出版流通大手の日販とトーハンが、2022年の年間ベストセラー(集計期間は21年11月22日~22年11月21日)を発表しました。(注:調査主体によってランキングはかなり異なります)
年間総合1位は、日販、トーハンともに和田秀樹氏の『80歳の壁』(幻冬舎)です。累計で53万5000部にも達しているそうです。和田氏は『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)を7位にもランクインさせ、もはや国民的作家と言ってもいいのではないでしょうか。専門の精神医療から脳科学、受験産業といった世の中のニーズを的確にとらえ続ける和田氏のマーケティングセンスには驚かされます。
第2位(以下、日販によるランキング)は、2021年の年間ベストセラーでは第1位を獲得した永松茂久氏による『人は話し方が9割』(すばる舎)で、続編『人は聞き方が9割』も合わせ、さらに売り上げを伸ばしました。これだけ読まれれば少しは職場がよくなりそうですが、そういった話はあまり聞きません。
第3位の厚切りジェイソン氏の『ジェイソン流お金の増やし方』(ぴあ)や、9位の両@リベ大学長氏による『本当の自由を手に入れる お金の大学』(朝日新聞出版)など、お金をライトに書いた書籍が上位にランクインし、世相を表しているように見えます。
4位は、F氏による『20代で得た知見』(KADOKAWA)で、2020年の出版ですが、エッセイというかポエムというか自己啓発というか、独特の文体で読者を鼓舞する作品です。漠然とした不安感や焦燥感を捉え、時代の空気を表している作品が好評を博しています。
5位は、逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)で、文芸書の中では非常に健闘しました。1942年の独ソ戦でドイツ軍に村を襲撃され、ひとり生き残った少女セラフィマが狙撃兵として生きていくという、壮絶な筋立てかつ複雑な背景の物語で、これがベストセラーになるのはなかなか驚きです。ただし、今年も文芸書には厳しい年になったようです。
6位には、大川隆法氏『メシアの法「愛」に始まり「愛」に終わる』(幸福の科学出版)が入り、12位、14位には、『WORLD SEIKYO vol.2』 『WORLD SEIKYO vol.3』(聖教新聞社)が入っています。心の拠り所を欲するのは、高度成長期から変わっていないのかもしれません。
また、10位のたつき諒氏の『私が見た未来 完全版』(飛鳥新社)は、東日本大震災を予言した書として話題になった本の完全版として2021年に出版され、またたくまにベストセラーとなりました。
「老後」「健康」「お金」「生き方」「信仰」「予言」といった、ある意味で非常に現実的なテーマの本が売れ筋となっています。一度売れた本が売れ続けるということから、「損をしたくない」という消費者意識がますます高まっている様子がうかがえます。
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一方、漫画ランキング(オリコン調べ)では、211万部を売り上げた『呪術廻戦 18巻』(集英社)で、部数は漫画のほうが圧倒的です。
出版科学研究所の調査によると、昨年2021年の紙と電子出版市場は1兆6742億円で3年連続プラスとなっています。2022年はどうなるでしょうか。