ビル外壁点検資格である「ドローン建築物調査安全飛行技能者」が設立されました。
2023年1月24日、幕張メッセで毎年「Japan Drone Expo」を主催する一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の開講をしました。
【外壁点検】専門パイロット育成 JADA/JUIDA「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」開講式典開催のお知らせ
ここまで至るまでに中野区における実証実験が大きな役割を果たしたことを報告します。
私はこれまでに同実験に関係するコーディネーターを担い、逐一、当サイトでご報告をさせていただきました。
キーワードは「ドローンの方が人よりも安全」。
ここから始まったプロジェクトはひとつの形になったわけです。これまでの経緯をエントリーした記事に沿って、ご説明します。
① 2019年11月16日 ドローン、23区内の空を舞う:都市部での建物診断に活路
まず初めに中野区役所(高さ37.9メートル)の前面で実験を行いました。
まだオリンピック開会式のドローンショーを見たことがない2019年当時は、都市部におけるドローン飛行の許可は難しく、許可を得たとしても、住民から見つかれば警察への通報されるような時期でした。
都市部でのドローン利用は1に安全、2に安全でなければなりません。
下図に示す中野区役所の調査範囲は一般の方が入れない3階の屋上庭園であるために安全が確保されております。
かつ上下端を固定したラインにドローンを括り付け、操縦不能になった際も人に危害が加わることがないように留意しました。
このドローンで撮影された映像を基に外壁点検を致します。これは都内で初めての試みとなりました。本実験は建築研究所と西武建設株式会社が実施しました。
② 2020年3月19日 ドローンの方が人より安全か?中野サンプラザの建物診断で実証実験!
中野区役所の実験で安全性の確認ができたために中野サンプラザ(高さ92メートル)で実験を行いました。
様々な定義はありますが、92メートルはどの分類でも「超高層ビル」に該当します。
都市部における超高層ビルのドローンを活用した建物点検の実証実験が全国初で行われたわけです。
ドローンを括り付けるラインおよび釣り出している棒は、マグロを釣り上げるための釣り竿と糸であり、多少の衝撃で壊れるものではありません。
③ 2021年12月16日「ドローン、大都市圏突入!!」中野区において準備中
2021年5月6日、中野区は国立研究開発法人建築研究所、一般社団法人日本建築ドローン協会及び一般社団法人日本UAS産業振興協議会との4者で、ドローンを活用した共同研究を実施するため、相互協力に関する覚書を締結しました。
そしてドローンを活用した多様な建物診断方法を検討してくため、さらなる安全性の検証が必要であるため、福島県南相馬市にある福島ロボットテストフィールドにてドローンの自由落下による破壊検査を行いました。
落下により破損することはなく、落下地点周辺以外に危険が及ぶことがないことが確認できました。
④ 2022年1月26日ドローン、レベル4飛行突!!:中野区での飛行実験実施の様子
2つの実験を行いました。
【実験1】中野サンプラザの外壁調査実験
②で取り上げた実験は垂直移動のみでありましたが、ラインを斜めに設置することで広範囲の撮影が可能になります。
中野サンプラザが三角形であることがポイントでありましたが、下端の位置を移動させることで点検範囲を撮影することができました。
令和5年1月26日、国土交通省航空局に示された無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドラインでは、このライン(主索)から連結索をつなぐことで、さらに30メートル範囲を拡大して移動できるようになりました。
【実験2】中野サンプラザと中野区役所間の建物間移動実験
飛行中のドローンがトラブル等の不調に陥った際に、比較的人の少ない屋上に着陸することを想定し、ドローンが中野サンプラザの屋上から離陸し、中野区役所の屋上へ着陸する実験を行いました。
上述の実証実験から都市部におけるドローンを活用した建築物調査の安全性が確認されました。
一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)は、『2点係留装置「西武建設式ラインドローンシステム」による外壁点検安全運用技術』を技術評価委員会で審査し、「建築ドローン技術評価書」として交付しました。
JADA「建築ドローン技術評価」取得技術(JADA-技術評価 2021-T001)の紹介
当プロジェクトの現場責任者であるJADAの二村注1)は中野サンプラザ、100mのタワーマンションにおけるドローンを活用した建物点検についてとりまとめており、当手法の安全性について言及しています。
またリスクの高い都市において、ドローンの普及が促進されない現在、安全性の高い係留を使用し、除々に認知向上させることこそが、ドローンの普及に繋がる。言い換えれば外壁点検のみならず、我が国にドローンを普及させるためには、安全第一であることを墨守することが、最も近道であるとの考えを示しています。
そして、JUIDAとJADAは2022年6月に教育事業の覚書を締結し、「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の創設に取り組み、2023年1月に開講の運びとなりました。
建築物の外壁点検・調査において、ドローンの利活用により作業のコストダウン、工程短縮及び人材不足の補完が期待されています。
私が都市部におけるドローン活用を切り開くためのアイディアを生み出し、関係各所へお願いに伺い、できたチームは未来を見据え、合理的かつ具体的に実証実験を積み重ね、資格という形まで仕上げてきました。
「イノベーションを社会実装する」好例にできたのではないかと自負するところです。
本研究を続けながらも、現在は河川上部空間を活用したドローン物流に向けて、基礎実験も進めているところです。
ドローンが飛び交う未来に向かって、小さくとも確実に一歩ずつ前進して参ります。
ちなみに私、ドローンに触ったことがありません。
注1)二村憲太郎((一社)日本建築ドローン協会):建築物外壁調査に関わる航空法の一部改正-ドローンに紐を結んで制限すれば航空局の許可・承認不要-, (一財)日本建築防災協会月刊誌「建築防災」, pp.37-43, 2022.07