New England Journal of Medicine誌の3月30日号に「Digital Minimalism-An Rx for Clinician Burnout」という論評が掲載されていた。医師の「燃え尽き症候群」は米国の大きな課題となって久しい。それに対処するにはデジタルを有効活用する必要があると言う。私が内閣府のプロジェクトで訴えてきたのと同じだ。
電子カルテ、看護記録、介護記録など、記録に残すことに医療現場は追われており、ベッドサイドにいる時間がますます制限されてきている。米国のように医療現場での人的資源が豊富な病院でも、医療従事者は時間に追われている。
患者さんの診療録の平均的文字数は、シェークスピアの最も文字数の多い代表作「ハムレット」の56%に及ぶと論評には書かれていた。シェークスピアを読んだことのない私には、それがすごいことなのかどうかよくわからないが、記録に多くの時間を費やしていることを言いたいようだ。
「デジタルミニマリズム(minimal digitalism)」はCal Newportというコンピューター科学者が著書の中で紹介した言葉のようだが、Twitter、Facebook、Instagramなどのデジタルツールに追われている現代人の問題を指摘し、それをうまく使いこなすことが重要だという内容のようだ。
医療の分野では、冒頭に書いたように、医療従事者は記録することや「説明と同意」に多くの時間が割かれている。デジタル 対 人間、あるいは、人工知能(AI)対 人間という対立軸で紹介される例が多いが、デジタルとAIを上手に使いこなせることがこれからの医療現場に必須である。
デジタルとAIで人間でなくともできることをこなしてもらい、人間である医療従事者が、ベッドサイド、診療室、そして、遠隔でも、患者さんに寄り添う医療ができることが大切になってくる。デジタルをミニマムにするのではなく、デジタル・AIを利用して、時間を有効活用するのだ。かつて、医療従事者には大容量の記憶と瞬時での判断が求められた。
しかし、これからは、記憶に関してはAIがバックアップしてくれる時代になるので、それをうまく使いこなす技量がこれからの医師に求められる。もちろん、観察力、聞き取り力、瞬時の判断、コミュニケーション力、そして、人間的な温かさを欠いてはならない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。