シリコンバレー銀行の破綻が引き起こす余波を想像するのは正直、相当困難です。それは因数が多く、シナリオの進み方次第で天国も地獄も想像できるからです。とはいえ、私も北米マネーマーケットにどっぷり浸かっている身でありますので様々な思惑を張り巡らせています。
大局的にはアメリカ金融当局は力づくの先手先手で対策を行い、問題を抑え込むはずです。同行は現在、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれています。これを書いている時点で預金者の預金の全額保護が発表され、月曜日以降の引き出しが可能になりました。パッチワークは完了したと言えます。
尚、同公社は現在、SVBの買い手の入札を行っており、北米時間の日曜日、夜には一旦、締め切ります。そこで応札者がいれば月曜日の市場は更なる安ど感が出ます。個人的には応札者は必ずいると思います。この銀行の潜在的価値はありますが、経営を間違えただけです。NY市場の先物は大幅高になっています。
但し、応札者がいても落札者になるかは1日や2日では決定しないでしょう。さらにデューデリジェンスをするプロセスを含め、どの程度の買取金額の査定になるか、更には取引完了にどれぐらいの時間を要するか、であります。主要銀行で体力があるところは手を上げ、事業拡大を虎視眈々と狙うでしょう。特にスタートアップ系の顧客が多いとなればそちら方面の情報/コネクションが欲しい銀行は当然強い興味を見せるはずです。技術的問題はあるかもしれませんが、日本の銀行ものどから手が出るほど欲しいと思っているところもあるかもしれません。
ではこれが今回の問題を根本的に解決するでしょうか?私はSVBの保全ないし再建は金融当局が威信を持ってやっていると思いますが、今回の問題全体の1/3ぐらいでしかないと思います。
預金者については保護されましたが、株主と担保を持たない債権者は保護の対象外となりました。また、預金の流出がどういう性質のものだったか、もう少し精査する必要はあると思います。特に顧客にスタートアップ系でもIT系、ヘルス系が多いと理解しているので多くが人件費、労務コストであるはずで近年の労賃の上昇が経営を圧迫している可能性は否定できません。つまり、本質的な経営問題に発展するか、どうかです。
次にこの問題はSVB独自の問題だったのか、という疑問です。私は否だと考えています。今回の問題はSVBの顧客がおかれている状況の変化と銀行の含み損の問題という2つの問題が共鳴したことが理由です。銀行の含み損だけに目を向ければ多くのアメリカの地方銀行は同様の問題を抱え込んでいると断言できます。債権の含み損は全米で21年末の80億㌦から22年末には6200億㌦になっています。1年でなんと78倍です。国債は満期まで持ち続ければ損はない、確かにそうです。ですが、銀行に資金需要が生じたら損しても売らねばならない事態も生じるわけです。
FRBはインフレ退治と雇用確保という点で金利の上げ下げという手段だけに頼り一定の犠牲を払いながらも剛腕、強気一辺倒で今日に至りました。が、パウエル議長は息を呑んだことでしょう。イエレン財務長官は金融システムは健全でなんら問題はないと豪語し続けてきましたが、今は180度その姿勢は変わっています。
私が土曜日のブログで強気の利上げ姿勢に疑問符をつけたのはそこが瞬時に見えたのです。よって「利上げ幅を0.25%に留める公算はまだある」と述べました。事実、来週のFOMCでは0.50%の利上げ予想は急速に萎んでおり、現状は0.25%の公算が大です。今週の消費者物価指数が想定レンジから大きくはみ出さなければ、0.25%、もしもこの銀行システムの問題がより泥沼になるようならば利上げ停止も視野に入ってきます。
株式市場全体ではプラス要因とマイナス要因が激しくぶつかり乱高下するかもしれませんが最終的にはインパクトは限定されると信じています。ただ、心理ゲームになれば全く予断を許しません。国債と金を買う動きが顕著に出ているので安全なところに資金を動かすという動きがしばらくは見られ、当面は20-21日のFOMCの内容が最重要な判断どころとなりそうです。
日本の地方銀行も同様の債権含み損問題はありますが、顧客は資金需要が大きくぶれることがない個人や中小企業が主体ですから波及は限定的だと思います。
今回の事案を一言でまとめればFRBの急激な利上げというかじ取りは企業経営が健全性を維持できないスピードで、一部が振り落とされたわけです。パウエル議長が多少の犠牲を払ってでも、とうそぶいたその見込みは過小評価ではなかったか、というのが私の今時点での見立てです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月13日の記事より転載させていただきました。