機密情報の扱いをどうすべきか?国家安全保障との関わりを考えよ

野口 修司

「今般、海上自衛隊1等海佐が、かつて上司であった元海上自衛隊自衛艦隊司令官に対して実施した情勢ブリーフィングにおいて、特定秘密、秘及び取扱い上の注意を要する情報を故意に漏らし、特定秘密の保護に関する法律及び自衛隊法第59条第1項(守秘義務)に違反したことが判明しました。我が国の防衛に必要な秘密情報を適切に保全すべき防衛省・自衛隊において秘密情報の漏えいはあってはならない事案であり、大変遺憾です。かかる事案が生起したことを防衛省・自衛隊として深刻に受け止め、同様の秘密漏えい事案を根絶するため、再発防止に努めてまいります」

防衛省の発表だ。機密を漏らした一等海佐は懲戒免職処分され書類送検された。一番恐れた露中北への漏洩はなかったようだ。さらに元上司との人間的な関係が漏らした理由らしい。しかし、この種のことには甘い日本。その上司は刑事訴追されないようだ。

筆者は(世界でも数人しかやっていない)エド・スノーデンとジュリアン・アサンジの直接「生」対談を、スウェーデンとモスクワで数回やった唯一の日本人だ。1人で行ったモスクワでは、怪しげな現地ロシア人カメラマンを動かした。まだ分からないが、ロシア諜報に取材内容が筒抜けだったかも知れない。振り返っても(表面的には)問題がなかったので考え過ぎかもしれない。特に反露ではなく反米だったのでよかったのだろう。いま振り返っても当然、機密文書の内容が絡む、センシティブな取材だった。

エドは日本の諜報機関の活動の詳細。ジュリアンは米軍の蛮行だけでなく、日本の原発の脆弱性が関係する機密情報だった。

彼らが機密文書を入手して世界に公開した情報の一部は、米国の「恥部」を明らかにした。国民の知る権利を行使した。「政府は、皆ウソをつく」という世界の常識の観点からいうと大拍手だ。

だが同時に機密は機密なのである。国家の安全保障に関わるから機密になっているのだ。それは人の「生死」に直接関わる。

だからこそ、米国では非常に厳しく扱われる。今回の日本の元上司は、米国なら刑事訴追される。配偶者にも雑談として話すだけで有罪になる。筆者も上記の2人の機密情報の扱いに注意を払った。エドの日本諜報に関する情報は世界で未公開だった。米諜報に読まれないように signal を使った。既にネットに公開されているものは別だが、入手経路と理由は関係なく、機密情報は所持するだけで刑事罰の対象になる。入手したデータを米国に戻る時、PCをハンマーで怖し、海に捨てた。昔CIAに「いくら消去しても簡単に復元できる」と言われたことがあるからだ。

機密情報をどこまで公開するか、そのバランスが難しい。どこで一線を引くかを、筆者は本拠地のワシントンを中心に、国連、NATOなど、世界中の専門家と議論したが、結論など出ない。ケースバイケース。1つ1つ背景情報など、詳細を調べて論じるしかない。

Turbinado/iStock

一方の日本だが、失礼ながらほぼなにも考えていない。上記のバランス云々のレベルに全く届かない。昔から思考停止している。数年前の「特定秘密保護法」も、日本があまりにも「ノー天気」で「極楽トンボ」なので、必要以上の血が流れる。例えば自衛隊員が機密をUSBに入れて、自宅に持ち帰った事件もあった。ワシントンで衝撃が走った。米国が呆れたことが1つの要因で同法は成立した。2013年のことだ。

昔からそう。同盟国とはお互いに命を賭けて守り合うのが常識。だが日本は米国のために血を流さない。大昔、岸元首相が努力した日米安保条約が基本。日本側には9条が全ての言い訳になる。集団的自衛権も「賛成ですか?反対ですか?」と、大手メデイアが聞いた。目が点になる。世界が笑った。軍事同盟の基本中の基本、根幹の概念は「集団的自衛権」ということさえも知らない「極楽トンボ」。「賛成?とか反対?」とか、メデイア自身も世界を知らない日本人、分かっていない証拠だ。

ここの部分は安倍元総理の功績だ。世界では当たり前の「集団的自衛権」などに彼は政治的生命を賭けた。安全保障に関しては、日本では稀有の政治家と言える。及び腰の岸田。9条改正は安倍氏への銃撃で、かなり先になってしまった。本当に彼の死が悔やまれる。

