年頭に行われるアメリカ版施政方針演説である一般教書が行われ、バイデン大統領が議会に立ちました。そもそも大統領が議会に立つことはほとんどなく、日本の国会運営とはまるで相違します。その様子もまた独特で演説中、大統領が強い言葉を放つと与党議員が立ち上がり、拍手をすることが1-2分ごとに繰り返されます。例えは悪いですが、お笑い番組で20-30秒ごとに笑いを取るのと同じで、シナリオライターの苦心振りすら感じ取れます。議員も立ったり座ったりで忙しいと言ったらありゃしないですね。
さて、今回の一般教書演説の評価も今一つだったようでメディアのカバーも割と少ないように感じます。ただ、バイデン氏は来月にも次期大統領選に出馬表明をするのではないかと取りざたされているだけに、その内容は次期大統領候補としてふさわしいのか、評価する意味ではある程度の分析は重要かと思います。
個人的な感想ですが、バイデン氏が今、最も気にしているイシューは何なのだろうという点が不明瞭なのです。パッと見た感じでは護身のためも含めて共和党対策が一番に感じます。また債務上限問題が何年たってもアメリカ内政の最大の問題であり、今回もそれが毎度の如くクローズアップされています。
すっかり手を抜いてきた外交についても「あぁ、やらなきゃ。だけど体力的にそんな世界中を回れないからブリンケン君に任せようかなぁ」という感じも見受けられます。中国については共存を探るものの脅威が高まれば即座に実行するという姿勢を見せました。気球を打ち落としたのがその姿勢の表れだという訳です。ウクライナに対しても支援継続を打ち立てているものの共和党からの支援予算縮小論との調和も図らねばなりません。一種の調和外交です。
外交的に日本はその点で非常に楽な相手です。日米同盟の強化、深化という枠組みは全く揺らがず、岸田氏はアメリカに足を向けることは1000%ないのです。必要があれば来てもらえればよい、そう見ています。韓国も同様。しかし、世界にはまだ十分手を付けていない外交問題はごまんとあります。中東関係などはほぼスルーです。トルコの地震にも支援を積極的に行う姿勢はなかったようです。
ではバイデン氏の本当の敵は何か、といえばやっぱり、80歳という年齢なのだろうと思います。年齢は重ねると人間の成熟度が増す人も多く、バイデン氏はそういう点ではいぶし銀を放っています。それに逆立ちしてもアメリカの大統領です。多少のポカはあれど酷い醜聞もありません。ある意味、無欲の政治家魂とも言えます。ここは評価しているのですが、年齢を重ねるともう一つの問題、チャレンジ精神の減退がどうしても目立ってきます。カラダを張って勝負に出るという汗をかく仕事もなかなかできません。
その点からすればバイデン氏が民主党を本当に大事にするなら自分が後進に道を譲れるよう人材を育てるべきだと思うのです。私なら絶対に出馬宣言はしません。なぜなら出馬宣言をしたらその時点で民主党内では厭世観的な意欲喪失を招くからです。「いったいいつまで大統領、やる気なの?」です。また共和党からすれば与しやすいとみるでしょう。外交的にも既に手法は分析されていますのでシナリオは描きやすくなります。
バイデン氏が一番苦心している対共和党対策ですが、直観ですが、共和党のスタンスは世界の潮流からして受けないとみています。強硬ですが、長い時間をかけてどんどん衰退していくトレンドを感じています。理由の一つは移民が年間50万人、彼らは共和党支持派にはなかなかならないからです。また、都市化が進み、国民の生活が豊かになればこれまた民主党が有利になりやすいのは残念ながら世の趨勢です。カナダが中道左派で安定し、どれだけ政権がぼろくそに言われても中道右派が太刀打ちできる余地は今のところ、ないのです。
世界がアメリカに期待すること、それは理にかなった裁定者としてのアメリカなのかもしれません。警官ではないとオバマ氏が唱え、トランプ氏も同調しました。バイデン氏もそのポリシーは貫いています。ですが、世界は未だに常にアメリカを見ています。経済、政治、外交、社会、文化…あらゆる分野でアメリカの発信力は未だに衰えていません。故にしっかりした裁定者になってもらうこと、クレバーなアメリカになること、その為には圧倒的な信任を得られるリーダーシップが求められると言えましょう。
アメリカも過渡期です。このまま成熟し、衰退するのか、Rebornできるのか、私は次の大統領選びがそのキーになるとみています。バイデンやトランプという古い名前は必要ないのです。刷新すべきでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月9日の記事より転載させていただきました。