山手線に成田悠輔氏の対談の宣伝が出ていました。良くも悪くも成田悠輔氏は堀江貴文、ひろゆき両氏のみならず数々の対談、トークを通じて若者を対象にした最も強力なインフルエンサーの一人であると言ってよいでしょう。成田氏、堀江氏、ひろゆき氏共通するのはトークが過激なのです。そこまで言う?という刺激感が聞き手を魅了するのでしょう。
成田悠輔ってそもそも誰?あの変わったメガネをかけたイェール大学助教授だというのはなんとなく知っているけれどテレビやユーチューブ番組に出まくってありとあらゆる事案についてコメントしていて何が専門かわからない、という方も多いでしょう。ウィキには彼の専門はデータ・アルゴリズム・数学・ポエムを使ったビジネスと、公共政策の創造とデザイン、とあります。一応、経済学者が肩書です。
その一方、彼が単独の著書として出したのは一つだけ。「22世紀の民主主義」という本で昨年発刊され、私もだいぶ前に読んでいます。専門とどう関係があるのか、といえばその著書の中でアルゴリズムなどの発想を取り入れている点で専門分野との関連性があるといえばあります。
ストーリーラインは興味深いです。GPT要約ではなく「ひろの一部分、超意訳」をすると、「日本が変わらないのは政治のせいだ。その政治は高齢者の票により支持されており、人数的にマイノリティ化した若者の声が反映されることはない。よって政治の枠組みそのものをすっかり変えるようなアイディア、例えば若者しか参加しない政治特区のようなものを作るぐらいのゲームチェンジが必要だ」ということです。
この話、あれ?と思われる方もいるかもしれません。数日前にNYタイムズが一面トップで成田氏の「高齢者は集団自決をした方がいい」という発言の賛否両論の記事に繋がるからです。この件は2月1日に成田氏が堀江貴文氏との対談で飛び出した発言がきっかけなのですが、ひろゆき氏のとの対談でも同様の発言をしているし、そもそも著書でもそのように主張しているのです。
老害の話は成田氏だけが言っているわけではありません。例えば内館牧子氏の「高齢者三部作」とされる小説「終わった人」「老害の人」「すぐ死ぬんだから」は爆発的ヒットしました。私の手元にもあります。つまり、一応儒教的思想も含め、日本では目上の人は敬うということを幼少の時からずっと教えられ、物心ついても先輩後輩という実力とは無縁の誕生年月日による上下関係をずっと引っ張る社会に多くの人は意外とやもやしたものを持っていたのかもしれません。内館氏はそこにメスを入れたかったのでしょう。
内館牧子氏は自身がその年齢層なので読み手も自虐的に「ははは」と受け止められるのですが、若者の声として成田氏が発してくれたことは若者からは「スッとした」という声も出てきそうです。一方で海外で無名の成田氏の発言を切り取りしてその部分だけを海外の新聞で出せば、それは誰しも意図を理解できないでしょう。NYタイムズが成田氏の真意を紹介したいなら一面に載せる必要はなかったと思います。その点で編集が恣意的だったとも言えます。
ここでは詳しくは書けないのですが、私が今関与しているある団体でも老害問題が噴出し、若手から「トップに辞任コール」を突き付け、紛糾しています。声を出した若手は老人パワーにより糾弾、抹消されてしまったのですが、その声は遠吠えのように今でも耳に残るのです。「この老人主導の発想を変えてくれ!」と。
私が数日前に日本のものづくりは復活の兆しがあるかもしれないと申し上げたその背景の一つは80年代に実務部隊として活躍した40-50代が30数年経ち、後期高齢者から上となり、ビジネス社会での影響力が無くなり、平成入社の逆襲が起きてようやく経済、経営の世代交代が生まれているからです。つまり経営に関してはようやくしがらみが取れてきたというのがわたしの実感なのです。
成田氏はそのあたりを鋭く突いているわけです。堀江氏は既に知られ過ぎていて鮮度はとうに過ぎています。ひろゆき氏は自身がビジネスのディープなところから距離を置いてしまい、お調子者的な点で深みがありません。そこに現れたのが成田悠輔氏でその驚くべき曲折した経歴を含め、あまりにストーリー性が大きく、メディアでブレイクしたということかと思います。
では成田氏は堀江氏やひろゆき氏と同じようなコメンテーターとして今後もしばしば出てくるべきか、といえば私はメディアから一旦、消えよ、と申し上げたいです。理由は学者であるなら学者としての成果をもっと上げてほしいし、メディアに登場しまくり、聞き手の本当にくだらない、ばかばかしい質問にも一生懸命真面目に答える価値も意味もないと思うのです。
イェール大学とはいえ、助教授ぐらいでは世界レベルで見れば全然大したことないのです。彼が論文をバンバンだして世界の学者を唸らせる力を持つ中で一般庶民にもわかりやすいトークをするサービスこそ、より影響力があるわけで、今の成田氏は彼の本当の良さをまだまだ生かせていないと思います。
こういう切り口がシャープな方々がもっと社会的影響力を持ってほしいからこそ、応援したいのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月16日の記事より転載させていただきました。