中間選挙とトランプ:米国の行方やいかに?

野口 修司

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ある人物の84歳の誕生日にお祝いの電話をした。その際、今回の中間選挙を受けて、トランプがどのくらい支持を得るか、11月15日に2年後の大統領選挙出馬公表はほぼ確実だが、本当に次期大統領になるのか?バイデンはもともと無理でも、民主党が負けるのか等、アドバイスをお願いした。

その人物とは、パット・ブキャナンだ。若い人は知らないだろう。10数年くらい前までは、TVなどメデイアに多数回登場、米国政治、共和党の現状分析で、多くの人々に貴重な情報を提供した。ニクソン、フォード、レーガンなど大統領上級アドバイザーを務めて、高い評価を受けると共に、有名になった。パット自身も92年と96年の2回、共和党から大統領候補として立候補した。

CNNが「共和党の変容」という特別番組を出した。番組宣伝で出た3人。レーガン、ブッシュ(父)、そしてこのパット・ブキャナンだ。3人とも、共和党、そして米国保守の論客、「看板」で「顔」だ。

筆者は40年くらい数々の保守論客のインタビューをしてきた。リベラルは外国人でも取材し易い。だが保守はハードルが高いので数が多くない。

インタビューリストのトップ、ブッシュ親子は、これまで培った保守、共和党の人間関係を駆使、いろいろやった。かなり良いところまで行ったが、結局実現しなかった。父親と共に、息子に聞きたいことがたくさんあったが、残念無念。まあ、こちらが一番聞きたかった「イラク戦争」のことなど、絶対に話したくないだろう。

同じ保守でもブッシュの批判を展開して、一時期パットの戦友ともいえたロス・ペロー。テキサスの実業家で政治家だ。米国の保守政治と弱肉強食の厳しい現実に関して、10数年前に長時間、対談した。

ITサービス企業のEDSを企業、大成功させた。アップルのスティーブ・ジョブスの新会社への投資でも有名になった。彼のダラスの豪邸のオフィスには、小さな魚が巨大ナマズを飲み込む大きな像が置いてあった。誇らしげに「企業のサイズはあまり関係ない。戦略さえ間違えなければ、勝利は目の前にある」と豪語したのを覚えている。

1992年、共和・民主関係なく独自に大統領選挙への出馬を表明。クリントン知事(当時)の不人気から、かなりの支持率を獲得、長く続いた2大政党制が壊れる可能性が論じられた。

パット・ブキャナン氏(左)と筆者

2000年の大統領選ではパットを擁立することなどがあったが、内部分裂も表面化。結局、ロスは政治界から実質的に身を引いた。

他方、パットは、CIA本部に歩いて行ける距離の自宅に招待してくれた。もう10数年前のことだ。

ポトマック川を見下ろすRosslyn駅近くの自宅アパートから車で10分の場所。車寄せがあるくらいの豪邸だった。

筆者はリベラルの部分もあるが、事案・政策によっては保守的な考えが強い。電話も含めてロスの話をし、米国の伝統的な政治の話をして、かなり気に入ってくれた。

もう1人保守の論客がいる。10数年前に密着取材をした。米国で3本指に入る大物ロビイストのグローバー・ノーキストだ。

彼は増税反対、できるだけ小さな政府で、納税額を最小にする思想で有名だ。ブッシュ息子の選挙支援をして、彼が大統領になってから、その功績からかなりの保守層への影響力を得た。しかし、9.11で米国全体が異常な状態になり、愛国者法などができて魔女狩りに近いことが起きた。イスラム教徒への差別も露骨になった。これらを憂いてイスラム教徒との直接対話を呼びかけるなど強硬保守から少し距離を置くインフルエンサーだ。筆者がそれなりに尊敬できる実力者といえる。

パットもノーキストも、ここは似たようなスタンス。共和党の中では支持者が30〜40%いるが、トランプに対して盲目的な支持をしていない。パットは2年前の選挙直前、共和党支持でありながら筆者と同じくバイデン勝利を示唆した。その時に「中間選挙では共和党が大勝するね」と、これも同意見だった。

ノーキストも共和党勝利はもちろん予想、期待はしている。だがトランプが2年後の大統領になる可能性には疑問を抱いているようにみえる。非常に慎重な男。例によって断言などしない。立場上、そもそも明言はできない。

共和党支持者でも、熱狂的な支持者がいると同時に、トランプだけは絶対に嫌だというヒトもかなりの数存在する。

米国は再びトランプを支持するのか?

