中国人民軍「気球艦隊」が世界を偵察?

米国、そしてカナダ上空などで発見された未確認物体を巡って、米国と中国が互いに批判合戦を展開している。米国は今月4日、米上空に現れた巨大な気球を撃墜し、回収した物の検査から「中国製偵察スパイ気球だった」と批判、それに対し、中国側は猛烈に反論し、「米国の気球も昨年、わが国の上空を不法侵入していた」と指摘するなど、米中両国は「気球」問題で再び緊迫感を増してきた。

米サウスカロライナ州沖で撃墜された中国の気球を回収する米水兵(2023年2月4日、写真UPI通信)

一方、ブリンケン米国務長官は17日から開幕するミュンヘン安全保障会議(2月17日から19日)に参加するが、中国の外交トップ、前外相の王毅・共産党政治局員も出席することから、「気球問題」発生後初の米中高官会議が開かれるのではないかという情報が流れている。

そこで以下、これまで発見され、撃墜された謎の「気球」について、情報を整理したい。

最初に発見された気球はバス2台分の大きさで白色をしていた。バイデン米大統領は「米国の安全を脅かす危険がある」として気球の撃墜を命令し、戦闘機が2月4日、米国のサウスカロライナ州沖で撃墜した。気球は1月末に米領空に入り、北西から南東まで米国の大部分を横断、その途中、重要な軍事施設の上空を飛行していた疑いがもたれている。

その後、3つの小さな未確認飛行物体が次々と発見された。2月10日にアラスカ州デッドホース付近で、翌日11日にはカナダのユーコン上空で、12日、ヒューロン湖上の米国とカナダの国境上空で発見され、それぞれ撃墜された。これらの3つの気球は、最初の気球よりはるかに小さいものだった。2月上旬からこれまでに、合計4つの飛行物体が北米上空で目撃され、撃墜されたことになる。

最初の気球が中国製のものであることが明らかになって以来、米国側は「高高度に飛行する気球を発見するためにレーダーの設定を変え、気球のように移動する物体を探してきたこともあって、これまで見つからなかった多くの未確認物体が見つかった」と説明している。

中国政府は、2月4日に撃墜された大型気球は自国の気球と認めたが、「コースを外れた民間の気象観測気球だ」と説明。それに対し、米国側は「大型気球は米国を監視目的としたスパイ気球」と指摘、中国を非難した。米国側の説明によると、「今回撃墜された気球は40カ国以上を偵察するために運営されてきた気球艦隊の一部だ」という。米国務省は3日、5日に予定されていたブリンケン国務長官の中国訪問を延期すると発表した。

米国防総省の報道官、パット・ライダー将軍は3日、中国製気球は進路をコントロールできる能力(操縦可能な監視気球)を持っていると述べていたが、米海軍が撃墜した中国製気球の一部を海底から回収し、調査した結果、気球は「複数のアンテナ」を備えており、通信を収集して位置を特定できる能力を有していたことが判明したという。

ということは、気球に生物・化学兵器などが搭載されていたならば、立派な大量破壊兵器だ。ひょっとしたら、米国とカナダ上空で発見された中国製「気球」は軍事目的で使用する最初の試みではなかったか、という疑いが出てくるわけだ。米国側の気球への反応が非常に敏感である理由だろう。

ロイター通信は15日、米政府関係者筋として、「4日撃墜された気球の本来の軌道はグアム、ハワイ経由だったが、強い風に流されて軌道を外れた」という。

米国防総省によれば、10日以後撃墜された3つの気球は「小さく、操縦することはできないものであった」という。だから、「何らかの種類の監視を行っていたと信じる明確な理由はない」と受け取られている。それゆえに、「2月10日以後、撃墜された3つの飛行物体は、4日に撃墜された中国製気球と明確に区別する必要がある」というわけだ(アラスカの悪天候のため、3つの小さな気球の破片はまだ未回収)。

ちなみに、中国製気球は民間航空機の飛行高度より高いところを飛行していたが、その後撃墜された3つの未確認物体の飛行高度は約6000kmと低く、民間航空機にとって危険だった。

軍事関係者の話によると、偵察気球は監視衛星より安価で製造できるうえ、地球の軌道に制限されることがなく、機動性があり、特定の地域を監視し、情報を収集するうえで適しているという。未発見の偵察気球が現在、どれだけ飛行しているかは不明だという。

「偵察気球」問題は米中間を一層険悪化させている。中国は米国側のスパイ疑惑説を否定。中国外務省の汪文斌副報道局長は14日、「米国は昨年、高高度気球を十数回中国領空に不法に侵入させていた」と米国を逆に非難。中国全国人民代表大会外事委員会は16日、米下院が9日に中国気球の米上空飛行を非難する決議を採択したことに対し、反論声明を発表するなど、情報戦を展開させてきた。

南米でも既に未確認物体(気球)が目撃されているが、「中国の気球が2020年、21年に日本の仙台市など東北地方でも目撃されていた」ということが明らかになり、日本政府は米国らと情報を交換している。また、ウクライナ空軍は16日、ロシアからキーウに侵入してきた複数の偵察気球を撃墜したという。未確認物体、気球の出現は世界の安保情勢を変える様相を見せてきている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。