ゴネ得社会がイライラ不機嫌な日本人を増やす

黒坂岳央です。

仕事で海外の外国人とコミュニケーションを取っていて感じるのは、「失敗に寛容な人が多い」ということだ。それは過去に海外で現地の生活を目の当たりにした時にも感じたことである。

その一方で、日本人は全員ではないが些細な事に不機嫌でイライラする人を見ることがある。電車が数分遅延したとか、レジのお会計でもたつく相手に舌打ちをするなどだ。SNSでは公共の場で怒りをあらわにする人がおもちゃになっている光景は日常的に見る。アメリカのSNSでは、その逆に店員に突っかかった利用客が返り討ちに合う動画があったりして日本とはかなり感覚が違うと思わされる。

思うにイライラ不機嫌な日本人は、ゴネ得社会が作り出していると思うのだ。ここからは持論を展開したい。

takasuu/iStock

ゴネて要求を通す人たち

海外、というとかなり主語が大きくなってしまうが、日本の外ではゴネても無視されるか、冷ややかな対応を受ける国は少なくない。だが、日本ではゴネると特別待遇を受けることがある。

自分は昔、コールセンターやお弁当屋、スーパーでアルバイトや派遣をしていたので経験があるのだが、ゴネ得を期待する顧客は世の中に想像以上に多い。「電話がつながるまで待たされて不快になった。今月の料金を無料にしろ」「前回買ったコロッケに火が通しすぎていた。無料で何かおかずをつけろ」といった具合に「自分が不快になったから何かしろ」というオーダーを出してくる。

起業した今、日常生活を送る中でスーパーなどで老人が声を荒らげて、店員さんにわがままを通そうとする人を目撃することがある。

多くの場合、我が国ではこうしたゴネる相手に特別対応をしてしまう。「カスタマー対応に取られる人件費を考えるなら、無料でさっさと納めてしまおう」と考えるのだろう。しかし問題は、こうしたクレーマーは味をしめて何度も同じようなクレームを付けてくることにある。

自分が知っているある食料品通販サイトのオーナーは、「毎年、不良品だと問い合わせをしてきて、必ず代品を送らせてくる顧客がいる。10年間、その人には代品を送っていて正直、赤字になるから売りたくない。でも売らないというと消費者センターに駆け込んで騒ぎ立てられる」といっていた。日本はゴネ得社会と言えるかもしれない。

本来、販売者と顧客は対等の立場

日本は中小企業の国家であり、約300万社ある会社の99.7%は中小零細企業である。供給者数が多いため、パワーバランス的にも顧客が強くなる傾向があるのだろう。

しかし、今後はこの状況は変わってくる。特に労働集約的な宿泊施設などのビジネスにおいては、現時点で人手不足が深刻化しているし今後もそれは続く。そうなれば、ゴネる顧客を相手にする余裕はなくなり、「代わりはいるんだぞ」という利用客の恫喝はもはや効果を持たなくなる。もちろん、少子高齢化で利用者数も減っていくが、外国人顧客の割合が増えればこのパワーバランスの転換が起きる可能性は否定できない。「利用してやっている」「こっちは客だぞ」という感覚は変えていくべきだ。

これはあくまで個人的な意見だが、ビジネスは本来販売者と顧客は対等の立場だと思っている。だから自分はお金を払う側でも「使わせていただいている」という気持ちを持っているし、お金をもらう時にも「使っていただいている」という気持ちを持っている。

初めてアメリカにいった時、どのお店でもお客さん側が「Thank you」といっているのが印象的だった。こっちでは利用者側が積極的にありがとうを言うのだと。販売者と利用者の経済的パワーバランス云々はさておき、お互いに「ありがとう」と言い合える気持ちがあってもいいのではないだろうか。販売者は利益を得られるし、お客さんは商品サービスを得られる。自分はスーパーでもレストランでも意識的にありがとうを言うように気をつけている。

ゴネ得社会は明らかにおかしい。クレーマーだって、店舗やサービスがなくなったら困るはずだ。感謝を忘れて「やってもらって当たり前」になった時、人として大事なものを失うのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。