勝ちぬくスタートアップとは:一言で回答できます

「会社を作ります!」という若い方と時々接すると勇ましいな、と思う一方、長く続いてほしいなと願う気持ちもあります。先日のユーチューバーの話ではないですが、世の中のトレンドは猫の目のように変わり、今の流行は明日の廃れです。多くの起業家に共通するのは心に決めた事業の「一本勝負」なのですが、私ならピークは廃れの始まり、と考え、さっさと次のビジネスを考えます。つまり事業も駅伝のようにたすきで繋いでいかねばならない時代だと思うのです。

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中小企業庁の情報によると開業と廃業業種の上位は「情報通信業」「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」とあります。情報通信業と言えば聞こえが良いのですが、ウェブサイト制作請負や一人プログラマーのコントラクト(請負)の方も入るでしょう。生活関連は雑貨や自分で制作したモノを売る人も入るでしょう。これらに比較的共通しているのは腕自慢です。

また開業と廃業率が低い業種は「製造業」「運輸業,郵便業」「複合サービス事業」となっています。とりもなおさず参入へのハードルが高い業種で人も資本も技術も要求されることが最大の特徴です。

起業で勝ち残る方法は何ですか、と聞かれたらたった一言で回答できます。それは

「真似されない、同業者が追い付けない、参入しにくい」

です。逆に誰かのビジネスをみて真似して「俺も、私も…」というフォロワー型起業の場合、ブームの時は良いのですが、すぐにピークアウトして結局、一定のマーケットシェアなりを確保した人だけが生き残る仕組みです。80%は振り落とされるのです。だから「2番ではダメ」という意識が出て、それがシェア争いになり、不必要な価格競争に転じたわけです。

他者を振り切る方法はいくつかあります。許認可で参入障壁や制約がある事業、多額の資本がいる事業、圧倒的なビジネスモデルを持っている事業、追いつかれても次の算段ですぐに引き離せるフレキシビリティだろうと思います。「カンブリア宮殿」でマミーマートが経営する「トップス」が紹介されていましたが、赤字になった経営を立て直したきっかけは誰も仕入れない魚介類が店に並ぶことで客をワクワクさせたことでした。

顔の広い人はコネクションがあっていいよね、と言われることがあります。事業の立ち上げでは便利なのですが、事業そのものは特定の顧客との関係はリスキーです。「当社の事業は〇〇株式会社がバックについている」というのはその上下関係の枠組み以外、展開しようがないのです。先方から「申し訳ないが…」と言われる一蓮托生型でよいのでしょうか?自分の足で立つことが大事ではないでしょうか?

そんなこと言ったら起業なんてできないじゃないか、と言われるでしょう。ここがポイントです。インターネットの時代は世界中がマーケットだと考えます。これが人を惑わせるのではないか、と思うのです。楽天市場が出来た時、今までは近所の商店街のちっぽけな店が突然日本全国展開したような感じになります。その頃はそれでよかったのです。

今は私は違うと思うのです。もっと狭いエリアでよいのでしっかり事業の基盤を作る、これの方が重要だと思うのです。そして絶対的ファン層を確保する、その人たちにアンバサダーになってもらうのです。「広く薄く」から「狭く濃く」です。これが私が長年、起業者マインドをもって事業をしていて感じる変化なのです。

顧客を大多数の一人として扱っていないでしょうか?なぜ、カスタマイズできないのでしょうか?「私はあなたのことを見ています、知っています、だからこんな商品を考えました」というアプローチは顧客を喜ばせるでしょう。AIが普及してきていますが、それでも一般的にはネット販売は待ちのビジネスです。そうではなく、顧客に合わせて攻めるビジネスはオンラインショッピングだけではやりにくいと感じます。

常に逆手を取る、これが成功する起業家にみられるスタンスです。書籍やユーチューブで「成功する起業方法は」というのはよくあると思いますが、それは表面的なごく一般論であり、それを真似してもなかなか勝てません。

最後、もう一つ加えるとすれば創業者の資質です。別に賢くなくてはいけないなどとは言いません。ただ、起業とは全方位のノウハウが必要です。ラーメン店一軒開店するにもうまいラーメンを作る技量だけではなく、何処に、どの規模で、から始まり、従業員や顧客との接点、リピーターになってもらえる方法、さらには店の名前を覚えてもらう工夫や仕入れのやり方もあるし、当然、経理作業もあるのです。そんなの俺にはできない、といって他人にぶん投げていたらダメなのです。自分でやる癖をつける、そしてできない部分を一時的に専門家に手伝ってもらうぐらいの頑張りは必要だと思います。

これから零細企業災難の時代に入ります。大きく淘汰されていくでしょう。人件費を上げる余力がある会社が伸びますから「給与は上げられない、申し訳ない」では人は去っていく、そんな淘汰が始まります。かなり熾烈な戦国時代に突入するでしょう。安売り競争に勤しんでいたところは冬の時代となるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月30日の記事より転載させていただきました。