教皇の発言でキレた独司教会議議長:教会が分裂する危険性も

そこまで言ってしまって大丈夫だろうか、と心配になった。独ローマ・カトリック教会司教会議(DBK)のゲオルク・ベッツィング議長がフランシスコ教皇を「その指導は良くない」と批判したのだ。司教会議議長がローマ教皇を批判するということは、社員が社長を「あなたの会社経営はよくない」と直言した構図と似ているが、ペテロの後継者を名乗るローマ教皇に対して、「あなたは間違っている」と批判することはそれ以上の衝撃がある。その余波は独教会だけではなく、世界のカトリック教会にまで及ぶからだ。

宗教改革者マルティン・ルターの肖像、ルーカス・クラナッハ作(ウィキぺディアより)

このコラム欄で、独ローマ・カトリック教会で進行中の教会刷新活動「シノドスの道」を巡って、カトリック教会総本山のバチカン教皇庁が一通の書簡を独教会司教会議宛てに送り、その改革案の見直しを要求したことは既に報じた。バチカン高官が、独司教会議が改革プロセスで最も重要な意思決定機関として「シノドス議会」の設置を決定したことに異議を唱え、その見直しを要求したのだ。以下は、「バチカンが独教会の『改革』を批判」(2023年1月26日)の続編だ。

「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。独司教会議が提示した主要な改革案は、①ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。③女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。④聖職者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。

それに対し、フランシスコ教皇は昨年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、独教会司教会議の改革案に異議を唱えている(「教皇『教会改革も行き過ぎはダメ』」2022年7月23日参考)。そのフランシスコ教皇は1月25日に発表されたAP通信とのインタビューの中で、「独司教会議が推進する改革はエリートたちが、イデオロギーに基づいて行っているものだ。神の民全体によって作られたものではない」と酷評し、「そこには聖霊が働かない」と言い切ったのだ。そして「社会学的データを教会刷新の根拠とすべきではない。同性愛者や女性の役割に対処するためには、使徒たちの伝統から始めるべきだ。教会の経験だけが本当の刷新の土台となるべきだ」と語っている。

それを聞いた司教会議議長はキレてしまったのだ。同議長は日刊紙ヴェルトで、「昨年11月に教皇と会ったとき、私たちは2時間半、教皇と一緒に座った。教皇は私たちに話す機会はあった。にもかかわらず、メディアのインタビューを通じて、教会の聖職者と信徒が改革プロジェクトについて話し合うシノドスの道を、エリートによるイデオロギープロジェクトと表現し、私たちの改革を批判している」と非難している。

同議長はまた、フランシスコ教皇がインタビューの中で、独身制の見直しについて「イデオロギーに基づく刷新案」と指摘したことに言及し、「教皇自身がアマゾンシノドスでこの聖職者の独身制について討論を許可したはずだ。それを後日、イデオロギー論争と形容し、聖霊が働かないと非難するのは理解できない」と説明している。

独司教会議の司教たちは昨年11月、バチカンを5日間、「アドリミナ」訪問し、教皇らと会談したが、改革案では理解が深まらずに「成果なく終わった」(ベッツィング司教)という。ローマ教皇は既に何度か独教会の「シノドスの道」を批判している。それに対し、ベッツィング司教は、「われわれはカトリックであり、今後もそうあり続けるが、別の方法でカトリックであることを望んでいる」と述べている。

当方はバチカン情報を久しくフォローしてきたが、司教会議議長がローマ教皇を直接批判した例を知らない。同議長の発言を読んで、「議長は大丈夫か、解任されるのではないか」という思いすら沸いてきた。

事の発端は5人の独教会の枢機卿、司教たちが昨年12月、バチカンに「シノドスの道」に参加すべきかを問い合わせたことから始まった。彼らは主に保守派に属する聖職者たちだ。独教会には保守派聖職者と改革派がいるが、「シノドスの道」を多くの教区が支持している。その1人、カール・ハインツ・ヴィーゼマン司教は30日、「フランシスコ教皇はドイツの改革案について正しい報告を受け取っていないのではないか」と推測している。

マルティン・ルター(1483~1546年)の宗教改革の発祥国ドイツでは歴史的に教会改革への機運が漂っている。教会改革の精神が今も流れているといわれる。独司教会議とフランシスコ教皇との関係が険悪化し、修復不能となれば、最悪のシナリオはバチカン派と反バチカン派で独教会が分裂する危険性がでてくる。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。