情緒ではなく論理に基づく冷静な憲法改正の議論を

今国会3回目となる衆議院憲法審査会が開催されました。先週の議論を受ける形で、緊急事態条項の条文案づくりに入ることを提案しました。現行憲法が定める参議院の緊急集会の権能についても議論を深めました。

今後も緻密な議論を積み上げながら、憲法改正の議論をリードしていきます。

憲法審査会発言要旨(2023年3月16日)

言い放しを避けるため、議論を積み重ねてきた緊急事態条項についてテーマを絞って議論し、残された論点について意見を集約し、具体的な憲法改正の条文案づくりに入ることを提案したい。

同時に申し上げたいのは、緊急事態条項については、ぜひ、レッテル貼りではなく、当審査会でのこれまでの1年以上にわたる議論を踏まえた正確な情報発信を、議員各位や有識者・メディアにもお願いしたい。

ちなみに、私たち国民民主党の基本的な考えは、「緊急事態条項が危ないのではなく、まともな緊急事態条項がない中、緊急事態を理由に、安易に権限の濫用などが発生しうる状況が放置されていることが危ない」ということである。つまり、私たちの目指す緊急事態条項は、「権力行使容易化条項」ではなく、「権力行使統制条項」としての緊急事態条項であることをあらためて強調しておきたい。

その上で、先週、新藤幹事から示された8つの論点について、前回、ある程度お答えしたと思うが、本日はさらに、①選挙困難事態の「議決要件」と②「緊急集会の位置付け」に2点について述べたい。

まず、「議決要件」について。

新藤幹事は、議決要件として「過半数」を提起されたので、新藤幹事に質問したい。まず、自民党の憲法改正4項目の条文イメージ案・たたき台素案では「各議院の出席議員の3分の2」となっているが、そもそも、この自民党の条文イメージ案を見直すつもりなのか、伺いたい。

その上で、我が党の意見を申し上げれば、選挙困難事案の国会承認は、新藤幹事のおっしゃる「衆参両院が通常の機能を発揮する中で決議するとなれば、大原則である過半数で足りる」との考えもとり得ないわけではないが、やはり、憲法に規定された原則4年、6年の任期の特例を認める以上、新藤幹事のおっしゃる「原則や現状を変更して特別な状態を作り出すとき」にあたるので、3分の2以上の議決を必要とするのが適当ではないか。

ただ、確かに3分の2を求めると、任期延長が認められにくくなり、国会機能の維持に支障をきたす可能性も否定できないのも事実である。仮に、過半数でよしとするのであれば、その場合は、要件適合性における裁判所の関与とセットで導入すべきと考える。

次に、緊急集会の位置付けについて。

国民民主党は、仮に、憲法54条2項の「緊急集会」が、任期満了時にも開けると解釈するにしても、それは、「一時的・暫定的、限定的なもの」だと考える。具体的には、最大70日、約2ヶ月を超えるような長期にわたる権限の行使は憲法上、想定されていないと考えるべきであるし、処理できる案件も内閣が示したものに限定され、権限行使にも一定の制限があるものと考える。学説でも、緊急集会では憲法改正発議や条約締結の承認はできないとされている。

そこで、尊敬する立憲民主党の篠原委員に伺いたい。篠原委員は、前回「緊急事態ぐらいは参議院に花を持たせるというのが我々衆議院の情け心じゃないかと思う。」と発言されたが、まず、緊急事態の話は、「花を持たせる」とか「情け心」といった情緒的な議論で判断すべきではないことを指摘しておきたい。

緊急時という歴史的に見て正気を失いがちなときに、情緒に流された判断を避けるためにこそ、緊急事態条項が必要だというのが私たち国民民主党の考えである。その意味で、憲法54条2項の「緊急集会」が「どのような期間」「どのような案件」について対応できるのかを明確にした上で、足らざる部分を憲法改正によって補うべきであると考える。情緒ではなく、法的な緻密な議論を求めたい。

そこで、予算案についての考えを伺いたい。1953年3月18日に解散後、緊急集会が開かれた際、「暫定予算」を処理した例があるが、この時、あえて本予算の処理はしておらず「2ヶ月間の暫定予算」の処理としている。このことから考えても、やはり本予算の処理は緊急集会には馴染まないと考える。

加えて、土井真一先生の解説書によれば、「内閣の経済政策をより良く実現するために必要な「補正予算」を成立させる必要だけでは、緊急の必要があるとは言えない」ともされている。こうした学説も踏まえると、やはり、緊急集会で予算案を処理できるにしても、それは「2ヶ月程度の暫定予算が限界」だと考える。

立憲民主党の中間報告によれば数年間は緊急集会で対応可能と考えていると思われるが、篠原委員は、緊急集会で本予算案の対応ができると考えるのか、しかも複数年にわたって対応できると考えているのか、その根拠とあわせて考えを伺いたい。

もう一点。前回、篠原委員は、「任期延長というものは、特別法で工夫して、改正して、さっさとやって、そして、後でまとめて一緒に憲法改正にしていった方が私はいいんじゃないかと思います。」と述べているが、私には全く理解できない発言。これは憲法に違反する「違憲立法」を先にして、後で憲法改正すればいいと主張されているのか。私の頭では到底理解できない考えなので、その真意を伺いたい。

憲法に違反するような特別法を、場合によっては、緊急集会だけで可決できるとすれば、リベラルの方々が懸念する「緊急政令」以上の権力の濫用を招くのではないか。私は立憲主義の観点から心配で夜も眠れなかった。任期延長を可能とするいかなる特別法を考えているのか、篠原委員の考えを伺いたい。

最後に、国民投票法に実効性あるネット広告規制をどのように盛り込むべきかを判断するにあたって参考にするため、2名の参考人の招致を改めて提案したい。1人目は、「ケンブリッジ・アナリティカ事件」の当事者であるブリタニー・カイザー氏。2人目は、ティックトックの周CEOである。森会長の取りはからいをお願いしたい。


編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2023年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。