トヨタの社長が変わる!:なぜ、豊田章男氏は年齢にこだわったのか

トヨタが豊田章男氏の社長退任、会長就任と佐藤恒治氏の社長就任を発表しました。佐藤氏の手腕は全く存じ上げませんのでコメントできませんが、報道を見る限り、良い決断だと思います。

社長に就任する佐藤恒治氏 トヨタ自動車HPより

私が最も高く評価したのは豊田氏が66歳とまだ社長に君臨できる年齢であるにもかかわらず、会長に退く決断を下したこと、次期社長に副社長からではなく、53歳の執行役員、レクサス部門のトップを抜擢した点です。トヨタにおけるトップブランドの経営実績でしょう。豊田氏が社長に就任した年齢と同じ53歳と大幅な若返りを図ったことは着目されます。

なぜ、豊田氏は年齢にこだわったのか、最大の理由は自動車業界が大変革を起こしている最中であり、これから2035年ぐらいまでの12年間で業界図は様変わりすることが想定できるからです。その変革期に於いては持ち合わせている過度なノウハウに囚われやすい人よりもまだ新しいことを吸収し、革新的な変化に立ち向かえるチャレンジ精神がある人が望まれたということかと思います。

人材層の厚さで定評があるトヨタが佐藤氏を抜擢したということは豊田氏はずっと以前から本命の一人として、帝王学を伝授していたのでしょう。

この若返り英断は多くの日本企業に強烈な刺激を与えると思います。特に上場大手企業の場合、人材の層が厚すぎることで年功序列的な忖度が働くこともあります。そのしがらみを断ち切ることが重要です。また、53歳でトップに上がるということは当然30代、40代からその芽があり、会社がそれを大事に育ててきた社風と仕組みがあるものと察します。多くの企業では30-40代は実務畑の渦に巻き込まれ、課長クラスが10年後20年後の経営者育成要員とまでははなかなかいきません。また硬直化した人事システムを採用している企業もあり、年齢的に責任あるポジションにつけない制約がある企業もあります。そこは豊田氏の引っこ抜き的な創業者系企業ならではの人事であるとも言えます。

ではこれから12年間の戦いの火ぶたを切る(佐藤氏が12年間社長をやる意ではありません。トヨタは2035年にレクサスの全EV化を発表済みで、世界各地のEV導入計画もその頃の目標時期が多くなっています)においてどのような経営戦略が予想されるでしょうか?

個人的にはEVへのシフトは不可避だとみています。但し、以前から何度も指摘しているようにEVという車を作ればよいだけではありません。最大のポイントは消費者への啓蒙、次いでインフラ整備です。戦略的には社会的インフルエンサーにまず、EVに乗っていただく、そして、徐々にすそ野を広げていくということだろうと思います。

一方、軽自動車など小型車のEV化は実用面で日本には適しています。地方で日常の足として使うような場合、自宅で簡単に充電でき、普段使いとしての潜在需要は極めて高いとみています。特に地方でもへき地になるとガソリンスタンドがないという問題が今後、確実に生じてきますが、電気なら家で充電できる点でむしろ、インフラの逆転現象が起こりうるとみています。

個人的にはEV専用のプラットフォーム開発に踏み込むでしょうし、場合によってはEVと内燃機関の会社を分社化するぐらいのチャレンジもアリだと思います。分社化が有利だと考えるのは車屋さんに特有の「こだわり」が全社規模の「右向け右」という指令に納得できず、統率感が出せないからです。特に創業家の豊田氏のようにカリスマ性がある場合は別ですが、佐藤氏の場合は「あの若造が…」と陰で言われることも当然起きるでしょう。よってEV推奨派が別会社としてやったほうがよりまとまりが出るのです。そして内燃機関と競わせたらよいのです。

私はこの変革期の行方はまだわからないとみています。EVでも今のスタイルではまだダメでもう少し乗り手を安心させる仕組みが必要です。例えば極寒の場合どうなるのか、遠出してそこでチャージャーがすぐに見つかるのか、あるいは待たずにチャージできるのか、などいろいろあります。私なら日本の旅館が駐車場にチャージャーを整備すべきだと思うのです。そうすれば朝には充電完了ですよね。あるいは完全に充電が無くなった時の予備バッテリーという発想もありでしょう。簡単なアイディアなんですがなかなか誰も思いつかないし、やらないですね。

佐藤氏の手腕に期待しましょう。そして豊田氏は会長として自社や自動車業界を引き続き引っ張るだけではなく、日本経済のリーダーとして活躍して頂きたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月27日の記事より転載させていただきました。