iPhoneバッテリー値上げに日本人が驚いた理由

黒坂岳央です。

アメリカ・アップル社は3月1日からiPhoneのバッテリー交換を値上げすると発表した。気になる価格だが、iPhone14以前の機種では3000円となっている。これは円安の影響を受けてのものではなく、グローバルでの対応になるという。

この発表に対して、ネットでは非常に反響があった。Yahooニュースでは記事の公開後瞬く間に1000件近くのコメントが寄せられている。対して英語でニュースを検索してもそれほど大きな反応はないように思える。チャンネル登録者が1400万人抱える海外のニュース番組の報道にも、コメント欄ではほぼ無反応だった。

この違いは何か?個人的な見解を述べたい。

Vladyslav Horoshevych/iStock

値上がりの背景は何か?

アップル社からの値上げ理由に対する公式報道は、この原稿を書いている時点では確認できていない。そのため、ここからは推測の域を出ないがまずは値上がりの理由を考えたい。

まずは経営コストについてだ。現在は特に米国において強いインフレが起きている。一時期のピークを打ったとは言え、依然として高い水準に留まっている。問題はその値上げがバッテリーなどの製品に留まらず、製品を分解したり交換作業をする人件費にも強く反映されてしまうことにある。

人件費や材料費の高騰も背景にこのタイミングで値上げを実施した可能性はある。Apple Care+という有料の保証サービスへの誘導もあるのではないか?と主張する人もおり、値上げの主要因は明確はない。

しかし筆者は「アップル社からは値上げの理由は発表されないだろう」と思っている。実際、バッテリー交換の値上げは今回が初めてのことではなく、2018年にも実施されているがその時にもかのような発表は見つけられなかった。

インフレ慣れしていない日本人

件の通り、海外での報道への反響は小さい。これはおそらく、消費者が値上げを受け入れているためだ。特に米国においてはインフレに慣れており「時間の経過で値上がりは普通のこと」という受け止められ方をしている可能性がある。

その一方で、日本企業がこのような値上げをした場合、必ずといっていいほど「これまで企業努力をしましたが、◯◯の原材料高騰で値上げは避けられず、大変申し訳ございません。」といった謝罪や説明をする。それでもネットでは否定的なコメントが寄せられてしまったり、客足が遠のくという事が起きてしまう。これは日本人がインフレ慣れしていないからだと感じてしまうのだ。

日本経済は長きにわたり、デフレに浸かってきた。そのため、古い型の商品サービスの値上げに対して「不誠実だ」と感じてしまう人も少なくない。「最新型ほど値段が高いのは分かる。だが、昔からある商品は開発コストの削減努力などで値下げになって然るべきでは?」という考え方だ。

しかし、インフレ経済下においてはこの考えは禁物だ。企業は以前に販売したモデルでも容赦なく値上げする。物の値段は時間の経過とともに値上げをしていくのが普通である。もとい、通貨の相対的価値が下がるために欲しいと思ったらすぐに買った方が良い。

筆者は2007年から米国の大学に留学したが、学費・寮費は大きく高騰しており当時に比べて倍近くになっている。だが、日本の大学はこれほどドラスティックな値上げはどこにも見られない。そのような学費の高騰をしてしまえば、他大学へ生徒が流れるのは自明の理だからだ。それでも米国は依然として世界中から才能を持つ若者を集める吸引力がある。日米のこの差は大きい。

日本人はインフレ慣れしていない。そのため、iPhoneのバッテリー交換の値上げにサプライズの感情が生まれると考えるのだ。

現在、我が国で起きているインフレがどうなるか?それに対する明確な答えは誰にもわからない。インフレは為替やサプライチェーン、人口動態、地政学的リスクなどあらゆる要素が絡み合って決まるためだ。

一つ明確に言えることは、日本人はこれからはインフレへの準備をしておくべきだということである。日本でビジネスをする日本企業が利益を犠牲に値上げを避けても、海外企業はインフレ要素を売価に反映させていく。インフレ負けしないだけの、個人の収益力、つまりは市場価値や資産運用力を高める必要があるのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。