「現役信者コメント」が示す統一教会にとって安倍元首相の“偉大さ”

宗教学者で東大名誉教授の島薗進先生とYouTube《郷原信郎の「日本の権力を斬る!」》で対談を行い、【統一教会問題を島薗進氏に聞く】と題して、11月5日にアップした。

宗教学会の元会長、日本の宗教学の第一人者である島薗先生の話は、統一教会問題について、改めて深く考えさせられるお話だった。

「宗教団体」としての統一教会が、これまで行ってきたことは、凡そ「宗教団体」ではあるまじき存在であるが、そういう活動が継続されていたことの原因の一つに自民党との関係があることなど、歴史的な経緯も含めて、しっかり理解できる大変勉強になる話だった。

この対談YouTubeをアップした日の夜、統一教会の内部者(信者)と思える人からの、以下のような興味深いコメントが寄せられた。島薗先生の話を受け止め、信者としての率直な思いをつづったもののように思えた。

現時点(11月7日)で公開されているコメントは、以下のとおりだ。

ヨイン
安倍元首相をプーチンや習近平と同じように語らないでほしいです。
格が全然違うし、独裁者でもありません。
もしご存命なら、世界を平和的にまとめ上げる力があった方です。
統一教会は反日の思想もないですし、韓国に対する原罪というものもないです。
世界平和家庭連合は神様の願う世界平和と地上天国実現のために活動しています。
神様の願いを知って、生きて働いて下さる神を実感しているのです。

このコメントは何回も編集されており、以前は、

生きて働い下さる神を実感しながらやっているので、犯罪行為にはならないのです。(神がわからない人には理解出来ないのです)

統一教会は悪であると言う決めつけで話が進んでいますが、神様という存在を抜きにして考えるとこいうふうに見えるのかと、これはこれで大変参考になりました。ありがとうございました。

という記述もあった。

コメントの主のヨイン氏が、「神様の願う世界平和と天国実現に向かって現実的に活動している」というのは、敬虔な信者として、統一教会の教理である「統一原理」を信じて活動しているという意味だと考えられる。

編集によって削除された部分の「生きて働い下さる神を実感しながらやっているので、犯罪行為にはならないのです。(神がわからない人には理解出来ないのです)

というのは、信者の立場からは、神を信じ、神を実感しながらやっているので、正体隠しの勧誘、霊感商法、「高額献金」なども、詐欺などの犯罪や不法行為にはならないという理解を述べたものだろう。

このような旧統一教会の信者だと思えるヨイン氏のコメントには、興味深い記述がある。

一つは、ヨイン氏が、「安倍元首相をプーチンや習近平と同じように語らないでほしいです。格が全然違うし、独裁者でもありません。もしご存命なら、世界を平和的にまとめ上げる力があった方です。」と述べている点だ。

これは、YouTube対談の中で、島薗先生が、

プーチンや習近平のような力強い政治指導者になびくような世界の流れがある。これは、グローバル化が進み、世界が多極化する中で、秩序の崩壊感が強いので、あまり楽観はできない。

と言われたのに対して、私が、

プーチンや習近平は自分のところに権限を集中させるために、他の人間には権力を与えないようにして独裁体制を固めている。どうしてもそういう独裁的政権では、その後を継ぐ人間がなかなかできないのではないか。日本は、安倍晋三氏が、そういう役割を担って、第1次政権の後、また復活して、第2次安倍政権が8年近くも続いていたし、もしあの銃撃事件でああいう形で亡くなるということがなければ、また政権の座に復帰して、それこそプーチンとか習近平のような権力者になっていた可能性もあると思う。

と言ったことに関して書かれたものと考えられる。

私が言いたかったのは、亡くなってみて、改めて、日本の政界における安倍元首相の存在の大きさを感じており、岸田内閣の支持率が大きく下落し、政権基盤が危なくなっていても、その後継の話が全く出てこないのは、結局のところ、自民党の権力は、安倍元首相が存命である限り、安倍氏に集中していたと考えられることを踏まえて、安倍氏の再登板、権力のさらなる集中の可能性もあった、ということを「プーチンや習近平のような権力者」になぞらえて言っているのである。

これについて、ヨイン氏は、安倍元首相を「プーチンや習近平」とは「格が全然違う」と高く評価し、「存命なら、世界を平和的にまとめ上げる力があった方」とまで言って、「平和を実現できる世界的な政治家」と称賛しているのである。

旧統一教会の現役信者と思えるヨイン氏が、島薗先生と私との統一教会問題についての対談に、率直な思いを書いてきたと思えるこれらの言葉は、安倍氏が旧統一教会の信者にとって、安倍氏が、「精神的な支柱」にまでなっていた「大きな存在」であることを窺わせるものであり、安倍氏と統一教会との関係の深さを示すものと考えることができる。

もう一つは、「反日の思想もないですし、韓国に対する原罪というものもないです。」と言い切っていることである。

これも、信者としての認識をありのままに述べたものなのであろう。

確かに、「統一原理」そのものには、反日的なものや日本が韓国に対して負う原罪という話は出てこないことについて、島薗先生も、以下のように話している。

我々が若いころに勉強したのは「原理講論」というこれは基本的な教典になるんですが、なかなかこれはがっちりとした論理的な言葉で書かれているんですね。ソウル大学を出た人がまとめた。韓国では、梨花女子大事件というのもあってね。韓国でも早い時期に高学歴層に浸透したんですね。その原理講論の中には、日本語訳には、日本と韓国の関係に関するようなところは訳してなかった、というふうな記述があります。84年の世界日報編集局長の事件のときの文藝春秋の記事には、韓国中心ということは強く書いてあるけれども、日本から特に収奪するというふうにはなっていないです。

つまり、原理講論の「日本語訳」には、「反日の思想」や「韓国に対する原罪」などということは書かれておらず、日本の信者の人達は、教理上は、そのような考え方はないと認識しているということなのだ。

「韓国に対する原罪」は、過去の高額献金や合同結婚式などのカルト的手法に関連して、必要に応じて使ってきたもの、ということであろう。

現在の信者には、「反日の思想」「韓国に対する原罪」の認識がないということも十分に考えられる。

旧統一教会の現役信者と思えるヨイン氏は、島薗先生と私のYouTube対談を視聴し、敬虔な信仰心による真剣な言葉をコメントとしてきたものと思える。統一教会問題を考えるに当たっても、それが、現役の信者の率直な思いであることを、しっかり受け止めなければならない。

旧統一教会の実態は、現役信者の立場からすれば、ヨイン氏が認識しているとおりかもしれない。
しかし、世の中の一般的な認識のとおり、旧統一教会の実態が、過去と大きく変わるところはなく、正体隠し勧誘やマインドコントロール下で高額献金を行わせたりする「反社会的団体」なのであれば、そのような教団の実態を認識することなく、信仰の世界に没入しているヨイン氏のような信者は、まさにマインドコントロールの被害者そのものだということになる。

そして、安倍元首相は、そのような信者に「平和を実現できる世界的な政治家」とまで慕われていたということになる。日本の政治権力の中枢にあった安倍元首相が、統一教会と関わってきたことの深刻さを、改めて認識すべきであろう。

自民党にとっても、その最大派閥の安倍派にとっても、それは目を背けることができない現実である。