これぞ予算委員会②:「外為特会差益」活用策と防衛費等使途の提案

玉木代表質疑(11月28日衆議院予算委員会)の続編です。

前編「これぞ予算委員会①」では、国民民主党(以下「国民」)の働きを評価する第一の理由として、第二次補正予算の目玉政策となった「電気・都市ガスの負担軽減策」と「再エネ賦課金徴収停止」について記述しました。

たとえば北陸電力は、来年4月から「規制料金」の平均約46%に達する値上げを国に申請したと報じられており、電気代上昇を緩和する上記施策は緊急避難的な観点から妥当と考えます。

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本稿では、それ以外の「国民」玉木代表の質疑に言及し、「国民」を評価する理由を述べて行きます。(当該質疑の映像や文言の確認が必要な場合は、下記の添付資料をご覧ください。)

岸田総理!増税するの?国はウハウハ外為特会の活用を!子育て支援!所得制限撤廃を!玉木雄一郎が問う! – YouTube

衆議院予算委員会玉木雄一郎国民民主党代表質疑(11月28日)文字起こし|田村和広|note

議員になる前の玉木雄一郎氏とは

予算委員会は、政府と本質的な議論をするつもりであれば、高度な識見が必要な場です。ここで正面から堂々と政府と渡り合う玉木代表とは、資質面においてどのようなバックグランドを持つ人物なのでしょうか。ここで同党のウェブサイトを参照します。

【経歴】
1993年 東京大学法学部卒業、同年大蔵省入省
1997年 米国ハーバード大学大学院(ケネディースクール)修了
2005年 財務省を退職

(以上、同党ウェブサイトから引用)

要するに93年に大蔵省入省後、留学を挟んで12年間財務(大蔵)官僚だったのです。財務省の仕事は熟知しているわけです。

玉木代表は、決して偉そうに振舞ったりしませんが、実は国家の財務に精通したエリート人材であり、現在政治家として野党党首という立場から国政に影響を与えている人物です。

それでは、「これぞ予算委員会」という議論を列挙して行きます。前稿で挙げた「電気・都市ガスの負担軽減策」を①と位置づけ、以降を②~とします。

「これぞ予算委」②:具体的な「外為特会為替差益の活用」提案

今国会冒頭から玉木代表は、外為特金の為替差益を活用した各種施策」という独特の論戦を総理に挑みます。これは具体的で実現可能性が十分ある提案であり、まさに予算委でなすべき議論を正面から挑んでいる点を高く評価します。

他党も組み換え提案はしていますが、創造性に乏しく実効性に疑問が残ります。具体的で規模も十分な財源策を提案しているのは国民民主党くらいしか思い浮かびません。

また、官僚が用意した答弁であしらわれずに代表質問から始めて予算委の場で更に討議を深めている点も、国民民主党を評価するポイントです。

具体的に議論の推移を見て行きます。

【10月6日国会代表質問】

玉木代表:(外国為替資金特別会計)含み益が相当出ているはずです。機械的に計算しても約37兆円あります。

総理、外為特会の円建て含み益は本年1月に比べていくら出ていますか?

総理、円安メリットを生かすなら緊急経済対策の財源として外為特会の円建ての含み益を当ててみてはどうですか?

国民民主党玉木雄一郎代表質問(第210回臨時国会:衆議院本会議)

対する岸田総理の答弁(要旨)です。

岸田総理:(含み益は)令和4年3月末は1兆円です。

為替相場の安定を目的として将来の為替介入に備えて保有しているので外為特会含み益の、(目的外の)財源化は適切ではない

岸田総理答弁(要旨。以下同じ。第210回臨時国会、玉木代表20の質問への回答)

この質疑における総理の回答は、ちょっと不誠実でした。質問時点は10月6日なのに回答した値は3月末時点という「残念な回答」でした。しかし玉木代表は引き下がりません。それから一か月半後の11月28日、今度は衆議院予算委員会で、下記のような論戦の続きが展開されます。

【11月28日衆議院予算委員会】

玉木代表:鈴木財務大臣、今外為特会ってドル建て円建てでどれくらいあるかご存知ですか?

鈴木財務大臣:1兆2,000億ドル程度だと思います。

玉木代表:合っています。去年の今ごろの為替レートって1ドル115円、今140円ぐらいになっていますから、単純計算しても30兆くらい日本円で増えています。

前回質問時(10月6日)財務省は誤魔化しました金額を、今回玉木代表は自らの手で概算金額を突きつけました。

引き続き質疑を追います。前回は「為替介入になるから円売り・ドル買いはやらない」と逃げた政府でしたが、この間まさに安定を目的とした日本の為替介入と推定される“大規模なドル売り円買い”が複数回観測されました。つまり日本は「数兆単位の円貨」を手に入れたと推定されます。玉木代表はそこを鋭く突きます。

【11月28日衆議院予算委員会】

玉木代表:今回為替介入で外貨を売って円を手に入れています、9.1兆円。この一部を使えば合わせて10兆円くらいなります。

インフレ手当予備費と外為特会からのお金を使って「国民一人当たり10万円のインフレ手当」、経済の回復を確実なものにするためにもやるべきではないですか?

