極右「自由党」支持率トップ:難民増加問題が欧州極右勢力に追い風

オーストリア日刊紙「エステライヒ」12月2日付によると、同国の極右政党「自由党」が政党の支持率で目下、トップを走っている。

同紙が世論調査社「ラザルスフェルド」に依頼した世論調査によると、「自由党」が26%の支持を獲得して第1、それを追って野党第一党の「社会民主党」が25%、与党第一党の保守派政党「国民党」は21%で第3党に後退、「国民党」の連立パートナー「緑の党」は10%と5党の議会政党では最下位に甘んじている(同世論調査は11月28日~30日までオンラインで2000人にインタビューした)。

自由党のヘルベルト・キックル党首(自由党公式サイトから)

オーストリアは現在、カール・ネハンマー首相が率いる「国民党」とヴェルナー・コグラー党首(副首相)の環境保護政党「緑の党」の2党による連立政権だが、世論調査結果によると、両党の支持率は合わせても31%に過ぎない。

「ネハンマー政権の活動をどう評価するか」の質問に対し、56%は「不満足」と答え、「満足」は19%、25%は無回答だった。

ネハンマー政権の発足直後、ウクライナ戦争が勃発し、ロシア産天然ガスに依存するオーストリアはエネルギー価格の高騰、物価急騰に直面し、国民経済は厳しくなっている。新型コロナウイルス感染で3年余りコロナ規制を余儀なくされた国民にはフラストレーションが溜まっている。そこにウクライナ戦争が始まり、その影響を受け、月10%を超えるインフレ率で国民の日常生活は苦しくなってきた。

ネハンマー首相の「国民党」とコグラー党首の「緑の党」の支持率が低下している理由ははっきりしている。「国民党」の場合、クルツ前政権時代の汚職、腐敗問題が表面化し、国民の信頼を失っている。ネハンマー首相もクルツ政権下で内相を務めるなど、前政権時代の縁故主義、腐敗問題などの負の遺産を引きずっている。ネハンマー首相自身、先日、国会の「国民党腐敗問題調査委員会」に召集され、野党側に追及されたばかりだ。

一方、「緑の党」はこれまで政治家の腐敗問題の追及、クリーンな政治を看板にしてきたが、「国民党」との連立政権を重視するために野党時代のような批判はできなくなった。その結果、「緑の党」内でもコグラー党首の政権維持路線に批判的な声が聞かれる。ただ、国民議会選挙が現在実施されれば、「緑の党」は最下位に下落する、といった世論調査が出ている。だから、「国民党」との連立を解消して早期総選挙に打って出るわけにはいかないのだ。

ネハンマー連立政権がエネルギー危機、物価高騰への対策で頭を悩ませている一方、野党側は元気になってきた。社民党はネハンマー政権のコロナ対策や物価高騰への対応を不十分として激しく追及し、世論調査で「国民党」を抜いて第一党に踊り出た。

ここにきて「社民党」の支持率が伸び悩む一方、極右党「自民党」が第一党に躍進してきた。その背後には、急増する移民問題がある。2015年、中東・北アフリカから100万人以上の移民が欧州に殺到した時、「自由党」は移民受け入れ反対、外国人排斥、オーストリア・ファーストを掲げて国民の支持を獲得し、クルツ「国民党」と連立を組むまでになった。その後、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(当時)のスキャンダル(イビザ騒動)からクルツ政権から離脱し、野党に下野した。

コロナ感染時代にはワクチン接種反対を掲げて政権を批判してきたが、国民の支持は余り得られなかった。それが今年に入り移民の流入が増加してきたことを受け、移民反対の姿勢を明確にして再び国民の支持率を集めてきたのだ。

世論調査によると、「自由党」のヘルベルト・キックル党首はネハンマー首相や社民党パメラ・レンディ=ヴァーグナー党首を抜いて次期首相レースで第1位だ。ちなみに、同党首は欧州の極右派指導者だったイェルク・ハイダー党首(当時)のスピーチライターだっただけに、その演説は国民の心を掴むパワーを有している。

欧州連合(EU)の統計局「EUrostat」が先月25日、公表した加盟国の8月の難民申請件数によると、EU全体で、難民申請件数は8月、前月比で17%増加した。オーストリアはドイツに次いで難民申請件数が多く、8月は1万4030件で全体の18%だ。人口比でみると、オーストリアは人口100万人当たり1563人の申請者でEUの中で最も多い。同国の今年の難民申請者数は11月末現在、10万1431人で1956年以来、最も多い。難民増加は極右党自由党に“追い風”となっているわけだ。

オーストリアの隣国イタリアでジョルジャ・メローニ党首が率いる「イタリアの同胞(FDI)」が9月25日の総選挙で第一党となり、同党を主導とした右派政権が発足した。オーストリアでも同じように、「自由党」が政権を握る可能性は完全には排除できないが、「自由党」と連立を組む政党がないため、選挙で第一党に躍進したとしても「自由党」主導の政権発足は現時点では非現実的だ。

DKosig/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。