「首相の任命責任」を問う朝日新聞に具体案なし

y-studio/iStock

メディアも識者もわめくだけ

秋葉復興相が公職選挙法違反などの疑惑を指摘され、岸田首相に辞表を提出、更迭されました。閣僚の辞任は10月以降、4人目で、首相が任命した閣僚19人中4人を数えます。民間会社なら役員が4人も続けて辞任すれば、経営トップの首も危ういのに、政治ではそうにはならないようです。

新聞・テレビなどのメディアや識者らが「首相の任命責任を問う」と叫んでいます。「首相の任命責任」という言葉ほど、実態があいまいなものはない。首相に「任命責任」をどういう形でとらせるのか明言しない。言葉をもて遊んでいる空疎な政治ゲームなのです。

公選法違反という法的疑惑(政治資金で身内に多額の賃貸料の支払い)、反社会活動を糾弾されている旧統一教会との関わり、語るに落ちる発言(法相は死刑のハンコを押す地味な仕事)と、更迭の理由は多種多様で驚く。個人というより、政治全体の規範が緩んでいる。

駆け出しの議員ならともかく、閣僚に起用された議員が初歩的、常識以下の失態を次々に繰り返す。こともあろうに最高学府の東大卒、それも法学部卒が2人も含まれている。日本の政治、日本の学歴はどうなってしまったのか。本当の危機がそこに潜んでいると思います。

閣僚候補になる当選回数に至ったら、まず常識テストを含め、大学レベルの試験を受けさせる。合格したら次のステップに進む。不合格だったら勉強をし直し、再試験を受ける。そんなことまでいいたくなります。

民間企業で役員が19人中4人が短期間に辞職に追い込まれるようなら倒産の危機です。社長らは、株主は社会に対する責任をとって辞任かもしれない。それに比べ不祥事に対する政界の処分はなんとも甘い。

「首相の任命責任を問う」の意味を定義していないないから、こうしたダブルスタンダードが起きる。「任命責任」にははっきり定義があるのに、「任命責任を問う」の意味は曖昧です。

「任命責任」とは「役職者がその任に堪えないと判断される時、任命者が人選の責任を負う」ことです。民間企業では「任に堪えない者」が役員であれば退職し、重大な不祥事なら経営トップの辞職、減俸もありうる。

新聞報道では、打倒自民党政治を目指しているような朝日新聞が厳しい論調です。1面準トップでの記事で「首相の任命責任が厳しく問われるのは必至だ」と。2面は紙面の半分以上を使い、「首相の任命責任は厳しく問われ、政権運営は不安定さをますばかりだ」と二の矢です。

3面では記者団とのやり取りを紹介し、首相は「私自身の任命責任を重く受け止めている。政治への責任を果たすことで職責を果たしていきたい」との発言です。「政治への責任を果たす」は首相本来の仕事であり、「任命責任を果たす」こと関係がない。そこを記者らは追及しない。

朝日の社説は「『任命責任を重く受け止める』という言葉もお定まりで、空疎にしか響かない」と、断罪しています。「空疎にしか響かない」は読者が朝日新聞から受ける印象です。「では首相は何をすべきなのか」と、「何すれば空疎でないことになるのか」を書くべきなのです。

こんなに紙面を使ってありきたりのことしか書かない、書けない。憲法68条一項は「内閣総理大臣は国務大臣を任命する」(任命権)を明記し、2項で「内閣総理大臣は任意に国務大臣を罷免することができる」(罷免権)も書いています。

辞表を持ってきても、受理せず「あなたを罷免する」と伝えればいい。安倍政権でも多かった閣僚の更迭も、罷免でなく、辞表受理という前例の繰り返しでした。今後、「辞表」でなく「罷免」にすべきです。少なくともそう書けばいいのに書かない。

日経社説も「8月の内閣改造人事の失敗は明らかで、首相の任命責任は重い。首相は事実の解明と再発防止へ指導力を発揮すべきだ」と。多くの議員に似たような疑惑、不祥事が広がっているに違いなく、閣僚に任命して不祥事が表面化したら、更迭するしかないのが実態でしょう。

読売は「任命責任を問う」は実態がないと考えたのか、社説や一般記事には「任命責任」という表現は出てきません。その社説では「首相の責任は重い」とし、さらに「閣僚候補の政治資金などを事前に調査する『身体検査』も徹底せねばならない」と主張しています。

そんなことは分かりきっています。「身体検査の徹底」ができないからこういうことになる。そこに本質的な問題がある。政治資金の不明朗、不正使用が党内にまん延しているから徹底できない。

候補者本人に「不正、不明朗な事案が明らかになり、閣僚として罷免せざると得なくなった場合は、離党ないし議員辞職する」と約束させておくのはどうか。メディアや識者らは、そうした提案でもしたらどうなのか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。