専門家の予想が当たらないわけ:業界一筋ほど大外しする要素

正月の新聞はその年の展望のオンパレードです。特に昔から目に入るのが株と為替の予想で業界のトップが「それらしい」予想を披露しています。が、ほとんど当たったためしがない、これが現実です。なぜでしょうか?

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予想する側はポジショントークが必要なのです。昔、あるメガバンクの方と話をしていた際、こんなことを述べていました。「新春を含めた銀行の為替予想は顧客のための鎮静剤」だと。つまり、為替相場を見て予想しているのではなく、顧客の顔色を見てこれぐらいならにっこり笑ってもらえるかな、という数字をさもありなん、という説明をつけて提示するというのです。

では誰が本当の答えを知っているのでしょうか?もちろん、誰もわかりません。ですが、少なくとも現場にいる人たちは肌感覚があります。その肌感覚を数値的、理数的、論理的、客観的…にとにかく体裁よくまとめるのがMBA取得の一見賢そうな人たちで、彼らは理屈をこねくり回して経営者を喜ばせるのです。

ではMBA取得者はそんなに偉いのか、あるいはそんなに世界観が優れているのか、と言えばぜーんぜん大したことありません。そこら辺のオヤジさんやおばさんのほうが正しかったりすることもあります。なぜか、といえば専門家には理論武装という縛りがあり、想定外は彼らの頭に存在しないのです。つまり、AIの人間版であります。

ご承知の通りAIは過去のビックデータを基にアルゴリズムなどを含めて将来予想をするものです。オンラインショッピングサイトで「こんなものも売れています」と出るのはそのサイトでの購入履歴や同じような購入履歴の人のデータを基に分析しているのです。ということはもしもあなたが彼女に一年に一度のプレゼントをオンラインショッピングしたくてもAI君は全く役立たずなわけです。なぜなら、データがないからです。

本来、人間は知見や経験などから全く違う世界のことでもある程度想定することができます。応用というものです。例えばアメリカの経営者達は「経営者の渡り鳥」ともいわれ、全く違う業界のトップを次々とこなします。彼らは現場に降りないで経営というものを現場と切り離して管理する手法を身に着けているからです。もちろん、修士課程を取得済みであります。私が感じるにこのプロセスは本当に正しいのか、案外ギミック(手品)ではないかと猜疑心を持つこともあります。本当に仕事ができる人は人心掌握や組織論、株主・従業員・取引先・顧客の四者取りまとめ術といった違う次元の能力が求められる気がします。

今から20数年前、私たちが売り出し平均価格がカナダ史上最高のコンドミニアムを開発するにあたり、上司からこう聞かれました。「お前、平均販売価格1億円のコンドを開発すると言ってもそれを買う人たちのライフを想像できるか?」と言われたのです。つまり場所が良ければいい、大きさがあればいい、品質が良ければいい、それで本当に売れるのか、という疑問です。一方、上司も私もしがないサラリーマン。頂いていた給与では当然そんなレベルのものは買えない、つまり、その域の人たちのライフが想像できなかったのです。

どうしたか、といえば私の周りにいたカナダ人の金持ちの家を拝見したのです。家を見るよりそういう人たちの価値観を聞かせて頂いたのです。こだわりとは何か、です。これは大変勉強になりました。私は販売責任者として売買契約は全て私が売り手としてサインしてきました。その際にただサインをするのではなく、販売担当者から根掘り葉掘り聞きだしたのです。「このお客さんはどういう人?」って。その際の交渉経緯や経験の蓄積が大きく、今のビジネスにつながりました。ではそれをデータ化できるか、と言えばできるかもしれませんが、しないでしょう。それは秘伝のテクニックなのです。AIのように汎用型の情報とはなりえないのです。

中華料理屋にチェーン店がない理由はご存知でしょうか?大衆系チェーンは別ですが、一定レベルの中華料理屋のチェーンは存在しません。それはシェフがその技術、調理方法を公開しないからです。つまり、同じ味の店が生まれないのでチェーン店のコンセプトが成り立ちません。日本でも超一流の寿司、割烹、懐石店は料理人の腕(=技量)が重要なので多店舗展開しません。

私の周りに料理好きな主婦が沢山います。お相伴にあずかると下手な料理屋より素晴らしいです。ですが、100%断言できるのは料理好きの主婦がレストランのシェフはできないのです。それは全く違う次元のビジネスなのです。我々がネットで専門家顔負けの知識武装をしても究極的には専門家には勝てないのは基礎知識と経験値が全然違うのです。

それでも専門家の予想が当たらないのはデータドリブン過ぎるのです。データの向こうに何があるか、そこが見えていないのです。この業界〇十年の専門だから、という人は案外、外します。理由は今の社会は複雑怪奇、奇想天外であり、いろいろな要素が絡み合っているのですが、業界一筋ほと保守的で大外しすることがままあるのです。

日本の問題は専門家集団をつくる土壌が会社組織にないように思えるのです。数年間のキャリアで配置転換を繰り返し、一定年齢になると組織管理が中心で自分で現場を見なくなります。これが真の専門家を生み出せない理由の一つだと思うのです。弊社にいたトヨタ出身の技術者が自分の会社で販売されている自動車のことをよく知らなかったように木だけを見て、森を見るどころか、森の外は全く未知の世界になっていたのです。

専門家の意見は参考までに、という割り切りも必要かもしれませんね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月3日の記事より転載させていただきました。