独「主力戦車の供与で決定先送り」:全地域を取り戻せないと考える米国

ドイツ南西部のラムシュタインにある米空軍基地で開催された「ウクライナ防衛コンタクト・グループ会議」は20日、ロシア軍と戦闘するウクライナ軍に今後も軍事援助を行うこと、特に、対空防衛システムの支援強化で参加国は合意した。ただ、最大の課題であったドイツの主力戦車、攻撃用戦闘車「レオパルト2」の供与では、キーウからの強い要請にもかかわらず、ドイツ側は「ウクライナ戦争のエスカレート」に懸念し、歩み寄りを見せなかった。

オースティン米国防長官とドイツのピストリウス新国防相(2023年1月20日、ドイツ国防省公式サイトから)

独製攻撃用戦車「レオパルト2」の作成図(オーストリア国営放送公式サイトから、作成・ドイツ通信)

同会議は、ロイド・オースティン米国防長官が、ウクライナのコンタクト・グループのメンバーを、海外で最大の米空軍基地ラムシュタイン空軍基地にドイツ、英国を含む、約50カ国の代表を招待し、ウクライナへの軍事支援について話し合った。

ラムシュタイン会議開催1日前に就任したドイツのボリス・ピストリウス国防相は会議後の記者会見で、「供与するケースを考え、レオパルト主力戦車の在庫チェックを指示した。ドイツが攻撃用戦車の供与を阻止しているといった情報は間違っている。実際、ウクライナの支援国の間で意見が統一されていない。ドイツとしては関係国と緊密な調整を行い、レオパルトの供与問題もできるだけ早い段階で決定したい」と述べた。

ドイツには主力戦車レオパルトにはバージョン1と2があり、ウクライナは特にレオパルト2を望んでいる。新国防相は、「ドイツの在庫とパートナー国のシステムとの互換性を確認する必要がある」として、「まだ何も決定していない」という。ポーランドとフィンランドは自国が保有するレオパルト2の供与を申し出ているが、ドイツは引き渡しには慎重な姿勢を崩していない。

オラフ・ショルツ首相府は同日、キーウへの武器供与には3原則があると改めて指摘した。具体的には、①可能な限りウクライナを支援する、②北大西洋条約機構(NATO)とドイツが戦争の当事国となることを阻止する、③ドイツ単独で決定しない、の3原則だ。

会議開始前、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ビデオメッセージの中で、これまでの支援に感謝し、「私たちはウクライナの戦場で成果を上げているが、自由を守るための武器が次第に尽きてきた。ラムシュタインでは、ロシアのテロを終わらせるために、航空機、ミサイル、長距離砲などの供給で具体的な決定を下さなければならない」と要請し、武器の引き渡しの緊急性を強調。「ロシアによって開始された戦争は遅滞を許さない。ロシアは現在、最後の力を結集している。私たちはもっと迅速に対応しなければならない。ロシアのテロは長い議論を許さない。クレムリンを敗北させなければならない」と説明した。

米国は既に25億ユーロ相当の追加武器供与を発表している。米国防総省によると、最新の援助パッケージには主力戦車(エイブラムス)は含まれていない。援助内容は、59両のブラッドレー戦車、90両のストライカー装甲車、アベンジャー防空システム、および弾薬などだ。フィンランドは、4億ユーロの兵器、特に重砲を約束した。ドイツは、ウクライナで戦争が始まって以来、ウクライナに33億ユーロの軍事援助を行ってきた。ちなみに、フランスは4日、「軽戦車」の供与を決定、米独両国は5日に歩兵戦闘車を供給する意向を表明。英国も主力戦車を送ることをそれぞれ明らかにしている。

ゼレンスキー大統領は20日夜のビデオメッセージの中で、「我が国の要望について、参加国から多くの理解を得た。ただし、私たちは近代的な戦車を得るための説得・交渉を続けなければならない」と述べている。

ドイツがレオパルト供与問題で決定を避けたことについて、ウクライナのアンドリー・メルニク外務次官はヴェルト日曜版で、「大きく失望した。ベルリンはロシアからの攻撃を受けているウクライナへの武器援助において貴重な時間を無駄にしている。決定を渋るドイツ側の対応は不名誉といえる」と強調した。

一方、オースティン米国防長官は西側の同盟国に対し、ウクライナへの支持をやめないよう警告し、「今はじっとしている時ではない。軍事援助を強化する時が来た。ウクライナの人々は私たちを見ている。クレムリンは私たちを見ている。そして、歴史が私たちを見守っている」と述べ、「必要な限り、ウクライナを支援することは疑いの余地のないことだ」と付け加えた。

ただ、ドイツの主力戦車レオパルトのウクライナへの引き渡しに関する議論では、米国はドイツの立場を支持したという。オースティン国防長官は、ラムシュタイン会談終了後の記者会見で、「ベルリンは非常に長い間信頼できる同盟国であり、将来もそうであり続けると固く信じている」と述べている。近い将来のレオパルト2の供与を見据えての発言と受け取られている。

興味深い点は、米国は現在、エイブラムス型主力戦車の提供を考えていないことだ。米国は明らかに、ロシア軍の占領している全地域をウクライナが取り戻せるとは考えていないからだ。米国のマーク・ミリー参謀総長は20日の会議後、「軍事的観点からみて、ウクライナが今年、領土の隅々までロシア軍を追い出すことは非常に難しい」と語っている。すなわち、米国はウクライナ戦争を交渉のテーブルで終わらせるべきだと考えているわけだ。ロシア側の占領領土を全て奪い返すまで停戦交渉には応じないと主張するゼレンスキー大統領とは明らかにスタンスが異なる。

なお、ドイツがレオパルト2の供与を渋る背景について、私見を述べる。第2次世界大戦後、75年以上の年月が経過したが、ドイツには第2次世界大戦でのナチス政権の蛮行へのトラウマが依然ある。特に、ショルツ首相は冷戦時代の経験もあって、ロシアとの戦いを避けたい思いが人一倍強い。同首相は政権担当以来、「Zeitenwende」(時代の変わり目)という言葉を頻繁に口にし、ウクライナ戦争勃発後、軍事費の急増など安保問題にも積極的に関わってきた。紛争地のウクライナに重火器を供与してきた。ショルツ首相にとって自身のこれまでの政治信条とは異なる決定を下してきた。「Zeitenwende」がそのようにさせてきたというわけだ。レオパルト2の供与問題でも最終的にはウクライナ側の要望に応じる方向に変わるのではないか。同首相にとって、理想はレオパルト2の供与前にウクライナ・ロシア間の停戦交渉が始まることだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。