つい最近も日本のメデイアが報じた。「軍備増強ですか?」「外交ですか?」また目を疑った。この2つは一線を引くことが難しい。外交は最初から存在する。それが破綻して戦争になる。外交は姿を変えて、水面下でもどこでも、最後まで戦争中も継続している。軍備は外交力を支える重要な要素。2つはお互いに絡み合って事態を動かす。にも関わらず、2者択一という「無知」。なにも分かっていない。

基地提供で極端な片務が成立している日米条約は、世界でも他にない軍事条約だが、実際に血を流す可能性がある一般米国人男女と米議会が知ったら、騒ぐ可能性がある。それが1つの理由で、地位協定の改定をやらないことも、ドイツと比べて日本が有利な部分もあるのも知らない。完全否定はできないが、米国に頭が上がらない日本政府が、改正を強く言えないと思い込んでいる。

大統領選挙中にトランプが演説した。日本は米国のために血を流さない。防衛予算も公平ではない。こんなことで良いのか?聴衆は大拍手だった。トランプもその少し前に事実を知った。多くの米国民もその時初めてだ。米国民と議員の多くは、日米の防衛義務に関して信じられない不公平さをいまでも知らない。

沖縄など日本本土はともかく、米国には小さな存在の「尖閣」などが中共に攻撃された時、米議会と世論が現実を知る。最近ウクライナ情勢でやっと少し動き始めたが、日本が自己防衛でいかにやる気がなかったか、弾薬も1-2週間しか準備していないなど、この驚愕の事実を米議会と米国民が知った時、モンデールやオバマなどが約束した5条発動は無くなり、米軍が動かない可能性がある。

歴代の米政府とそれに原則従う米軍は、日本が血を流さなくて良い理由が米国の太平洋戦略で重要な日本による基地提供、そして歴史的な経緯が背景にあることを知っている。

だが米議会や国民はそんなこと知らない。知っても大きな意味などない。現実論的な視野に立てば、そもそもそんな片務的な不公平は、常識的に受け入れられないからだ。

最近も日本が防衛予算を増額するなら、米の負担も同時に増やして、日本側の負担額を差引勘定で減らすべきという識者もいる。昔、「思いやり予算」という傲慢な言葉が登場した時に似ている。血とお金は同等のものではない。自分は血を流さなく済むのに「思いやり」とは信じられない。安全保障の冷徹な実態が分かっていない。米自身の自国益もあるが、米が機能させている「核の傘」、常に日本近海で動いている核搭載の原潜の活動費用など幾らになるか、日本人の多くは考えたことがない。日本経済を70数年以上支えてきたシーレーン、海上輸送の安全、米国益もあるが、米国が血税を使って保護してきた。それも日本人の多くは考えていない。安保条約そのものと同じ。過去70数年無料の水と空気のような感覚だ。日本防衛に役立つ経費は、近視眼的な駐留米軍の費用だけではないことを知らない。

筆者が10年近く前に書いたが、ワシントンでは常識、しかし日本ではほぼ誰も知らなかったこと。中国の核などの脅威をみた日本が、米国に米の核の傘の威力を維持、高めてくれと数回お願いした事実が最近やっと報道された。米は核拡散を押さえたいため、オバマなどが核の存在を弱める方向性で動いた。トランプよりは少し良いが、オバマは外交音痴だった。理想を目指して、例えば核による先制攻撃をやらないと宣言することなどだ。それを嫌った日本が米にそんなことしないでくれとお願いした。当然、抑止力として日本防衛に役立っている米の核の拡大抑止、核の効果が、弱まるからだ。日本国民の多くは日本政府は廃絶に向かっている。国際社会に働きかけていると信じ込んでいる。とんでもない。逆に米に核の傘の強化をお願いしているのが、世界の常識だ。核の傘運営は無料ではない。巨額の米の血税が使われている。筆者は核抑止の現場。24時間365日いつでも核が発射できる現場も取材した。気が遠くなるくらいの予算、リソース、ストレスが必要だ。

安全保障は殆どなにも考えない一般日本人。日本がお願いして核など米の軍事力に依存していることなど現実を知らないで、駐留米軍経費を元に「思いやり」予算などと、傲慢に言っている。思いやり?情けないし恥ずかしい。

バイデンが大統領就任で、過去なかったと思われることをやった。最初に日米首脳会談をやった理由。日本に対してもっと対中において協力を強化、日本に防衛費協力費を増額することを求めた。

