金融機関が顧客に資産状況を聞くのは無礼であろう

金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」の第6原則のもとで、金融機関は、「顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握」しなければならないが、こうした質問を顧客に対してすることは、トンカツを注文した顧客に、飲食店が健康状態を聞くことと同じである。

確かに、ホテルのレストランなどでは、メニューにカロリーやアレルギー成分を表示しているし、飛行機の機内食にも、そうした表示は珍しくないが、その前提には、顧客のほうで、自分なりの健康管理をして、自分の意志で、店を選び、食べるものを決めていることがある。それで健康管理上の問題が生じない程度には、誰でも食品に関する知識をもっているのである。

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顧客が商品を知っているから、商人は顧客に聞く必要がないのである。それに対して、金融庁の顧客本位は、顧客の無知や誤解の可能性を前提にしているのである。実際、例えば、男性が女性用の商品を購入しようとしているときは、商人は念のために確認の質問をするであろう。これは商業の常識に適った顧客本位である。

金融庁は、金融機関が顧客の無知や誤解を利用し、自分にとって都合のいいものを押し付けているのではないかという疑念のもとで、顧客本位の徹底というとき、金融機関に、積極的に顧客の誤解を解くように、望ましくは、顧客を賢くするように求めているのである。

顧客本位のもとで、飲食店がアレルギーを確認するときには、商業の常識に適っても、健康状態を聞くとなると、どうにも商業の常識には収まらない。実際、金融機関が「資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」を聞くことは、顧客の無知や誤解の可能性について確認することを大きく超えていて、顧客本位ではあっても、それを商業の常識のなかで実現するとなると、かなり難易度の高い話法の実践が求められる。

例えば、資産状況を聞くことは、社会通念上、極めて無礼なことであって、直接的な質問は不可能である。そもそも、顧客の側に答える必要性が全くないのだから、聞いても無駄である。もっとも、世の非常識が罷り通る金融界だから、真面目くさって本当に聞いてしまう馬鹿な金融機関もあるのであるが。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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