新聞・テレビ報道がつまらなくなってきたのには訳がある

ニュースの発掘力が低下

新型コロナの感染が始まってから丸3年になり、第8波が進行しています。感染拡大に反比例するかのように、マスメディアの報道、特に新聞報道がこの3年で急につまらなくなってきたように思います。

以前から指摘されていたマスメディアの基礎疾患に新型コロナによる疾患が重なり、経営上、編集上の病が重症化してきているのです。

部数減と広告収入減で経営が悪化し、十分な人材と資金を投入し、強力な取材体制を組めない。玉石混交があってもネットの情報量、広告量に圧倒される。コロナ感染が障害になって取材源を制限される。政府権力がメディアの囲い込みを強めている。

都市のマンション化が進み、販売拡張のための訪問ができない。見かけの部数を維持するために、コンビニ、ホテルなどに売れる見込みがないのに新聞を送り、返品され損をする。いくつもの理由があり、その悪循環の罠にはまっているのです。

昨日、今日の新聞、テレビ報道を一覧しただけでも、「新型コロナの感染拡大と死者の急増」、「混迷する政権と内閣支持率の低下」、「悪化するウクライナ情勢」など定番のニュースばかりです。もう何年もそうです。新鮮味がまるで感じられず、読者、視聴者に飽きられる。

あとは「大阪湾に迷いクジラ」、「住宅火災による死者発生」、「自然災害の発生」など、ネット情報ですでに知っているニュースばかりです。だれでも書けそうな定番の記事で埋められ、取材を必要としない海外ニュースの転電も溢れ、人材とカネをかけない報道が続く。

昨年10月時点の新聞販売部数はさらに落ち、一般紙は2800万部で、この5年間、毎年200万部ずつ落ちてきました。「大学生ら若い世代はほとんど新聞を読まない」、「主に高齢者しか読まなくなっているところに、コロナ死者のほとんどが頼みの高齢者」という惨状です。

販売部数が減れば、広告収入が落ちる。恐らく広告単価のダンピングが激化していると想像します。食品、衣料、医薬品、家電などのばかでかい広告が主流です。記事情報より、広告を読ませるようなビジネスモデルは先細りする。若い人は見向きもしない。分かっていてもやめられない。

特にコロナ以降、全ページを使った大型の解説記事、特集が増えています。ビジュアル化、カラー化、グラフ化などで、見栄えはよくなっています。その反面、中身が薄いし、頼みの高齢者がそんなに長い記事をよむとも思えない。裏目にでている感じです。

合理的な経営をするはずの日経などは、40頁の新聞のうち3分の1も使って、ESG(環境・社会・・ガバナンス)やデジタル関係のシンポジウム、特集などを連発し企業広告を必死にかき集めています。ほどんどの読者は読まず、抜き取って捨てる。新聞の価値の劣化です。

私がブログで何度か批判したところ、コメントが寄せられてきました。「就活や投資で日経を購読している大学生です。広告ページで企業名や企業の取り組みを知ることが多く、参考になります」と。それって本当なの。

「大学生」というのはウソでしょう。日経の関係者あたりが「大学生」を装ってブログを批判したと想像します。企業広告にはそうした意義はあっても、連日、何十ページものESGだの、GXだのを連発することに違和感を覚えてほしいといっているのです。

新聞社は非上場で、経営情報を公開していません。公開していれば、外部の専門家からビジネスモデルについて様々な指摘、提案が寄せられるのにそれがない。「井の中の蛙」のような経営が延々と続く。

メディアの報道のうち、重要なのは政治ニュースです。特に権力側は報道機関の囲い込みを強めています。「権力寄りのメディアには、首相がインタビューなどに応じる」、「親政権寄りのメディアには政治情報、政府の政策情報をリークする」など、露骨です。

首相が新聞、テレビの最高トップと会食することがあります。会食する相手を選別していると思います。取材でもなく、人間関係の維持を目的とした会食にメディア・トップが応じること自体がどうかしている。

外されたメディアは、特ダネ、独材をなかなか入手できない。そこで反権力的な報道、中立的とはいえない報道に傾斜していく。政府権力のメディア囲い込みが取材力を奪う大きな原因になっています。メディアの報道をつまらなくしている要因はここにもあります。

NHKの新会長が決まりました。ますますはっきりしたのは、政権寄りになってくれそうな人物を起用し、NHKの報道に影響力を行使しようとする政治の姿勢の定着です。

「日銀は政府の子会社」(安倍元首相)と思っている自民党議員は少なくないでしょう。その日銀は異次元金融緩和の泥沼から足を抜けず、もがいています。「NHKも政府の子会社」と考えている自民党議員は多い。それを忖度するようになったら報道内容の劣化は、ますます泥沼から足を抜けなくなっていくのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。