今回の中間選挙はいつも通り、野党、つまり共和党が勝利するだろう。上院はまだ流動的だが、下院は間違いない。現時点で、15日でほぼ確実と言われるトランプの出馬表明。トラが推薦した共和党候補は約200数十人。中間選挙直後、共和党員が勝利感に浸っている時に「ほら、俺が推薦した結果、この候補者は勝った。ご期待通り、大統領選は俺さまの登場、米国を再度偉大にしよう Make America Great Again (MAGA)」と繰り返し絶叫しつつ、トランプが登場する可能性がかなり高くなりつつある。

一方バイデン大統領は、亡くなったことを知っていたはずの友人議員を記者の前で探すなど、衰えが甚だしい。当選直後から言っていたが、次期大統領はほぼない。重要な争点の移民問題で国境にもいく元気もない。ここ10日間くらいの選挙戦では、まだ人気があり、元気一杯にバイを支援する元上司のオバマばかりが大活躍だ。老害のバイデンと違って、トランプは元気がある。物価高に苦しみ、日常生活に疲れた一般人にとって「なにがどうなるか、よく分からないが、これまでの政治家とは違うことをやってくれそうだ、なにか大きく変わる希望が持てる」そんな気持ちが、トランプに引き寄せられる。

一方のパットの主張は、「MATA(Make America Think Again)つまり米国を偉大にするのも良いが、分断され、深い傷を負いながら、のたうち回っている米国人よ、いろいろなことを『もう一回考え直して』議論、前進しよう」というものだ。

全くその通りだ。同調できる。トランプがいうGreatの定義や意味はいろいろある。独善的でもある。トランプの挑発とも言える言葉に、すぐに乗るという話しではないだろう。

政治に理念や実績はある。しかし、これからどうするのか? 正解は1つではない。それが現時点で間違いないと言えるはずはない。熟考して深い議論をしつつ、問題解決に確実に歩を進めるしかない。

経済問題:深刻なインフレ

まずは経済問題。なによりも優先度が高い。現在の問題はバイデンだけの責任とはいえない。トランプが大統領でも、基本は同じだっただろう。例えば、ウクライナ危機など根っこ・原因は同じといえる。にも関わらず、(現在のインフレ問題を)「おめでとう conglatulations!」 とトランプは叫んだ。庶民は苦しんでいる。本当に下品な人間だ。

ガス代は異常だ。最近は満タンにすると100ドル近くいく。筆者が米国に来た40年以上前は20ドル札2枚くらいだった記憶がある。2ー3年前は3枚くらい。この異常なガス代は、間違いなく米国民の家計を直撃しており、バイデン民主党が不利になっている。

昔、ブッシュ父が戦争で勝った。圧勝だという説もDCでは支配的だったのを覚えている。しかし、その時経済が悪化し始めた。ほぼそれだけが要因で、ブッシュは負けて、クリントンが大統領になった。どこの国でも外交や理念などよりも、経済問題、毎日の生活が大切で、投票行動にモロに反映される。

そこの部分では確実に共和党が優位。対民主党との戦いで、一番の武器にする。多分それが今回の勝因になる。

残るはその他の、人工中絶、移民問題、銃規制の問題、そして外交だ。相変わらず、基本的に孤立主義の米国人は、民主主義の大切さを防衛する必要性を感じている。だから、2月に反民主主義陣営のプーチンの蛮行が開始されると、核戦争にならない程度に、兵器と巨額を注ぎ始めた。挙党一致の支持だ。

しかし、いまやプーチンも難しい状況に陥り、現在は「我慢比べ」だ。バイデン政権も2月に比べると少々支援疲れ、中国と比べて重要性が少々落ちる。そのため、これから支援が減少に転じる可能性も浮上している。

より厳しい支援減少を考えているのが、共和党だ。トランプもそうだが、まずは自国優先、民主主義は大切だが、自国のリソース・若者の命を、かなり犠牲にしてまで、頑張る必要まであるのだろうかという考えが、もともとある。今回、共和党が大勝すれば、ウクライナ支援が縮小する可能性がある。

一方、中国が始めてプーチンの核使用・威嚇を批判した。ドイツ首相の功績だが、西側が少し有利になった。共和党勝利で、米による支援が減少、イランと北が擦り寄っても、バランスが少し取れるかもしれない。

人工中絶問題

「人口中絶」の問題は米国民過半数の怒りを買っている。数十年継続した最高裁の判断が覆され、中絶が原則できなくなった。

トランプ支持者は言う。トランプは数々の実績を残した。1つは連邦裁判所をかなりの程度まで保守に変えた。良い悪いという前に、それが事実だ。その結果の1つといえるのが、各州が独自に中絶禁止ができるというもの。強姦犯の子供を宿したり、最初から障害児が生まれると分かっていても、中絶できなくなる。基本的に、受精卵が胎児になる瞬間から、殺してはいけない。キリスト教の影響がかなり大きい。

