30年札幌五輪の可能性は?:電通が絡まない開催は可能かという宿題

2030年の冬季五輪の最終決定を23年9-10月頃に開催するIOCの総会で決定する予定でしたが、それを無期限で先送りすると発表しました。ではその行方はどうなるのでしょうか?二つに一つしかないと思います。最も高い可能性はいずれ札幌に決定すること、もう一つは極めてスリムな可能性ですが、開催しないという選択があると思います。

メディアによると現時点で30年冬季五輪に手を挙げているのは札幌、アメリカのソルトレイクシティ、及びバンクーバーとなっています。しかし、バンクーバーは100%可能性はないのです。10月の頃だったと思いますが、当地CBCニュースでBC州政府がバンクーバー冬季五輪の誘致を支持しないと発表済みなのです。

大倉山ジャンプ競技場 Wikipediaより

これは2010年開催の冬季五輪が経済的メリットを生まず、最終コストが膨大になったことがあります。私は当時、自社で管理していた駐車場を一時的にIOC本部の駐車場に転用したことなど一定の関与があり強い記憶に残っています。ただ、周りから聞こえてきたのは規制線を厳しくしたことで一般の人の動線が限定され、ごく一部の事業者を除き、ビジネスに全くつながらなかったという怨嗟の声です。

もちろん、当地の人は開催地としてのプライドは今でも持ち続けていると感じていますが、まだ、あの記憶が明白に残っている中でまた近いうちにやりたいか、と言えば否なのでしょう。特にコロナからの回復過程にある中で州の財政なども余裕があるわけではないのです。

ではソルトレイクシティですが、28年の夏の五輪がロスアンジェルスなのです。その2年後に同じ国、地理的にもさほど遠くない場所で開催するのか、という訳です。その次の34年大会ならまだあり得ると思いますが、いくら何でもIOCもそこまで踏み込まないだろうと思います。

そのような消去法で行くと確かに札幌しか残りません。だから山下会長が「驚いた」というのは絶対の自信があったからとも言えます。

IOCが躊躇したのは当然ながら東京五輪を巡る汚職事件の行方だろうと思います。オリンピックに絡み、常に様々な賄賂などの問題がついて回ってきたのは歴史的事実です。ただ、今回、たった一人の理事の暗躍で日本のクリーンなイメージを反転させた点は重く見ているのでしょう。当然、日本の世論が五輪誘致をどう思っているかにも着目していると思います。

その中で橋下聖子氏が11月末に「(札幌開催について)非常に厳しいと思う。札幌市や北海道の皆さんに、今回の事件が2030年の大会とは全く別だとは思われていないのが現状であり、そういったことが明確にされないかぎり、なかなか今の支持率から上がっていくのは難しい。1日も早く事件が解明され、新たな誘致のスタートが切れるようにしなければならない」と述べているのです。私はこの記事を目にした時、やや唐突感がある発言だと思ってみていたのですが、多分ですが、橋本氏はその時点で既にIOCから状況を説明されていたのだと思います。6日のIOCの発表で腑に落ちました。

ではIOCが気持ちよく札幌を推挙するにはどうしたらよいか、ですが、二面から考慮する必要があります。一つはいまだ、事件の全容解明に至らない中で、日本の世論が盛り上がるかです。旧皇族の竹田恒和ルートの結論がまだ出ておらず、全体像を解明するにはまだ相当時間がかかり、国民も判断できないのではないかと思います。

もう一つは今回の汚職の原点は元理事の暗躍でしたが、その元理事が勤めていた電通という特殊で非常に政治的でブラックボックスに包まれたこの会社が札幌五輪が開催されることになって再び幅を利かせるのか、という疑念です。つまり、IOCは電通が一切絡まない札幌五輪開催は可能か、という宿題を提示したのだとみています。

私は広告代理店の業界に詳しいわけではありません。ただ、広告代理店上位6位のうち3社が今回の汚職で引っかかっています。とすれば博報堂を中心とした体制で出来るのか、これが課題だろうと思います。

最後に本記事に関してメディアのタイトルが微妙で興味深いものでした。「30年冬季五輪、IOCが決定先送り 宙に浮く札幌」(日経)、「札幌への『逆風』ではなく『配慮』 2030年冬季五輪決定の先送り」(朝日)、「30年冬季五輪、24年決定か 札幌招致に猶予期間、来秋から先送り」(産経)などとなっています。個人的には朝日のタイトルが一番まともな気がします。日経はレベルが低すぎ、産経と東京新聞が24年決定か、と踏み込んだところは評価します。

そもそも冬季五輪は地球温暖化現象もあり、開催できる場所が極めて限定されてきています。今回候補に挙がっている三拠点はその点は安定感がありますが今後、新たな都市が手を上げられるのか、私には大いに疑問が残っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月8日の記事より転載させていただきました。