変化します。11日を7日にすると5.4倍、15日にすると3.2倍、また、PCR陽性から死亡までの期間をコロナ禍初期のように14日すると、更に小さくなります。即ち、軽症化して死亡までの期間が長くなり、かつ、再びPCR陰性になる期間が短くなると、「PCR陰性のコロナ死亡」が増加するということです。
3.結論
図3にこのシミュレーションの結果を示します。青線が死亡時のPCR陽性の死亡者で、これが報告されているコロナ死亡者に対応するもので、このデータを使い致死率を合わせると、自動的に赤線のPCR陰性の死亡者を加えた全体のコロナ死亡者が計算されます。これが的確に超過死亡のデータを再現しました。
つまり、超過死亡でコロナ死亡の3倍あるコロナ以外の死因の不明分とは、「PCR陰性のコロナ死亡」ということになります。
この仮説は、じきに検証ができます。仮説が正しければ、図3に示されているように既に第7波の死亡者(青線)は報告されていますから、今後報告される超過死亡者は赤線になるはずです。
(超過死亡とワクチン接種の関係については、連載53、54、55をご覧ください。)