今秋、英BBCが開局から100周年を迎えた。
1922年10月18日に株式会社「英国放送会社」(旧BBC=British Broadcasting Company)として発足。同年11月にラジオ放送を開始した。1927年、国王の勅許によって存立する公共体「英国放送協会」(BBC=British Broadcasting Corporation)に組織替えした。
発足当時の職員は数人ほどだったが、最新の年次報告書(7月発表)によると、現在は約2万1000人の大手放送局に成長した。国内ばかりか世界中でその名が知られる存在だ。
BBCのこれまでと現在の課題を記してみたい。
1922年10月、旧郵政省が無線通信企業やラジオ製造企業6社に株式会社旧BBCを設立させた。初放送は11月14日。収入の大部分は株主となった企業が製造するラジオ受信機の販売代金とBBCの放送を聞くリスナーから郵政省が徴収する「ライセンス(認可)料」の一部が占めた。同年12月、BBCのジェネラル・マネージャーとして職についたのが元エンジニアで当時33歳のジョン・ワルシャム・リース氏(後のリース卿)であった。27年に旧BBCが公共事業体になると、ディレクター・ジェネラル(会長)として采配を振るった。リース卿は公共放送としてのBBCの目的を「教育、情報提供、娯楽」と定義した。この定義は現在もBBCの活動指針である。
成人の90%が毎週接触
1936年には英国でテレビ放送が始まった。55年に民放ITVが登場するまで、放送局はBBCのみだった。BBCの放送界独占態勢が長く続いたこともあって、英国では放送業を公共サービスの1つとする見方が根強い。
英国の主要放送局(BBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5)は「公共サービス放送(Public Service Broadcasting=PSB)」という英国特有の枠組みに入り、ニュース報道の不偏不党等が義務化されている。ITV、チャンネル4、チャンネル5は広告収入が主要収入源だが、チャンネル4は政府が所有する特別な形を取る。
BBCの最新の年次報告書によると、英国の成人の90%がBBCのコンテンツに毎週アクセスしている。BBCの動画配信サービス「アイプレイヤー」の年間利用件数は66億件(前年比8%増)、音声サービス「BBCサウンズ」の再生件数は15億4000万件(同23%増)で、いずれも過去最多となった。
テレビライセンス料(受信料)は視聴世帯毎に年間159ポンド(約2万7000円)を一律徴収。総額38億ポンド(約6200億円)で国内の活動をまかなう。このほか、海外市場向けに番組コンテンツを制作・販売・流通する商業部門「BBCスタジオ」がある。同部門の関連収入と国際ラジオ放送「BBCワールド」向けの政府の交付金を加えると15億3000万ポンドに達している。これに受信料による収入を加えると、総収入は53億3000万ポンドとなる。
BBCの目下の課題は、メディア環境の激変にいかに対応していくかだ。BBCの活動を支えてきた、受信料の一括徴収制度が揺らいでいる。視聴世帯から同額を一律徴収する現行制度は2027-28年度までは続くことが既に決定済みだが、28年4月以降が未定だ。
テレビのチャンネル数は400以上に増えている。番組をリアルタイムで視聴する習慣は、主要テレビ局が無料で提供するオンデマンド視聴サービスやタイムシフトチャンネル(ある放送局の番組を1時間あるいは2時間ずらして放送)、インターネット上の動画サービスの登場で減少傾向にある。
英情報通信庁(オフコム)の調べによると、主要テレビ局が放送した番組コンテンツの視聴時間は動画コンテンツ視聴時間全体の59%を占める(2021年時点)。19年には67%、20年には61%だった。視聴時間が伸びているのはユーチューブやフェイスブックなどの動画共有サービス、ネットフリックスを始めとする定額制の動画配信サービスだ。
3年で最大1000人削減
BBCは5月末、デジタル最優先を掲げる経営改革計画を公表した。経営資源をこれまで主眼だった放送業からデジタル配信に投入。これに伴い今後約3年間で最大1000人を削減する。政府との交渉で決まる受信料の金額は今後2年間凍結される。9月末にはBBCワールドに携わる人員を約400人を削減すると発表した。
政府は同サービスを英国の「ソフトパワー」の一環と位置付け、交付金を提供してきた。BBCの海外向けサービスを利用する人は世界各地で1週間当たり約3億6400万人。そのうちの半数がオンラインを通じての利用だ。
放送局が生み出すコンテンツの視聴者が減少する中、BBCは新たな資金調達方法を真剣に模索する時を迎えている。
(日本新聞協会が発行する「新聞協会報」10月25日号に書いた筆者のコラムに補足しました。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2022年11月14日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。