京都府八幡市の「八幡人権フェスタ2022」で『本当は怖かった江戸時代』というテーマで講演しました。主たるテーマは日本を身分差別や男女差別の徹底で最悪の人権が守られない国にした江戸時代について語り、そののちに、おまけとして現代における人権を国際的な視野から論じました。
この記事はそのレジメです。
江戸時代を「地上の楽園」のようにいうのはおかしい~封建思想が徹底され人権がもっとも無視された時代だった
「江戸に学べ」という物言いが流行している。環境重視だった、平和だった、地方分権だったなど色々いうが、はたして江戸時代の人は本当に幸福だったのだろうか。明治維新や文明開化のために日本は悪くなったというのだろうか。
黒船の来航をきっかけにして江戸幕府が終わったのちの、明治国家による近代化は、世界史上でもまれに見る成功した改革だと国際的にも評価されて来た。世界トップクラスの豊かな国でいまあることも、そこに至る一世紀余りの歴史がおおむね正しかったことを示している。
ところが、江戸時代礼賛論者はそれ以前の封建時代を誉めて学べというのである。この腑に落ちない賛辞は、どこかで聞いた呼びかけに似ていないだろうか。「北朝鮮は地上の楽園」というのである。
そもそも、江戸時代と北朝鮮の現在はとても似ている。世襲の権力による支配、対外的に閉鎖された鎖国体制、それに伴うモノの徹底した再利用、密告による体制維持など同じだ。江戸やピョンヤンといった首都の市民を優遇することで、人々の不満が体制を脅かすのを避ける仕組みもそっくりである。脱北者と同じように、江戸時代には農民の逃散があって、各藩の最大の悩みだった。
もちろん、北朝鮮も悪く言われすぎているところもある。体制の基本は安定し、治安がそんな悪いわけでもない。教育もいろんな意味で片寄っているが、それなりに普及している。いろいろ騒がしいことはいっているが、北朝鮮は韓国と違って海外に派兵しているわけでない。
しかし、決定的にどちらもおかしいのは、自由が欠如していること、「世界の進歩とともに歩み、その成果を国民が受けられるようになっていない」ということなのではないか。
江戸時代を誉める人も、多くの事実に目をつむったり、一面的な見方をしている。
また、安土桃山時代が、貧農出身の豊臣秀吉が天下を取れるような自由な社会であり、宣教師たちが驚くほど女性が輝いていた時代だったのを、朱子学が李氏朝鮮から導入することで封建化した時代だったことも強要されるべきだ。
『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス)
1 餓死者が続出し、はげ山だらけ
餓死者が続出しているのに幕府は平気だった
同じ時代の中国は賢帝が続き大発展していた
はげ山だらけだった江戸時代の日本
平均寿命は短く人口は停滞していた
医者の免許制度もなくとんでもない医療が
2 サドマゾ趣味のでたらめ刑罰
警察が裁判所もやっていた
切り捨て御免は伝説でない
切腹は卑怯な偽装自殺だった
火あぶりや磔が行われていた
3 男女差別は儒教が盛んになったから強化された
戦国時代は大河ドラマでも女性が大活躍~「令和太閤記寧々の戦国日記」の世界
戦国時代の女性の地位の高さに宣教使も驚く
李氏朝鮮から朱子学が持ち込まれて幕府の学問に
日本の歴史でいちばん女性の地位が低かった
4 働くのは嫌いで賄賂が大好きなのが武士
武士は軍人でも官僚でもなく遺族年金受給者だった
会津武士はほとんどが信州人
足軽などは「武士」とはいえない~市民層がいない貧乏武士と内職
「賄賂」が前提だった徳川時代の武士の世界
武士道は騎士道に似せて明治になって偽造されたもの
5 何も変わらないのが理想だった家康
「士農工商」の身分差別が出来上がる
被差別階級を創り出した徳川幕府の罪
檀家制度で牙を抜かれて葬式仏教に
時代劇の江戸市民は現代の平壌市民と同じくらい幸福だった
6 旅は自由でなく、しかも歩くしかなかった
農民の旅はほとんど許されなかった
秀吉の時代から徳川三百年で後退した交通インフラ
「高い、届かない、遅れる、なくなる」飛脚から郵便に
移民も留学もさせなかったことのツケの大きさ・
7 食生活も財政も米のみが頼り
「米」に財政と食生活を過度に依存した罪
衣食住の文明開化で日本人が得たもの
民主主義・出版・写真・通貨・徴兵制
8 教育水準が高かったというのはウソ
藩校は幕末になってから出来て、しかも低レベル
漢学しか教えなかった藩校の教育
寺子屋で仮名だけ習って「識字」になるのか
外国からほとんど情報が入らなかった理由
9 「鎖国」したので植民地にされそうになった日本
植民地化の危険などそもそもなかった
鎖国日本が失ったものはこんなに大きい
朝鮮通信使・沖縄征服
ヨーロッパにおける人権意識の変化とそれをどう受け止めるべきかについて少し体験談を
現代の人権問題についての国際的視点
基本的には欧米の価値観に追随することが賢明である。死刑がなくても犯罪は増えないし、鯨食べなくても困らない。
日本の人質司法はやめたほうがいい。ゴーン事件で大きな信用失墜。
日本は欧米的価値観にアジアで一番近いことは重要である。少なくとも欧米的価値観を邪魔しないことが必要だと思う。
しかし、欧米的価値観もすぐに変わることも事実だ。また、世界のリベラルの主張にはついて行けない過激なものも多い
そういう観点からも、伝統的なものも含む多様な価値観にも理解は必要
日本では女性の地位が低いのか?たしかに社会進出は遅れているが、家庭内での女性の地位は高い。
一方、子供は母親の支配下にあり、離婚するとだいたい女性に親権が認められ、父親は面会権さえ十分に守られない。
私は、社会では女性にもっとチャンスを与えられるべきだし、一方、家庭では男性にもっと地位を与えるべきだと思う。
価値観が変わると云うことでは、1980年代までは、同性愛は欧米では犯罪だった。フランスでは1982年に犯罪で無くなったが、いまは同性婚もみとめられるようになった。それで、自分たちが急に意見を変えて、アジアは遅れていると言うのはひどい。
また、ロシアや中国では逆の動き。プーチンが欧州保守派に人気。社会主義はユニセックス的で子育ての社会化が進んでいたがいまは男女の違い強調の流れ。
アメリカでは中絶についての議論盛ん。しかし、これも程度問題。最近アメリカでは、生まれた直後の子供を殺しても刑事罰に問うべきでないといっている人までいるが、ついていけない人がほとんどだろう。
欧米のリベラルでは大麻解禁が大勢。タバコや酒はだめで大麻はいいとかいうのも訳が分からない。
インドではスターテレビが見られるようになって、女性が自分で洗濯機や掃除機を使いたいと思うようになったら、低いカーストの仕事がなくなると問題になった。
あるいは、ご先祖の思いは無価値なのか?私はそれに過度にとらわれるべきでないが、無視すべきとも思わない。
結局のところ、保守派もリベラル派も互いに相手の主張にも一理あることを認めた上で議論をしないと生産的でないと思う。
※ このテーマでの講演をご希望の方は こちらのアドレスまで([email protected])
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