日本は米国の「1つの州」と同じような扱いとかいう「トンボ」もいる。つまり尖閣攻撃でも、自動的に米軍が動いて日本を守るとだろういう甘い考えだ。筆者は40年くらいワシントンで定点観測している。10年くらいまでは肯定できたが、いまは違う。主に日本国内しかいないため、米国の当事者を直接生取材、情報収集もしていない。とんでもない思い込み、米国が日本防衛を自国の一部と同じように考えていることなどあり得ない。

ウクライナは米国にとって同盟国ではない。だが米国は、いまのところ血までは流さないが、血税を使って巨額を支援している。もちろん、冷戦の続き、民主主義(対)権威主義との戦いは、米国内では大枠の共通理解だ。最初は「兄弟喧嘩」くらいに思って、こんな支援までは考えていなかった。プーチンの核が抑止力にいまでもなっている。だがウクライナ人が祖国が無くなる危機感から、若い女性も含めて命を賭けていまでも戦う。当然、背景には民主主義(対)独裁主義という構図が根強くあるが、米国民はそれに突き動かされている。

日本人の一部は「米国兵器産業が儲かるからいいね」とかいう。アイクも昔指摘した軍全複合体。利益が出ているのは事実だが、あくまでも結果。それが理由で戦争開始、継続、拡大はない。米国民と議会が許さない。事実を知らない思い込み。「株の空売りで儲かるからこの戦争を始めた」「この戦争を誘っている、煽っている」という。世界で誰も読まない日本語だから言いたい放題。完全否定証明は無理だが、最悪だ。

ウクライナ情勢を受けて日本防衛に「アジア版NATO」をとかいう無知もいる。NATOが軍事同盟なのを知らないらしい。「集団的自衛権」なにかあればお互いに血を流して守り合うのが基本だ。お人好しの米国以外、上記の理由でどこの国とも組めない。

日本は多分こう言うだろう。自分は「平和主義で9条がある。戦争しない素晴らしい国なので、血を流さないが、万が一の時、あなたは私のために戦って、必要なら血も流して」という。耳を疑う。

9条を言い訳にすることは、70数年基本的に続いた。国際貢献まで逃げていた。最貧国のバングラデイシュでも死者を出す。国連の活動でも、最近まで汗も血も流さなかった。

さらに現実では一線など引けないことが多いのに「専守防衛」と言うのも、日本だけ。笹川平和財団の専門家、渡辺恒雄氏もつい最近明言した。世界では通用しないし、相手にされないことも知らない。日本が国際貢献からも逃げている言い訳だと世界が感じている「9条」と同じ。おまけに「スパイ防止法」もない。今回のように機密情報も駄々洩れ可能性あり。

そんな国と誰が組みますか?

さすがにウクライナ情勢で、少しは変わったが、自衛隊員も災害救助が主な任務で、まさか敵国に攻められ、自分が銃を撃つと思っている人は多くない。最近も日本が攻撃された時「自衛隊も戦うのですか?」と言ったTVキャスターもいた。

昔から公文書の扱いもそう。昔よりは少しは良くなったが、民主主義の根幹、国民が知る権利につながる「情報公開法」の意味や仕組みも大して分かっていない。

本当に驚いたことだが、例えば外務省公文書の機密解除を決めるのは外務省OB。米国のような第三者委員会ではない。身内がどうして「国民の知る権利」が理解できるのか?

国民の知る権利軽視の話の前に、日本は公文書をあまり作成しない。作っても「焼却」「死蔵」「私蔵」だ。

最悪の鳩山総理、民主党政権誕生の時に、霞が関で煙が立ち昇った。どれだけの公文書を焼いたのか、ワシントンで評判になったことを覚えている。

もっと最悪なことに民主党政権は、それまでの日米間の内緒の約束を一部公開した。本当に低レベルだ。DCでは「あんな国とは手を切れ」と言う声も挙がった。

今回の防衛費増額議論でも、当然国民への説明責任がある。だが軍事機密で公開したら、露・中・北が喜ぶもののある。いつどのような状況の時、ミサイルを撃つとか世界にいうかもしれない本当の最悪無知は、日本くらい。

