地下鉄でマスク着用すれば罰金?:罰金は最高150ユーロ

日本ではマスク着用問題は個々人の自主的判断に委ねるということで落ち着いたと聞く。日本の厚生労働省のサイトによると、「これまで屋外では、マスク着用は原則不要、屋内では原則着用としていましたが、令和5年3月13日以降、マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」と丁寧に説明している。

コロナ時代にお世話になったFFP2マスク

アルプスの小国オーストリアでも3月1日を期して市電や地下鉄など公共交通機関に乗るとき、FFP2マスクの着用義務がなくなった。中国武漢発の新型コロナウイルスの感染が流行した過去3年間、国民はコロナ対策のために余り馴染みがないマスクを着用しなければならなかった。4月30日を期して、病院や介護施設などでもマスク着用義務もなくなる。そして6月末までに全てのコロナウイルス危機対策は終了し、コロナ下で実施されてきた予防接種、検査、投薬は、通常の医療システムに統合され、その後はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は届出対象疾患から削除される。

コロナ感染防止のためにFFP2の着用が義務付けられた時、国民の中にはかなり強い抵抗があった。日本人にとってマスク着用はとりたてて抵抗がないが、欧州ではマスク着用は顔を隠すもので、不自然なものといった考えが強く、「マスクはアジア文化だ」といった文化論すら一時期飛び出したほどだ。

ただ、新規感染者が急増し、コロナ死者が増加するとマスク着用に反対してきた国民も感染防止のためにやむを得ず着用するようになった。マスクなしで市電に乗ったり、地下鉄に乗れば監視員から注意され、最悪の場合、罰金がとられる。ウイルス学者は「マスクは自分をウイルスから守る一方、他者にウイルスを感染させない目的がある」と説明し、マスクの利他的効用を強調してきた甲斐もあって、マスクは欧州社会で一定の認知を得てきた。

その「マスク着用義務」から解放されたのだ。多くの国民は喜んでいるが、コロナが去ったと思いきや、今年に入りインフレエンザが流行中で、咳をしている国民が少なくない。風邪をうつされたら大変ということから、人ごみの多い公共交通機関ではマスクを着用し続ける人々が結構多い。

しかし、問題が出てきたのだ。マスク着用義務の解放後、市電や地下鉄でマスクを着けていた場合、行政違反で起訴されるケースが出てくるのだ。厳密にいうと、健康上の理由でマスクを着用しなければならない場合、医師の診断書を提示しなればならないのだ。なぜならば、オーストリアでは公共の場で顔を隠したり、覆面を被ることは法的に禁止されているからだ。

「公共の場で顔を覆うことの禁止に関する連邦法」(Anti-Face-Covering Act–AGesVG)だ。この連邦法の目的は「社会への参加を強化し、オーストリアにおける平和的共存を確保することにより、統合を促進することにある。統合は社会全体に影響を与えるプロセスであり、その成功はオーストリアに住むすべての人の参加にかかっており、個人的な相互作用に基づいています」というのだ。そして「公共の場所や公共の建物で顔の特徴を衣服やその他の物で隠したりして、顔の特徴を認識できないようにする人は誰でも、行政違反を犯し、最高150ユーロ(約2万1000円)の罰金を科せられます」と明記されている。例外は、「芸術的、文化的、または伝統的なイベント、またはスポーツで顔を隠す場合、パラグラフ1に従って隠蔽することの禁止に違反することはない。もちろん、健康上または職業上の理由から顔を隠す場合は例外」という。同法は2017年10月1日に発効している。マスク着用義務に関連する行政法が失効したと喜んでいたら、顔を隠してはならない覆面禁止法が復活して有効となるわけだ。

日本の場合、「個人の主体的な選択を尊重し、直用は個人の判断が基本となります」と明記されているから、風邪をひいたので用心のためにマスクを着用していても全く問題にならないが、オーストリアの場合、マスクを着用して地下鉄の乗っていた場合、医者の診断者が求められることが出てくるかもしれない。インフルエンザ予防のためにという理由があれば、問題がないが、そうではない場合、「あなたはなぜ顔を隠すのですか」と不審に思われ、マスク着用している合法的な理由がなければ違反として150ユーロの罰金を取られることになるわけだ。ただし、同国の憲法学者によると、公共交通機関でマスクを着用していたとして、即行政法違反として起訴されることは現時点では考えられないという。

音楽の都ウィーンを訪問される日本人旅行者はくれぐれも安易にマスクを着用しないようにご注意を。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。