トランプ2.0は必然だった
中間選挙を経て一躍時の人となり、日本国内でも知名度が広がりつつあるロン・デサンティスフロリダ州知事は「トランプ2.0」とメデイアから名づけられている。実際のところ、彼が登場する以前から「トランプ2.0」が登場することがささやかれており、ドナルド・トランプ前大統領の共和党内での影響力を鑑みた時、それはある意味では必然だった。
トランプ氏は岩盤支持層の熱烈な支持を獲得しており、度重なるスキャンダルや不祥事が出てきてもトランプ氏に対する忠誠心を保っている。同時にその人たちは党内の予備選へわざわざ投票しに足を運ぶ人たちでもある。それゆえ、予備選で勝つに最も手っ取り早い方法はいかに自分が「トランプ的」であるかをアピールすることになる。
デサンティス氏も上記の政治的計算を働いた一人でもあった。彼は2018年に初めてフロリダ州知事を目指した際に、広告動画でこれでもかと言うほどトランプ氏に媚びた。動画中、彼は自分の子供におもちゃのブロックで「壁」を作らせ、トランプ氏の著書を読み聞かせ、「アメリカを再び偉大に」とプリントされた服を着せていた。結果的に、彼はトランプ大統領の推薦を得ることができ、下馬評を打ち破って、党内の予備選で勝利を収め、フロリダ州知事の一期目を手にした。
陰謀論者トランプ
デサンティス氏はトランプ氏と自分を限りなく同一に見せることに成功したという意味では「トランプ2.0」と呼んで差し支えないだろう。また、民主党と共和党の主流派、その他既得権益に対し攻撃的なスタンスを取ることについては、これもまたトランプ氏と瓜二つである。だが、決定的にトランプ氏とデサンティス氏が違う点は陰謀論への傾倒の度合である。
そもそもトランプ氏が政治の表舞台に躍り出たのは、オバマ氏がアメリカ国籍を有する権利が無いことを立証しようとしたバーサ運動が契機だった。この陰謀論は、オバマ氏がハワイ州で生まれて、アメリカ人の母親を持つ時点で一蹴されるべきものであった。だが、初の黒人大統領に対する人種差別的な反動から、バーサ運動は意外な盛り上がりを見せ、トランプ氏が運動の急先鋒に立っていた。
議会襲撃事件に帰結した、2020年大統領選は不正選挙だったというトランプ氏の持論も、陰謀論者として片鱗を見せつけるものであり、最近では集会でQanon信奉者にも秋波を送る場面が見られる。
一方のデサンティス氏は陰謀論と距離を置いている。そのことは、トランプ氏より万人受けする政治家に見られることを可能にしている。共和党内の反トランプ層やオバマ元大統領とバイデン大統領に投票したイーロン・マスク氏がデサンティス支持を公言していることがそれを証明している。
トランプ岩盤支持層を体現するグリーン議員
陰謀論への傾倒、敵と見なすものへの攻撃性を「トランプ2.0」の必要条件と定義づけるならば、デサンティス氏よりも、共和党下院のマジョーリ・テイラー・グリーン議員が本当の「トランプ2.0」なのかもしれない。
以前の拙稿で記したように、グリーン氏は当選直後から陰謀論者として目されており、それが一因で民主党から下院委員会に所属することを拒否された。2020年の大統領選が不正であったという主張も現時点で撤回していない。
また、バイデン大統領、民主党に対して極めて好戦的でもあるバイデン大統領が就任した直後に彼の弾劾を求める決議を提出しており、彼の政権が南部の国境管理よりウクライナ支援を優先していると批判し、米国のウクライナ支援を停止することも示唆している。
そして、本当の「トランプ2.0」である彼女に、熱狂的なトランプ支持者でもある共和党の岩盤支持層は熱烈に支持している。ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、2021年の献金額において、グリーン氏は212名の共和党下院議員の中で4位につけた。また、彼女は当選して最初の三か月で、320万ドルもの政治献金を受け取り、ほとんどが少額の献金、つまり草の根支持者から送られたものだった。
今後の政局を握る存在に
グリーン氏は一年前と今では置かれている状況が大きく変化した。約一年前、彼女は過去のSNS上の発言を批判され、上記でも述べたように委員会への所属を拒否され、議会内の仕事をほとんどせずにこれまで過ごしてきた。
だが、今では、下院議長になることが確実視されているケビン・マッカーシー議員から委員会に復帰することが約束されており、彼女が中心となりウクライナ支援の中身を精査することになるだろう。
ここまでトランプ氏と政治家としてのスタイルが近いグリーン氏が共和党内で力を持ち始め、重宝されているように見えるのは意外かもしれない。中間選挙でトランプ氏の存在がマイナス要因だったことを考慮すれば猶更だ。だが、岩盤支持層抜きでは選挙が戦えないと党内指導部が考える以上、共和党はトランプ氏の分身であるグリーン氏への配慮を欠かすことができないでいる。