つい最近も、コメンテーターが「抑止力というのは使わないと意味がない」と言った。国際法が禁じる先制攻撃になるかを知りたい気持ちからだろう。これも分かっていない。抑止というのは使う時は終わりを意味する。失敗で破綻したというのが世界の常識だ。こちらがいつ攻撃・反撃してくるかも分からないというのが、露中北による日本への攻撃を止める、留まらせる。これを「抑止力」という。敵からの攻撃、つまり戦争を防ぐ。基本の基本を知らない日本人が多い。

一方、一部その面も否定はできないが、こちらの防衛力増強が敵軍事力増強につながり、軍拡競争になるという論、殆ど意味がない。過去30年の中北の軍事力増強をみるべきだ。日本がどんな悪いこと、増強をしたというのか、それだけみても中学生でも分かる事実だ。

昔は「燃料注入」とかあった。北朝鮮などが日本攻撃する時、後戻りできない行為で攻撃開始と見做される。昔はなかったサイバー攻撃。通常ドンパチが始まる前、静かに始まる。平時の長期間でも、一部の準備は常にやっている。いつ始まったか分からないサイバーを考えると「反撃がいつ始まるのか?戦争をしない日本が開戦するのか?」という問いに殆ど意味がないことが分かるはず。

いつどのような状況で、敵が日本攻撃に踏み切ることを決めるのか、どのようにしたら日本が知ることができるのか。日本独自の諜報力では全く無理、韓国も当てにならない。結局、米国さん頼み。しかし前科数犯。今回のような情報漏洩があると、米国は協力しようとはあまり思わない。当然だろう。米軍の男女の死者が増えるからだ。そこの視点が議論に足りない。

世界には公開しない国会の「秘密会」で、反撃能力に関する国会議員は、詳細を議論するべきだ。米国でもよくやるし「正論」だ。しかし自衛隊を認めない議員までいるので、機密情報が駄々洩れする可能性がある。終わっている。

情報1つが生死を左右することもあまり認識していない。あの戦争中も、艦船との交信で、どうせ「アメちゃんは、日本語など読めないだろう」と、日本語の「平文」で機密情報を送った。その結果、マリアナ沖海戦などでどれだけの輸送船が、日本側の情報を読んだ米潜水艦に撃沈されたか。有名な話だ。

開戦と共に英語は敵性語。勉強も禁じた。一方の米国は開戦の少し前から、日本語学校を作って、専門家を養成。日本側の暗号情報をかなり読んでいた。その結果、情報戦にも大負けして、多数の英霊が亡くなった。本当に悔しい。涙が出る。

米軍は英軍から教訓を学んだ。主にナチスとの戦いから、人工的な暗号はいずれ解読される。だから米軍は自然もの、ナバホ族の言葉を暗号として使った。日本側がそれを読んだという話は聞かない。つまり敗戦まで日本側は機密情報を得ることができなかった。

捕虜になった時の機密情報の扱いも中学生並み。まずは東条が「捕虜になるな、自決せよ」と命じた。しかし、信じられないことに、敗戦直前、自分自身は死に損ねて米兵から血をもらって生きた。本当に恥ずかしくないのか?

戦争中は東条の命令で、死ななくても良い多くの英霊が自決した。家族まで道連れにしたケースもある。

負傷など何らかの理由で自決し損ねて捕虜になった英霊。世界の常識はジュネーブ条約周知などで、姓名と階級くらいを言うだけ。あとは「黙秘権」行使。日本兵は死ねと命令されていたので、なんの準備もしていない。米軍に温かい味噌汁とお握りをもらって大感激。機密情報を話しまくった。虐待もされず、美味しい食べ物までもらって涙まで流したことも、捕虜尋問書も読めば分かる。

兵士を消耗品扱いにする。こんなひどい戦い方を強制する戦争を一刻も早く終わらせようと思ったのも当然。これも直接取材したが「日本軍は早く降伏するべき」と、暗号情報を全部米軍に渡した、硫黄島日本軍の情報将校もいた。

機密情報の扱いと安全保障が何たるかをここまで、直視せず、議論しないで、軽視する国は、世界にあまりないと思われる。

アメリカさんにはいろいろ不平不満があると思います。重要なことです。1年の事前通告で、安保条約は破棄できます。文句ばかりの人でも、なぜか「破棄しよう」という人は殆どいない。本当に嫌なら止めましょう。

日本は本当の独立国になります。

(「9条」も含めた日本憲法を作ったGHQケーデイス中佐、天皇を「象徴」にしたプール少尉に複数回、直接対談した野口修司)