赤ちゃん1人当たり1000万円支給を「交付国債」で

1. 政府債務とはならない「交付国債」による異次元の少子化対策

赤ちゃんが生まれたら1人1000万円の出産祝いを支給することを提案したい。現在の年間出生数は80万人前後なので、必要となる年8兆円(=1000万円×80万人)の財源は政府の資本、すなわち政府債務とはならない交付国債で賄うべきだと考える。

もちろん日本人を増やすことが目的である以上、日本国籍を有する赤ちゃんに限定するなどの支給要件を定める必要がある。

政策の実施に当たっては、例えば10年間で100兆円の財源枠を確保した上で、その間の年間出生数・出生率の変化、マネーストックの変動額・変動率、そしてインフレ率といった目に見える政策効果を継続的に検証し、修正が必要な場合には臨機応変に政府が対応すべきことも付言したい。

なぜなら、2013年4月に開始された日銀の異次元緩和政策はもうすぐ10年が経過するが、物価安定目標2%を2年間で達成するという当初目標を達成できぬまま、金融政策を修正することができなかった例があるからである。

その間(2013年4月-2022年12月)、日銀保有国債残高は125兆円から564兆円へと増加(差額439兆円)し、また日銀当座預金残高(マネタリーベースの一部)も43兆円から502兆円へと増加(差額459兆円)した。

その結果、年平均伸び率で見ればマネタリーベースは毎年19.35%のペースで激増したが、マネタリーベースは金融システム内部での決済にのみ用いられるに過ぎない。社会全体の経済活動で用いられている「マネーストック」が増加しなければ一般物価やインフレ率に影響しないのは理の当然である。なお、マネタリーベースとマネーストックの違いは極めて重要だが、本稿では紙幅の都合で割愛する。

実際、同期間のマネーストック(M3)は1151兆円から1567兆円へと増加(差額416兆円)したものの、その年平均伸び率は3.39%に過ぎなかった。ここから見て取れるのは、昨年(2021年)に資源価格の高騰や円安の影響によるコストプッシュ・インフレが発生するまで物価安定目標2%を達成できなかった主な原因は、一般物価やインフレ率に直接影響を及ぼすマネーストック自体に異次元緩和政策は効果がなかったことにあると推測される。

またもや紙幅の都合で深くは立ち入らないが、かつて狂乱物価の時期(1972年1月-1974年12月)にはマネーサプライ(現在のマネーストックに相当)の年平均伸び率は20.5%に達していた。同期間のマネタリーベースの年平均伸び率も27.9%に達していたが、このような歴史的事実によって社会全体の経済活動で用いられるマネーストックこそが物価に直接の影響を与える真の原因と考えられるのである。

2. 交付国債とは何か?

見かけ上、交付国債は政府小切手に似ている。まず、政府が記名式(譲渡・担保権設定禁止)の交付国債を個人・事業者に郵送する。将来的にはマイナンバーカードを活用して電子化も可能である。

次に、交付国債を受け取った名宛人が最寄りの銀行等(郵便局や農協・漁協、信金・信組を含む)で現金化する。その後、交付国債を受け取った銀行等は全額を日銀に買い取ってもらい、その代金は銀行等が保有する日銀の当座預金口座に振込まれる。振込まれるといっても、実際には日銀の複式簿記による仕訳上、日銀の保有資産として交付国債の額面金額を記帳し、負債である日銀当座預金に同額を記帳するだけである。結果として、交付国債の仕組み上、最終的には全額日銀が保有することになる。

実は、交付国債は一般の国債とは異なり、政府貨幣(流通硬貨)と同じく政府の資本である。なぜなら、政府の日銀に対する出資比率は55%(日銀法8条)であり、いわば親子会社の関係にあることから、政府と日銀(統合政府)の連結貸借対照表内部での債権債務関係は連結相殺消去され、会計的に政府が日銀保有の交付国債を償還する義務を負うことはないからである。

もちろん政府と日銀との間で法的な意味での債権債務関係が消滅する訳ではないが、仮に政府が日銀保有の交付国債を償還してもしなくとも、統合政府の外部の経済社会に対して一切影響を及ぼすことはない。従って、交付国債は政府の発行する償還不要な無利子永久債、すなわち政府の資本として位置付けられる。

交付国債の利点としてまず、政府債務を増やすことなく、政府が直接市中のマネーストックを増やす金融的手法であることが挙げられる。また、国債市場で流通することもないので、長期金利に一切影響を与えないことも利点といえる。

発行する政府・財務省の側から見ても利点がある。交付国債は現金の収入・支出には該当しないため、財政法及び毎年度の予算書上、歳入歳出予算に計上する必要がない。交付国債の発行に関する法的根拠とその発行上限金額を予算総則に記載することで足りる。そして何よりも政府債務ではないので、財政破綻の懸念も生じない。

では、交付国債にデメリットはないのか。前述のように交付国債は政府が直接マネーストックを増やす金融的手法であることから、マネーストックの変化を常にモニタリングする必要はある。そして、マネーストックの変動額・変動率やインフレ率に対する影響を常に監視・分析することにより、交付国債の発行金額の多寡を臨機応変に調節することが重要となる。

3. 過去の主な例

そんな優れものならなぜこれまで使わなかったのか、という疑問が生ずる向きもあろう。実は、経済学者を含め一般にはほとんど知られていないが、日本が独立を回復した1952年以降、様々な形態(名称)で巨額の交付国債が発行されてきた。

例えば、戦没者の遺族や強制引揚げを余儀なくされた引揚者に対して、弔慰金、給付金などの名目で発行された遺族国庫債券(累計4兆2010億円)がある。政府は律儀にも日銀に対して既に4兆円近くを償還し、現在の残額は2094億円に過ぎないが、これはかつての大蔵官僚が本来償還不要の交付国債の性質を十分に理解していなかったことに起因すると思われる。

平成以降も、1998年2月の金融安定化法による30兆円の公的資金枠のうち、交付国債10兆円、政府保証20兆円が用意された。また、2011年以降の原子力損害賠償・廃炉等支援機構国債(累計10兆5000億円)として、交付国債が東京電力の原子力損害賠償の原資とされていることは日本人のほとんどが知らない事実ではなかろうか。

4. 交付国債を活用して経済社会の再構築を!

巷では自民党内の健全財政・増税派と積極財政派とのせめぎ合いが伝えられているが、交付国債はそのような対立をも超克する財政的かつ金融的に有効な手段である。

交付国債の使い道としては、公共投資として資本的支出に該当するもの、例えば安全保障上の重要施設の周辺区域の土地を外国人に買収された場合、国がその土地の所有権を買い戻し、国有化する際に活用するのがベストである。なぜなら、日銀が永久に交付国債を保有する場合、その交付国債が土地という減価償却しない資産の価値を化体していれば、日銀の財務の健全性の強化にも資するからである。

仮にそうでなくとも、異次元の少子化対策として、未来の「人への投資」、そして日本の経済社会を再構築するためにも交付国債をフル活用すべきことを提案したい。

 


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