転職エージェントが土日に面談をしない理由 (小山 美幸)

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「転職エージェントは土日も面談すればいいのに」

先日そんな主旨のコメントをSNSで見かけました。たしかに土日は面談に対応していない、平日に比べて対応時間が限られているエージェントは多いのが現状です。

ユーザーからすると不便でしょうし、土日も面談してくれれば転職活動しやすくなるしもっと利用者も増えるのに、という声にもうなずけます。

しかし多くの転職エージェントが土日に面談をしないことには合理的な理由があります。

そこで転職エージェントのキャリアコンサルタントとして実際に面談を行っていた立場から、転職エージェントが土日に面談をしない理由について考えてみたいと思います。

実際に土日対応している転職エージェントは?

転職エージェントは本当に土日対応していないのでしょうか? まずは情報を確認するために、大手エージェントの面談時間をまとめてみました(執筆時点)。

表:大手転職エージェントの面談対応時間
各社公式情報をもとに筆者作成

これを見ると、多くのエージェントが日祝対応不可、土曜日は対応しているか応相談と分かれています。

目立つのはリクルートです。さすが業界の雄、土日も稼働しています。とはいえ、平日ほどの面談時間は確保していません。土曜日に対応している各社も同じ傾向です。なお、表中の「応相談」の意味については後述します。

土日も平日くらいの対応時間に拡大したり、各社とも日曜日も対応すれば裾野が広がるはずなのに、なぜ大手転職エージェントは対応しないのでしょうか?

転職エージェントが土日面談を避けたい理由:転職決定率が低いから

転職エージェントが土日面談を避けたい理由は「土日に面談を希望する人は転職決定率が低い傾向にあるから」に尽きます。

土日面談を希望する人は、大抵次のどちらかのパターンです。

【パターン(1)忙しすぎて本当に土日しか調整できない】
まず、日々の仕事が非常に忙しく、土日にしか面談日程を調整できない方です。

しかし、転職エージェントとの面談を土日にしたところで、本番の面接は平日昼間が多いです。面接の調整で難航したり、その間に他の方で決まってしまったり、準備不足でうまくいかなかったりと、忙しすぎる方は転職が決まりづらい傾向にあります。

調整を重ねた1社できれいに内定が出たとしても、「1社だけだと決めきれない」のが人の性。複数社受けて比較検討して決めたいと思えばこそ面接の調整難易度も上がり、結局「仕事が落ち着いてから再開します」となりがちです。

【パターン(2)平日に面談調整するほど転職意欲が高くない】
現場の感覚としては、こちらのパターンの方が圧倒的に多いです。

平日に休みを取ったり、業務を早く終わらせて面談に来るほどの熱量はないが、一度話は聞いておきたい。すぐに転職する予定はないけど、いつかするかもしれないし、今後の参考までに情報収集をしたい。そんな温度感の人です。

このパターンでは「へー!」と求人情報だけ持ち帰り、音沙汰がなくなる確率が高いです。

パターン(1)とパターン(2)のいずれにしても、土日に面談希望の方の転職活動は進みにくい傾向にあります。

転職エージェントのビジネスモデルは「成功報酬型」であり「労働集約型」

「でも、ユーザー側の利便性を犠牲にしてない?」
「忙しい人にこそ、土日面談をしてサポートしてあげたらいいのでは?」
「今は転職する気がなくても、土日面談で裾野を広げて将来のお客さんにすれば?」

こういったツッコミが聞こえてきそうですが、ここには転職エージェントのビジネスモデルが関係しています。

なぜ転職エージェントは「決定率」を気にするか=決まりにくい面談を避けたいのか? その理由は、転職エージェントのビジネスモデルが「成功報酬型」だからです。

要は、転職が決まらないと売り上げにならないのです。

「成功報酬型」のビジネスモデル

転職エージェントは、登録した人が紹介した取引先企業の求人の選考を受けて内定をもらい、入社が決まった時に採用企業がエージェントに紹介手数料を支払う、成功報酬型のビジネスモデルです。

この仕組みにより、転職をするために使う個人の利用は無料です。採用企業も募集をするだけなら支払いは発生せず(※)、採用時にのみ紹介手数料が発生します。不動産の仲介もこれに近い仕組みになっています。