だが妊娠、出産はその女性の問題。パートナーと共に、自分らが決める権利がある。普通の殺人とは違うのに、なんで、他人=法律により、出産するしないが、決められるのか? という疑問が出る。産む産まないは、その女性が決められるはず。自分の体だ。誰のものでもない。それに対して、いくら親でも、大切な生命を殺すのはよくない、さらに赤ちゃんと母親の体が心配なので禁じるという反対派、アドバイスで結構、それ以上は余計なお世話だと思うが、主に宗教観から来る中絶反対派と自分が決める人々が、長年対立してきた。

つい最近の事件では、10歳の女子が強姦され、妊娠。それを中絶した医師の責任が議論になっている。なんでもありの米国だ。そもそも10歳の女子を、、これだけで頭がクラクラする。

筆者が取材したのは、アラバマ州にあった中絶をする医院を攻撃する事件。90年代だが、爆破事件で死傷者が出た。

トランプの支持母体の1つ、キリスト教原理主義者は強く中絶反対を叫ぶ。人間に対する暴力はまだ少ないが、有名な絵画にペンキをかける最近の環境保護運動と似ている。心底、自分らの主張が正しいと思い込み、ニュース報道による広報効果も計算しながら、言う事聞かないと、実力行使や自分の刑務所入りも厭わない。

中絶反対と共通点があるのが、進化論の否定だ。神が全てを造りたもうた。シンシナティにあるノアの箱船博物館。聖書に書かれていることを本気で信じていることが分かる。信者とも思える入館者は口々に言う。「ダーウインなど信じない。生命を作ったのは神」。

筆者が海中の熱源、アミノ酸、有機物、魚型小型生物、陸に上って小さなモグラのような哺乳類、猿に進化、現在の我々になった、こんな説を言ったら、お前は神を冒涜するのか?とバカにされた。こんな人々が20数%は米国にいる。延長線上に「生命を殺すな。中絶は禁止するべき」がいると感じた。

結婚式とクリスマスのお祝いはキリスト教、お正月は初詣で神社、葬儀は仏式などなど、宗教心が強いとは思えない日本では「中絶」も比較的簡単にできる。この問題に関して米国の状況を理解するのは難しい。

移民問題

これも移民が身近ではない日本では理解が難しいだろう。筆者は40年以上、現場を取材してきた。主にメキシコ国境。国境警備隊と一緒に行ったり来たりした。もう時効だから言えるが、当時の筆者のビザは切れていた。永住権申請中で、大学院卒業後のビザが1年で切れる。間に合わなくて、不法滞在者になっていた。しかし取材目的で、国境を警備隊と一緒に出入りした。ドキドキだったが、誰も怪しいと思わなかった。「ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う」、、、警備隊隊長や不法入国者相手にインタビューしている目の前の生意気な日本人ジャーナリストが、ビザ切れ不法滞在者とは、警備隊員は夢にも思わなかっただろう。

夜間はヘリと真っ暗闇でもかなり見えるイスラエル製特殊ゴーグル。次から次に地から湧いて出るように、メキシコ国境から入ってくる中南米の人々。貧困、圧政、暴力、ギャング攻撃などが原因だが、誰もが、「エルノルテ、北へ北へ」と自由で豊かな米国を目指す。

米墨国境のリオグランデ川では、溺れて死んだ親子もいた。車のトランクを開けると、数人がすし詰めになっていた。一生懸命働いて得た数千ドルと引き換えに国境を超える「コヨーテ」というギャングに身を任せる。

米国論を2分したトランプの壁は、いまだに建設途中、中断されたが、かなりの距離そびえている。テキサスの一部は未建設の部分から、米国側に侵入するのを防ぐため、大きなコンテナを積み上げている場所もあった。

ミニトランプとも言われ、いまやトラの有力対抗馬になったフロリダ州知事のデサントスやテキサス知事などは、次から次にやってくる移民希望者の扱いに困っている。(余談だが、デサ知事は半年くらい前から共和党のトラ後継者といわれる。考えは似ているが、トラよりかなりまとも)

