独国民が衝撃受けた2件の犯罪:宗教施設での銃撃と児童による殺人

ドイツにおける国政レベルの政治ではウクライナ支援、それに関連した武器供与問題、移民対策などが大きなテーマであり、国内レベルでは物価、家賃の高騰、エネルギー危機などへの対策が頻繁に報道されてきたが、過去1週間で2件の犯罪事件が発生し、ドイツ国民に衝撃を与えている。

「ルイーゼ殺人事件」に関する記者会見風景(中央=コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官)2023年3月14日、ドイツ民間ニュース専門局NTVのビデオからスクリーンショット

1件は新興キリスト教系宗教団体「エホバの証人」の施設で9日夜、8人が死亡、8人が重軽傷者を負った銃撃事件、そして2件目は11日夜に起きた12歳と13歳の2人の児童による同級生殺人事件(ルイーゼ事件)だ。前者はこのコラム欄で2回、報じたので今回はその続編だ。後者は12歳と13歳による殺人事件だ。ドイツでは刑事責任年齢に満たない14歳未満の者を「児童」と呼び、「児童の保護」を最優先とする理由で、警察側は事件の詳細については口を閉じている。そのような事情を踏まえながら、ドイツ社会で起きた2件の犯罪事件を紹介する。

1)「エホバの証人」の宗教施設での銃撃事件

犯行日:2023年3月9日午後9時頃
犯行場所:独北部ハンブルク市の「エホバの証人」施設
犯行者:フィリップ・F、35歳のドイツ人(バイエルン州出身)、元「エホバの証人」信者
犯行武器:・独ヘッケラー&コッホ社の半自動拳銃(H&KP30)、犯行現場には135発の銃弾の跡
犠牲者:自殺した犯人を含む8人が死亡、8人が重軽傷、死者の中には7カ月の胎児が含まれる
犯行動機:「エホバの証人」、特にハンブルクの同団体への恨み

<フィリップ・Fについて>

Fはバイエルン州のメミンゲン出身で、アルゴイ地方のケンプテンで成長した。家族のメンバーは「エホバの証人」のメンバーだった。親戚も同様、グループのメンバーだったが、その後脱会した。Fは非常に敏感な子供で、家族から愛情をこめて育てられた。ただし、Fが育った環境は簡単ではなかった。Fは20代前半で、仕事上の理由でハンブルグに移り、数年後に再び「エホバの証人」と接触して入会。しかし、その後、彼は「エホバの証人」のシステムがどのように機能しているかを知って失望したと親戚に話したという。1年半後、Fは「エホバの証人」から去った。事件が起きたハンブルグの「エホバの証人」メンバーによると、Fは、意見の相違の後、自分の意志でグループを去った。Fの親戚関係者はFは精神的に非常に打ちのめされ、精神病の兆候が見られたが、助けを望まなかったという。

国家安全保障局長のThomas Radszuweit氏によると、Fは独身で、銃の免許と射撃手としての銃を持っていた。Fは自身のウェブサイトで、企業向けのコンサルティングサービスを提供し、アルスター郊外のハンブルグで最も物価の高い地域の1つにオフィスを構えていた。

彼は、アルゴイ地方の厳格な福音主義の家庭で育ち、ある出来事をきっかけに霊性の必要性を感じたと自費出版した本の中に書いている。彼は子供の頃を思い出し、「予言的な夢」を見、突然、以前にはなかった聖書の理解ができたという。Fはまた、「3年以上続いた地獄の個人的な旅を経験した」と告白している。

事件後、ドイツでは「武器関連法」の強化について与野党の間で議論が出てきている。

2)「ルイーゼ殺人事件」(児童による殺人事件)

犯行日:2023年3月11日夜
犯行場所:独ノルトライン=ヴェストファーレン州の人口1万8000人の町フロイデンベルク
犯行者:12歳と13歳の児童(女子)
犯行武器:ナイフ(ただし、犯行武器はまだ発見されていない)
犠牲者:12歳のルイーゼ(犯行者の同級生)
犯行動機:不明

犯行状況(独メディアの報道から)
警察もメディアも殺人が12歳と13歳の児童によって行われたことにショックを受けている。犯行に使用されたナイフはまだ発見されていないが、2人は犯行を認めているという。ルイーゼは友人宅から帰途に向かうはずだったが、家には戻らず、同級生の2人と自宅とは反対の離れた場所で会っている。その辺の事情は不明だ。同級生の2人がルイーゼをスマートフォンで呼びだしたのかもしれない。死因は複数の刺し傷による出血多量によるという。司法解剖の結果、性的な暴行は受けていなかった。

2人の児童は現在、ユーゲンド保護所で収容されている。ドイツでは14歳未満の児童は刑事責任がないためだ。2人に対する捜査、犯行動機などが調べられるが、時間がかかるものと予想されている。コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官は14日の記者会見で、「40年以上、犯罪取り締まりの仕事をしてきたが、今回の事件(児童による殺人事件)には言葉を失う」と述べている。

メディアは未成年者による殺人事件として大きく報道した。検察官、警察副長官、捜査官などが記者たちの質問に答えたが、犯行の動機や2人のプロフィールなどについては、「児童の保護」という理由で答えることができないと言った。ルイーゼが通っていた学校関係者は生徒たちの殺人事件に大きなショックを受けている。

独メディアによると、ルイーゼが2人を何らかの理由で揶揄ったことを、2人は根に持ち、呼びだして殺したのではないかと推測している。最近の学校では同級生間でモビング(虐め)が原因で様々な被害や不祥事が生じている。

事件後、刑事責任を問う年齢を現行の14歳から下げるべきだという意見が出ている。英国では10歳、オランダは12歳、ポルトガルでは16歳といった具合で、刑事責任が問われる年齢は欧州でも違いがある。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。