※厳密には手付金が発生するヘッドハンターもありますが、今回は汎用化するため除きます。同じ「人材紹介」でも異なる世界です。

裏を返すと転職エージェントとは「転職が決まらない限りタダ働き」な仕事なのです。

どんなに担当した候補者が優秀で受けた企業全社から内定を取ろうが、現職に残る決断をしたり、自社エージェント経由以外で受けた企業に転職を決めたら売上はゼロです。

・面談したけど転職活動をするに至らなかった
・転職活動を開始したけど日程調整ができず面接受けられなかった
・明らかに希望と経歴がマッチしていない求人ばかりを希望され全てお見送りになる

などなど、これら全てが「売り上げゼロ予備軍」です。売上にならない可能性が高い人に対応するのは単純にリスクが大きいのです。

「労働集約型」のビジネスモデル

しかも転職エージェントを筆頭に、人材業界はほとんどが労働集約型でもあります。売り上げ=社員の稼働数に近いです。

これらの話を整理すると「決まりやすい人を優先対応して」「たくさん数をこなすこと」が王道となります。

売り上げが0 or 100なので、決まらないと判断したら撤退して別の方に対応するのも必要な行動です。

特に総合型と呼ばれる、業界/職種/登録層/求人が幅広い大手の転職エージェントほどその傾向があります。一定の決定率で損益分岐を担保できれば、あとは営業人員を増やすと売り上げが相関します。

転職エージェントの面談は平日の夜がピーク

忙しいからこそ、貴重な休みや有給は本番に取っておいて、エージェントとの面談は土日に回したい気持ちは分かります。しかしなにも「会社を休んで面談に来ましょう」ということではありません。

転職エージェントの繁忙は平日夜で、17時〜21時が面談を詰め込まれるピークの時間帯です。

筆者も転職エージェントで仕事していたときには、だいたい17時過ぎくらいから「今日も1日頑張るぞ!」と気合を入れていた記憶があります。

就業中の方の面談は、平日定時以降がほとんどです。皆さん、仕事が終わってから=定時以降に面談に来るので当然といえるでしょう。

ちなみに平日お昼の面談は、接客・サービス・不動産業などの平日休みの方か、離職中で終日時間を問わず転職活動に割ける方の利用が多いです。

それでも土日に面談したい方のために

転職エージェントも土日面談を一切やっていないわけではありません。大手でも土日に稼働しているエージェントはありますし、事情によっては個別相談で調整してくれるケースもあります。

特に「転職が決まりやすい人」は土日に希望が通りやすいです。冒頭の一覧表における「応相談」がそれにあたります。

身もふたもない話ですが「土日希望でも会うべき経歴の人」ならば、担当の判断で土日面談=休日出勤することもあります。要は、土日面談を避けたい理由を覆すほどの方です。

具体的には、専門職かつ採用需要が非常に高い方や、一刻も早く転職先を決めたいけど激務な方、すぐに動かなくても本人さえ「転職する気」になれば直ぐ決まるであろう経歴の方などが該当します。

私が働いていた当時ですと、建築施工管理で資格持ちの方は「土日やむなしです!」と休日出勤も厭わずに面談していました。

なぜなら、この条件の方々は非常に忙しいうえ、市場の需要が高いため、知人の紹介で決まることも多く、エージェント登録されたら面談機会を絶対に逃したくないからです。企業も喉から手が出るほどほしい、採用難易度が高い職種の一つです。

そこまでピンポイントな専門職ではないけど「ちょっと話を聞きたい、でも土日がいい」という温度感であれば、転職エージェントの閑散期を狙うのも一つの手です。

具体的には4〜5月、8月、12月あたりが採用が落ち着く時期なので、転職エージェントへの登録者も普段より少なめなのです。

一方で、閑散期でも繁忙期でも売り上げ目標は追わなければなりません。転職意欲が低そう/絶対に土日希望だったとしても、可能性を探り種まきをするためには一度面談をしようという判断に至ることもあります。

この判定基準が下がりやすいのが、閑散期なのです。

土日希望に限らず、「じっくり話を聞いて欲しい」「過去に求人がないと断られたけど再登録してみたい」という方も、閑散期は狙い目です。

以上が、転職エージェントが土日に面談をしない理由です。ちょっとした裏事情を知るだけでも転職が成功する確率は上がるかもしれません。これから転職エージェントとの面談を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

小山 美幸 キャリアコンサルタント
津田塾大学卒業後、大手人材会社で人材紹介事業に従事。採用法人への営業と、転職者個人へのキャリアアドバイザー業務を経験。現在はグローバル展開するHRTeck企業で営業職として勤務。人材業界の現場で培った知見を体系化すべく、国家資格キャリアコンサルタントを取得。子育て中の一児の母。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年11月22日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。