ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて今月24日で1年目を迎える。ロシア軍は軍の再編成を終え、ウクライナ東部・南部の攻勢を強めてきている。ウクライナのゼレンスキー大統領は欧米諸国から攻撃用戦車の供与を受け、ロシア軍を占領地から追放することを目標に軍事力の強化を図っている。
OSCE議長国北マケドニアのブジャル・オスマニ外相、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談(2023年1月16日、北マケドニア外務省公式サイトから)
一方、欧米諸国ではウクライナで戦争犯罪を繰り返すロシアに対して国際社会やスポーツイベントからの追放を求める声が高まってきている。オーストリアの首都ウィーンのホーフブルク宮殿には欧州安全保障協力機構(OSCE)の事務局がある。20カ国あわせて81人の国会議員たちがオーストリア政府に対し、ウィーンで今月23、24日の2日間の日程で開催されるOSCE議会総会にロシア代表団が出席しないように要請していることが明らかになった。
オーストリア日刊紙「プレッセ」(2日付)によると、81人の国会議員らはオーストリア政府のカール・ネハンマー首相、アレクサンダー・シャレンベルク外相、ヴォルフガング・ソボトカ国民評議会議長ら宛てに書簡を送り、「ロシア代表団に入国ビザを発行しないように」と強く要請し、「ロシア軍がウクライナに侵入してちょうど1年後にロシア議員がOSCEの会議に参加することは、挑発と見なされても不思議ではない」と述べている。
プレッセ紙によると、書簡は、ポーランド、リトアニア、ベルギー、カナダ、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フランス、グルジア、ドイツ、アイスランド、ラトビア、オランダ、ノルウェー、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ、イギリスの20カ国のOSCE代表者によって署名されている。
OSCEは北米、欧州、中央アジアの57カ国が加盟する世界最大の地域安全保障機構だ。日本はオブザーバー(「協力のためのパートナー」)として1992年以来、参加している(日本外務省によると、「日本は、首脳会合、外相理事会等に招待され、会議において発言権を有する。OSCEは経済、環境、人権・人道分野における問題も安全保障を脅かす要因となるとの考えから、安全保障を軍事的側面のみならず包括的に捉えて活動している」)。
ロシア・ボイコット要請に対し、ホスト国のオーストリアのシャレンベルク外相は2日、オーストリア国営放送の質問に答え、「わが国は国際機関のホスト国として義務がある。OSCEとの間の合意に基づき、ロシア代表団の入国を拒否することはできない」と述べている。
ちなみに、オーストリア外務省は2日、ロシア人外交官4人を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として、国外退去を命じた。同省によると、4人が「外交的地位に反する方法で行動した」(スパイ活動など)という。4人のうち2人はロシア大使館、2人は国連のロシア代表部に勤務している。ウクライナ戦争勃発する前までは、中立国オーストリアはロシアとは友好関係を維持してきたが、戦争後、軍事的には中立を維持しているが、人道的観点でウクライナを全面的に支持している。そのため、クレムリンからは「オーストリアは中立主義を逸脱している」と批判されてきた
ロシアをボイコットする動きは国際会議だけではない。来年はフランスのパリで夏季五輪大会が開催されるが、ウクライナ・オリンピック委員会は先月26日、各国際競技連盟(IF)に書簡を送り、「ロシアとベラルーシの選手の国際舞台への復帰が認められた場合、パリ五輪のボイコットの可能性について国内競技団体と協議を始める」と警告を発している。また、ラトビア・オリンピック委員会は1日、ロシアとベラルーシの選手が来年のパリ五輪への参加を許可された場合、大会のボイコットを検討するという。
ロシア・ボイコットの動きに対し、国際オリンピック委員会(IOC)は「ロシアの選手らの国際大会への復帰を条件付きで容認する方針」という。ウクライナはIOCの方針に強く反発、パリ五輪大会ボイコットを世界に呼び掛けている。
なお、米ホワイトハウスのジャンピエール報道官は2日、「ロシアと同盟国ベラルーシの選手による来年のパリ五輪参加について反対する。ただ、両国の選手が国歌や国旗などを使用せず、中立的な立場で参加することは容認する」(時事通信)と明らかにした。
4年に1度開催される五輪大会を目指して日夜練習してきたロシアとベラルーシの選手にとって、参加の道が閉ざされることは辛い。たとえ「中立的な立場で参加する」としてもスポーツ選手にとって寂しいだろう。
プーチン大統領よ、一刻も早く戦争を停止すべきだ。「ロシア・ボイコット」は本来、ロシア国民やアスリートを対象としたものではないからだ。当方が支持できる「ロシア・ボイコット」は、ロシアを国連安保理常任理事国から追放することだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。