黒坂岳央です。
ウォール・ストリート・ジャーナルにWealthy Chinese, Fed Up at Home, Find a Haven in Japanという記事が掲載された。その中で中国人富裕層はアメリカではなく、日本への移住に強い関心を示している事情が取り上げられている。
内容を翻訳しながら、持論を交えて取り上げたい。
富裕層が日本へ移住する3つの理由
なぜ日本へ向かうのか?その合理的な理由はいくつかあげられる。
1つ目に日本は犯罪が少なく住みやすいことや、ドルや人民元に対して円安となっていることで日本の不動産を買いやすいのだという。
それからもう1つの理由として、中国の監視体制の厳しさにうんざりしているのだという。記事内では高級マンションに押しかけた役人が高級バッグに消毒液を吹きかけ、バッグが破損。「お金持ちでも人権が守られることはない」というエピソードが紹介されている。「政府の決定で、生活は乱されたり将来逮捕されるリスクは常につきまとう。これは中国からの脱出だ」。そういって東京で不動産業を営む中国人ビジネスマンの顧客は、やはり同胞の中国人である。日本国内で中国経済圏が出来上がっているのだ。
最後にアメリカへの移住が魅力的ではなくなったことで、相対的いに日本が選ばれることになっている事情があげられる。アメリカは近年、移民規制が強化され、その数を大幅に減らした(筆者の過去記事今、アメリカは急速に人口減少へ近づいているも参照されたい)。
アメリカでは今、移民が猛烈に減少している。また、コスト高もネックとなっている。アメリカでビジネスビザを取得するためには、最低投資額として80万ドル必要で、シンガポールに至っては185万ドルが求められる。その一方で日本は約4万ドル以上の資金を投入することで得ることができる。
頭脳流出の中国で国力維持ができるのか?
中国はかつてより、頭脳流出(Brain drain)が問題視されていた。近年、中国は驚異的な発展を遂げ、その人口力を武器に優秀な人材の活躍でアメリカに次ぐ国家へと躍り出た。中国のかつての原動力は「付加価値の低い組み立て製品の輸出」が中心だったが、近年では中国発のプロダクトが世界市場を取るように質的に変化が訪れた。中国ITテックは商品でもサービスでも、アメリカのITメガテックを追うようになり白物家電やデジタルデバイスの存在感も増している。中国は数の力だけでなく、質の力を持った国家へと変わった。
その原動力は優秀な人材であることに疑う余地はない。筆者は仕事柄、ZOOMアプリ経由などで中国人ビジネスマンとコミュニケーションを取る機会があるが、彼ら/彼女らのバイタリティーや合理性、意欲の高さには驚かされることばかりである。中国人に対する悪い印象として「図々しい」とか「責任感がない」といった話があるが、トップ層のビジネスマンについていえばそのような印象はない。
彼ら/彼女らは自力でスキルや技術がなければ社会や時代に置いていかれてしまうことへの意識をしており、絶え間ない努力と行動力に奔走する人も多く見てきた。「日本はこのような人材に勝負し、勝っていかねばならないのか」と恐れを感じることの方が多い。
これまでは安い労働力と人海戦術が国力の源泉だった中国は、頭脳や技術力が源泉へと変わった。だが、そんな優秀な人材から抜け出していっている。これで今後の中国はテクノロジー戦争に勝ち続け、国家を牽引するビジネスを創出し続けられるのだろうか?
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特に今年に入って世界の地政学的リスクは急上昇している。インフレによりダメージを受けた米国、ウクライナ危機でエネルギー危機に見舞われた欧州、ゼロコロナでサプライチェーンと経済が寸断された中国。その他の国家でも、米ドル利上げで自国通貨安に苦しんでいる。だが、日本はグローバルに見れば、ダメージはあるものの比較的健闘しているように思える。
積極利上げせねばならないほど旺盛な消費力のある米国と比べると経済は依然として弱い。だが優秀な人材は日本に目を向けている。世界一のYouTuberやアリババのジャックマー氏も日本を選んだ。世界が混沌とする中で、消去法的ではあれど、比較的優秀な人材が集まるフロンティアになれれば、日本は漁夫の利を得る格好となる。そんなオプティミスティックな可能性は残されているのではないだろうか?
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