困った財務省は、今度は総理に別の理由を述べさせます。

岸田総理:外為特会の外貨資産は、政府短期証券を元手に保有しているものであり、為替介入で円貨を得た場合、償還期限を迎えた政府短期証券の償還に充てる。これを財源として捻出するということは適当でない

しかしこの答弁に追い込んだ瞬間、玉木代表の論戦勝利が確定します。

玉木代表直近では1998年、数兆円単位で今と同じような介入をしております。しかしその時のお金は償還に回っていません。あの時は167兆円償還しておりますが、全額新しい政府短期証券FBを発行して167兆円、きれいにロールオーバー、つまり借り換えしております。

財務省はよく、「償還しなきゃいけない」と言うのですが、外為特会の負債サイドのこの政府短期証券の積み上げって減ったことがないです。

「外為特会から一般会計にくれるのはおかしい」という議論があるのですが、これを一番やってきているのが財務省です。毎年、数兆円規模の運用益が出て、(略)平成に入ってからでもトータル50兆円くらい繰り入れているのです。

「やったらダメだ」「ダメだダメだ」と言うんだけど、お金が足りなくなったら一番外為特会に頼ってきたのは財務省ですよ。

「財務省がやってきたことをやったらいいんじゃないの」と言っています。特に、円安で国の特別会計がウハウハになっているのであれば、円安で困っている企業と個人を助けるための財源に回せば合理的だということを申し上げている。

よくSNSでは“ザイム真理教”や“Z”などと揶揄されることの多い財務省ですが、具体的にここまで論戦で追い詰めるほど論証できる人は少ない印象があります。玉木代表は財務省出身なので先方の手の内は熟知しているからこそ、私達予備知識の少ない観衆にもここまで明瞭に示すことができたのでしょう。

ここから先の政府側の対応は、「総理の聞く力」が皮相的な姿勢に過ぎないのか、それとも諫言を聞き入れる度量を伴う「為政者の力」なのかにかかっているでしょう。心ある国民は見守るべきでしょう。

「これぞ予算委」③:「防衛予算」提案

その次に玉木代表は、外為特会の差益で手にしたお金の有意義な使途として、喫緊の課題である「防衛費増額の財源」問題の議論を展開します。

【11月28日衆議院予算委員会】

玉木代表:防衛費の話をします。

一部報道で、次の中期防は40兆円台とか、あるいはすごく大きな47兆円という議論も出ています。今がだいたい中期防27兆円くらいですか、5年間で。だから追加で13兆とか、多く見積もっても20兆、次の5年間で必要なわけです。でもここで、円安による為替差益が30兆円出ていますから、このうち一部を使えば「少なくとも今後5年間の追加の防衛費は賄えるのではないか」と思うのです。

そこで総理に伺います。このまえ有識者の会議で「幅広い税で防衛費の増を賄う」という提言があったと承知していますが、総理としては法人税や所得税の増税を考えておられるのですか?

岸田総理:防衛費につきましては、これをどのように賄うのか、具体的な税目については今議論が続いている最中でありますので今確定的に申し上げることは控えます。

ここで玉木代表は、防衛費増額の当面(5年間)の財源として為替差益を充てることを提案する一方、“景気を冷やす”懸念のある増税を、今この時に実施することのリスクを挙げて牽制を入れます。

玉木代表:今景気回復、ようやくですね、コロナから戻ってくるこの段階、すごく大事な時です。今回の補正予算についても一つ残念なのは、29兆円というのは評価しているのですが、同時に増税の話をするので合理的な意思を持った人が何を考えるかというと、「今もらっても将来とられると思うから使わない」のです。

「出す話」と「取る話」を同時にするのはやめたほうがいいです。せっかくやった経済対策の効果を減じるので。ある意味人は合理的なので、「将来増税ありますよ」って同時に言われたらやっぱり経済波及効果とか乗数効果が落ちるのです。

そこでまずは「特別会計とか基金で余ったお金とかいろんなものを使って財源捻出する」ということを考えて頂くということが大事だと思います。

それこそ「防衛費の財源、それについて考える与野党協議会を設置して、私はちゃんと議論した方がいい」と思います。安全保障についてはやはり与野党の合意が必要だし、我々国民民主党も増額した方がいいと思っています。しかしいきなり増税に行くことは反対です。

これこそ、予算委員会質疑ではないでしょうか。「国民」の政策内容については、人により賛否は別れることでしょう。しかしそれを直球でぶつけて議論し、予算案へ一定程度の反映を実現して行く工程こそが、国会予算委員会における、国民代表たる代議士たちの本務ではないでしょうか。

ちなみに、立憲と維新の組み換え案は誠にあっさりと否決されて終わっています。内容が薄く、議論も尽くしていないのだから当然です。

おわりに

今国会は、事前の予想通り、旧統一教会問題に多くの時間を使い、政局に明け暮れました。マスメディアと一部野党は、“閣僚の首級”を3つ上げたにもかかわらず目的達成が見えず、4つ目に着手しております(うんざりです)。

「予算」とは、国家存亡の秋には国を救う大戦略となり、為政者による暴走の危険があれば、これを止める“拘束具”となります。まさに国家運営の中心テーマの一つです。他党もまじめに知見を高めて、建設的な議論ができる議員を増やし、政局ではない真剣勝負をして頂きたいと考えます。

また、企業経営では初歩となるBS・PLの観点からも議論をして頂きたいと考えます。そうすることで、学校制度改革の話、艦艇など長期資産と人件費など(費用の性質に合わせて)財源手当てを工夫する話、遠慮なく仮想敵をも想定した防衛戦略の話などが自然に出てくるはずです。税や予算、あるいは国債といったお金の話ばかりでなく、“資産の質”としての教育投資や防衛費の議論などが深まるのです。国民の代表としてもっと実のある議論を要望します。

その一方で、国民の側も「今よりもっと国会における与野党の議論に注意を傾けるべきだ」と私は考えます。良質な議論は大いに評価し、その逆は本質的な論点を挙げて批判することこそが、国会議員たちを牽制しその進化を促すことになるからです。

前稿と本稿「これぞ予算委員会①・②」は、その考えを自ら実践するために致しました。