ローマ教皇お膝元の教会の「性的虐待報告」

ローマ・カトリック教会のイタリア司教会議(CEI)は17日、「保護、防止、教育」というタイトルで、全国的な初の「性的虐待報告」を発表した。イタリア教会はローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁と最高指導者フランシスコ教皇のお膝元だ。そのお膝元の聖職者の未成年者への性的虐待報告書は、それゆえに否応なく注目を呼ぶ。

イタリア司教会議議長のジョゼッペ・バトゥリ大司教(2022年11月17日、バチカン・ニュース独語版から)

CEIの報告書は「保護、予防、訓練―子どもと脆弱な人々を保護するための地域ネットワークに関する最初の報告」との題目で、教会の予防措置の状況を調査した内容だ。過去2年間(2020年から21年)に教会当局に報告された事例をまとめたもので、調査の対象期間としては短い。

イタリア司教会議は、教義省と協力して、2000年から21年までの過去20年間に聖職者による性的虐待の疑いのある事例と証明された事例をリストアップした第2の報告書を作成する意向という。バチカン教義省によると、イタリアで過去20年間、性的虐待の疑いのある件数は613件と報告されている。CEI議長のバトゥリ大司教は、「バチカンと協力して司教会議がこの現象を質的および量的に更に調査することを望む」と語っている。

CEIの今回の報告書によると、20年間の期間に教会の報告事務所に連絡した犠牲者は合計89人だ。そのうち12人は10歳になる前に性的虐待を経験し、61人は10歳から18歳までの間に虐待を経験、16人は成人として経験している。性的虐待件数の半分(52.8%)は最近または現在の虐待行為に関連し、47.2%は過去に発生した事例だ。

具体的な内容によると、「不適切な言動」(24件)、次いで「触る」(21件)、「セクハラ」(13件)、「性交」(9件)、「ポルノグラフィの表示」(4件)、「オンライングルーミング」(3件)、「露出行為」(2件)という。報告された性的犯罪は、主に小教区(33.3%)、運動クラブまたは教会の本部(21.4%)、教育センターまたは神学校(11.9%)で行われたという。

一方、加害者は主に聖職者または宗教指導者だ。加害者・容疑者68人については、半数以上が犯行当時40~60歳だった。そのうちの30人は当時聖職者だった。23人は一般信徒だった。また、宗教の教師、地下聖堂の指導者、クラブの指導者などの役割を担っていた。15人は修道士だった。

事件が伝達された後、司教会議は、「主に『懲戒処分』が行われた」と強調し、具体的にどのように処理されたかについて報告書は記述しているが、司法当局との協力がどの程度行われたかは完全には明らかではない。加害者とされる者には、「『特別な保護コミュニティ』(特定されたケースの3分の1)や『精神療法のサポート』(ケースの約4分の1)への配置」などが実施されたという。

以上の数字は、教会当局に報告された性的虐待の疑いのある件数のみをまとめたもので、実数はもっと多くなるものと予想されている。

米国、オーストラリア、チリ、ドイツ、オーストリア、フランスなどの国とは対照的に、イタリアでは、聖職者による未成年者への性的虐待事件は件数としては少ない。イタリア教会での虐待に関する全国的な報告は、専門家や被害者団体によって長い間求められてきた。今年2月、イタリアの被害者代表者は教会部門での虐待事件に関する独立した調査委員会の設置を要求した。なお、被害者の団体「レテ・ラブソ」は今回の教会の報告書を「非常に制限された内容で、不十分だ」と批判している。

フランシスコ教皇は使徒的手紙の中で、2020年5月末までにイタリア司教会議の全ての教区に「虐待報告センター」を全面的に設置するように要請したが、イタリアの教区で同センターが設置されているのは現在、約70.8%だ。大教区では、その割合はやや高い(84.8%)。既存の教会登録事務所は、「83.3%のセンターは専門家グループによってサポートされている」という。

参考までに、米国教会では聖職者の未成年者への性的虐待件数は数万件といわれ、被害者への賠償金払いで破産する教会も出てきている。欧州のカトリック教国フランスでは昨年10月、1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたこと、教会関連内の施設での性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという報告書が発表されたばかりだ。

イタリア教会でも調査が進めば犠牲者件数が急増することはほぼ間違いない。バチカン教皇庁、ローマ教皇は不都合な事実が暴露されないことを願っているだろう。

なお、11月18日は「児童の性的搾取防止のための国連世界デー」だ。

querbeet/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。