経営者も間違えを犯す不動産投資:不動産事業はBSではなくPL目線で

不動産を生業とする私がここまでどうにかやってこられたのは背伸びをしなかったからでしょうか?ここバンクーバーは不動産価格については1986年の万博からほぼ右肩上がりです。途中、一時的な調整期間を挟んだこともありますが、数年で回復しています。私がかつて開発した住宅も当初売り出し価格に比べて平均でも3-4倍になっています。私も不動産開発を続ければ成功していたのかもしれません。ですが、私は背伸びせず、手持ち不動産を主体に着実に歩を進めるような戦略を選びました。理由は不動産のBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)に興味が湧いたからです。

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手持ちの不動産が2倍になったとしましょう。でもそれはPLにもBSにも基本的にヒットしません。普通はBS上では取得原価のままだからです。不動産を生業とするものはPLが最優先なのです。いくら、手持ち不動産が値上がりしようがそれがビジネスには直接的にはつながらないのです。

たとえば私どもの会社で所有する駐車場ビジネスは一番苦労したカテゴリーです。埋まらなくては一銭もお金を生まないのです。しかし、駐車場を埋めるのは東京と違い、そう簡単ではありません。また北米では昔は車は一人一台でしたが街の中心に住む人は一家に一台です。駐車場は余っています。それをどう克服するか、マーケティングの世界です。

幸い、160台強ある駐車場は月ぎめでほぼ埋まっています。何故かと言えば時間をかけて信用を勝ち取ったのです。特に注力したのがセキュリティ。当地では車上狙いは異様に多いのです。かつては私もずいぶんそれで泣かされました。が、今では設備を強靭化し簡単には破れない駐車場に仕立て上げ、監視カメラでもチェックを入れており改善を施したことで過去5年以上車上狙いの被害が無くなったのです。これは近隣で毎日のようにガラスが割られる状態と明白な差別化です。

商業不動産もそうです。賃料の近隣相場はネットで見ればわかりますが、正直、不動産会社や大家の都合でつけたリース料が並びます。それらは概ね大手企業が払えるレートなのです。私は違う発想をします。この場所でビジネスする個人事業者が店舗を構えればいくら儲かり、いくらの賃料を払えるかテナント目線で逆計算するのです。それが私が提示しているリース料です。

商業不動産はトリプルネットと称して基本賃料、運営費、固定資産税の三本立てで表示します。このうち、基本賃料だけはリース契約期間分は固定になりますが、運営費と固定資産税はその時々の相場になります。とすれば基本賃料こそがビジネスが生み出せる適性支払い余力でありここに注目するのです。残り二つはインフレなど経済状況次第ですからここはテナントさんに努力を促すという明白な仕組みを提示しています。おかげさまで2006年以来、ほとんどテナントの空きが出ません。

不動産の事業とはPL目線であり、これは黙って賃料が入るという生易しいものではなく、工夫に工夫を重ねた上での展開なのです。

日経ビジネスオンラインに「バルニバービ佐藤会長『飲食業こそ、不動産を取得せよ』」とあります。バルニバービ社は国内で93店舗を展開する飲食業です。その記事にこんなくだりがあります。

「今、私たちは積極的に不動産を取得しています。例えば古いビルの建つ5億円の不動産があったとしたら、建物の価格はせいぜい5000万円程度。土地は減価しませんから会計上の償却はゼロです。家賃と減価償却で経費が20%掛かるところを、自社物件を持つことで4%に抑えられます。内装費に1億円かけたとしても、5000万円の物件で20年営業すれば、月に1000万円の売り上げで純利益を15%出すことができます」と。

文面だけでは断言できないのですが、自社物件なので賃料がゼロだから本業の飲食は儲かるという訳です。残念ながら不動産生業の私からするとこの発想はダメなんです。どんな会社でも自社物件に甘えてはいけないのです。というより経営を誤るのです。純利益15%は見せかけ、つまり下駄をはかせた利益なのにそれが見えなくなるのです。

実は私は主軸に2つの会社を持っています。一つは不動産の所有会社。もう一つは事業運営会社です。事業運営会社が自社で持つ不動産を賃借する場合、もう一つの不動産所有会社との契約に基づき、賃料を払うのです。自社が自社にお金を払うわけですね。それもマーケットバリューです。理由は不動産はおまけではないのです。上記の飲食店の発想だと不動産を踏み台にしたおまけの発想になります。これは不健全なのです。

不動産所有会社は賃料収入が期待できます。一方の事業会社は事業収入のほか、投資を含めたキャッシュマネージメントをしているので不動産所有会社が新規物件取得時の際は社内ローンを提供します。これにより不動産所有会社は利払いを経費として計上して税金を抑え、事業会社はしっかり金利を稼ぐという連携プレーをします。これは不動産と事業の重要な掛け合わせなのです。

日経に「商船三井、不動産に4000億円投資 コンテナ依存から脱却」とあります。記事からすると商船三井の本業とは全く関係のない不動産事業に資金を投じるようです。私は80年代後半のバブル期に日本企業が大挙して海外不動産を取得し、その後、会社の屋台骨を揺るがすような事態になったのを目のあたりにしています。というよりその激しい嵐の真っただ中にいました。なので不動産が安定収入源になると思うべきではないと考えています。

彼らはBS主体で物件の値上がり益期待が大きいのでしょう。が、それは不動産市況が上がれば、という淡い期待が前提です。値上がりするまで何年、あるいは何十年もその不動産と付き合うにはPLがしっかりしないとダメだ、という前提を考えないとバブル期の海外不動産投資の二の舞になると申し上げておきます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月5日の記事より転載させていただきました。