この2人の州知事は、大型バスに移民希望者で、最初の手続きを終えた多数の中南米からの人々を、リベラルのNYや理想論をいうワシントンに送り込んだ。不法移民・人間兵器だ。確かに押し寄せてくる移民希望者の人権に配慮しながら、食事を与え、治安を守り、審査するためには、時間も予算も必要だ。人数が半端ではないからだ。手続き現場を見れば分かる。もちろん言葉ができない。教育も受けていない人も多い。個人情報の裏取りも難しい。難民、亡命認定の法律通りやるための書類作りは、本当に大変だ。

人間兵器利用は、人権を強調、理想論をいうNYやワシントンの人々に体験してもらおうという意図だ。人権を少し考えろという批判も出て、さらなる分断と議論を呼んでいる。

トランプは公約の壁建設に象徴されるように、移民には厳しいことが中南米に伝わっていた。しかし、バイデン民主党が政権を取ると、以前より国境が開放され、入国が楽になったと思い込んだ人々がさらに押しかけた。実質的はもっと多いが、拘束された人数だけでも、前年比で約4割増、200数十万人に達した。

ハリス副大統領。当選した時は黒人女性で、もしかすると次期大統領候補になるというくらい人気を得た。移民問題を扱う責任者になったが、その手腕は評価されなかった。「もう米国には来ないで下さい」と、本音を言ったことが一因だ。

現場では小さな子供を連れた若い母親も目立つ。家族数人が震えている。まずは子供だけでも米国に入れようと、子供と別れを惜しみつつ、米側のボランティアに子供を託すケースもある。国境越しに米側に自分の小さな子供を夢をこめて泣きながら差し出す。なんと悲しい現実だろうか。優先扱いされる自分の子供が、居住・福祉・就業資格を取得、米国で生活できるようになれば、将来呼び寄せてもらえるという計算がある。

10数年前の取材では、中国の妊婦が押しかけて、米国内の病院で産み落とす。ツアーといえる集団陰謀もあった。米国の誕生証明書があれば、子供が米市民になり、将来は自分も米国に入って福祉を受けられるというケースもかなりあった。

この種の「移民問題」は、民主党は人権重視、米国は移民で成り立ち、それが活力になっているという考えから、移民希望者の味方。共和党は伝統的に、正規移民以外は犯罪者も混じっているし、福祉予算を食い物にする。貧困国から来る人々は基本的に入れるなというスタンスだ。ここは同調できる点。移民・難民もよいが、きちんとした法的手続きで入国するべきだ。とりあえず国境を超えればなとかなる、これはよくない。そして重要なこと。不法移民も入れると、これらの人々が米国人がやらない3Kの仕事をやってくれることだ。米国社会の潤滑油になり、経済の下支えになっている。そのことをトランプなど共和党はまず言わない。

「銃規制」問題はアゴラの別稿を参考にしていただきたい。当然規制も関係あるが、学校における乱射など凶悪事件防止が最優先課題だ。警察の対応も問題があることがますます表面化している。警察改革も大きな争点の1つだ。

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中間選挙の行方やいかに?

注目の中間選挙は11月8日だ。この拙稿が出る頃は大勢が決まっているかも知れない。

いままでもあったが、今回の選挙で特に特筆すべきこと。党派と関係なく、主義・主張・政策で誰に投票するか決めている人が目立つこと。トランプは両刃の剣。トラ支持だから投票する。逆に投票しないという人がいる。当事者にとってマイナスにもプラスにもなる。

2年後に向けてトランプ自身は予想以上に強い。最初は仲間、いまや対抗馬といえるフロリダのデサント知事は現時点ではかなりリードされている。一方で、トランプだけは嫌だという人もかなりいる。

当然だろう。民主主義の根幹。大統領を決めた選挙制度結果を否定、不正はあったが結果が変わるほどではなかったという70以上の司法判断まで否定。さらに、自分の負けを受け入れない姿勢を貫いている。今回の選挙でも起きうる前例を作ってしまった。独裁体制で自由選挙がない中国など、世界の反民主主義・反米国勢力が大喜びだ。

政策の違いというレベルとは別次元で問題があるのがトランプといえる。

今回予想通り、共和党が勝ち、トランプが15日に大統領選への出馬表明、2年後に大統領になれば、現在議会とFBIが進めているトランプ違法行為解明の努力がほぼ消え、クーデターともいえる議会襲撃教唆、脱税も闇に葬られる。選挙制度も司法制度も否定されたままだ。民主主義が死ぬ。

自分の意見と希望をいえば、バイデンとトランプ以外なら誰でも良いと思うようになった。涙。この選挙は米国だけでなく、世界の行方もかなり決めるだろう。次期大統領を決める大きな要因になるといえる中間選挙の結果は、もうすぐだ。