先日、物価高の影響でコンビニ弁当離れが起きている旨の記事を読んだ。
「会計時に1000円超えてびっくり」 昼食で“コンビニ弁当離れ”した人たち、新たな選択肢はスーパーか外食か
弁当に加えサラダと飲み物を合わせると会計時に1,000円を超える時もあるという。高いコンビニ弁当に替わりスーパー・弁当専門店・外食等、別の選択肢で昼食代を500円前後に節約しようと奮闘する人々の様子が記事には書かれていた。
筆者は正直、500円前後の選択肢を比較検討すること自体ナンセンスだと感じた。なぜなら仕事のパフォーマンス・生産性を起点に昼食を考えれば、支出をもっと大胆に減らすことができると考えているからだ。
仕事にも財布にも良い、最適な昼食とはどのようなものなのか。
自身の活力の源が集中力だと断言するカリスマ外科医のエピソードを皮切りに、生産性アップを専門とする時短コンサルタントの立場から考えてみたい。
昼食をガッツリ食べていた医師がたどり着いた境地
『50歳を超えても30代に見える生き方(講談社 2011)』をはじめ、数々のベストセラーで知られる南雲吉則氏は勤務医だった頃、昼食をガッツリ食べていたという。
午後はいつも睡魔との戦いだった。患者の話を聞いていると眠くなり自分の膝をアザができるほどつねった。カルテを整理する時も眠くて仕事にならなかった。当直室で隠れて居眠りをしていた。
午後に手術の助手をすることもあった。手術中居眠りをして術者にすねを蹴られることもあったという。
その後睡魔と戦うつらさから逃れるために昼食の量を少しずつ減らしていった。しかしおにぎり1個にまで減らしても眠くなった。
南雲氏は最終的に昼食を取らないことにした。お腹が空いたらナッツをはじめとした低糖質でタンパク質が豊富なものを食べるようにした。夕食のみの1日1食の生活スタイルを確立したという。
ここまで聞くとストイックすぎて自分には難しいと感じるかもしれないが、南雲氏は1日1食を勧めるものの、昼食を食べるなとまでは言っていない。
著書『「空腹」が人を健康にする(サンマーク出版 2012)』でも次のように書いている。
昼食を摂るとしたら、これもできるだけ少量にして、眠くなるほどは食べないこと。(中略)もし食べるなら、GI値が低いもので、血糖値が一気に上がらないようなものをおすすめします。
GI値とは食後の血糖値の上昇度を表す指数だ。実は昼食後眠くなる原因の一つは昼食後にGI値が急上昇するからだとされている。昼食後糖を摂りすぎると逆に、脳がエネルギー不足に陥ってしまうからだ。
糖を摂りすぎると脳がエネルギー不足に陥る理由
脳科学者の西剛志氏の著書『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術(アスコム 2021)』によると、脳がエネルギーとして直接利用できるものは糖質(ブドウ糖)とされている。
一方で糖質はたくさん摂りすぎると「血糖値スパイク」という現象が起き、脳のエネルギー不足を引き起こしてしまうという。
たとえば白米・パン・パスタなど糖質を含んだ食事をお腹いっぱい食べると血糖値が急上昇する。急激に上昇した血糖値を下げるために身体はインスリンを大量に放出する。その結果血糖値が急激に下がる。
そうすると、血液中の糖が不足し脳がエネルギー不足に陥る。脳のエネルギーが低下すると眠気や倦怠感が起きる。だから昼食で糖質を摂りすぎると一般的に眠くなるのだという。
こうした理由から著者の西氏は血糖値が急激に上がらない食事=低GI食を勧めている。西氏自身も午後に大切な作業や創造性の高い仕事をする時は昼食に糖質を大量にとらないように気をつけているという。
以上からも仕事のパフォーマンスを考えれば南雲氏も言ったように、昼食はできるだけ少量にして低GIのものを食べたほうがよいということになる。
一方で昼食をしっかりとらないとエネルギーが不足するのでは?と考える読者もいるかもしれない。
しかしたとえ昼食を全くとらなかったとしても、脳のエネルギー欠乏はありえない。そう指摘するのは遺伝学・栄養学博士の有馬佳代氏だ。
2〜3日絶食しても脳内の血糖値は変わらない
有馬佳代氏の著書『ビジネスエリートがやっている最高の食習慣(自由国民社 2022)』によると、人間は食後数時間経つと血糖を節約して脂肪でエネルギーを作りはじめるという。
また人は体内の血糖値の上下にかかわらず、脳内の血糖値を一定に保つBBB(brain-blood barrierの略)という仕組みがある。そのため『2〜3日絶食しても脳内の血糖値は変わらないので脳のエネルギー切れは起こらないし、脳機能は維持されます』と先程の著書で説く。
つまり病気をもっている人やプロのアスリートなど一部の例外を除き、昼食をたとえ食べなかったとしても脳のエネルギー不足は起きないのだ。だからこそ南雲氏は昼食を食べなくていい、食べるとしても少量ですませることを提唱しているのだ。
昼食は食べなくてもいいし、食べるとしても少量で十分。このことを理解すると昼食の選択肢としてコンビニ弁当や外食以外のものが見えてくる。メニューによっては昼食代の支出を大胆に抑えることができる。
ちなみに筆者の昼食代は1回あたり60円だ。どんな食べ物を昼食に選んだらいいのか。引き続き考えてみたい。
低GI食を選ぶための3つのポイント
まず心がけたいことは糖質が急激に上がらない=低GIの食事をとることだ。
どうやってGIの高低を判別したらいいのか。西剛志氏は先程紹介した著書で以下の3つをポイントとして掲げている。
(1)甘すぎるものは要注意
(2)炭水化物は白い食べ物より黒い食べ物を選ぶ
(3)食物繊維が多いものを選ぶ
(1)の理由は甘さのほとんどがブドウ糖に起因するからだ。砂糖をそのまま原料に使ったお菓子や甘すぎる果物もそれだけたくさんの糖質を含む。甘いものを多く食べると血糖値が急上昇するので注意が必要となる。
(2)の理由は黒いほうがGI値が低くなるからだ。同じ米でも白米より茶色の玄米のほうがGI値は低くなる。また黒いほうが食物繊維を多く含む。食物繊維は糖の消化吸収をゆるやかにするので血糖値の上昇もゆるやかになる。
(3)については同じ果物でもりんごやいちごはメロンやスイカと比べると食物繊維は多く、またGI値も低くなる。食物繊維が多いとされる野菜の中でもいも類は高GIとなる。同じ食べ物でも食物繊維が多いものを選ぶと良い。
何をどれくらい食べるのがベストかは人によって異なる。なので上記を参考に自分に合う食事を探してほしい。
ちなみに筆者も昔は上司や同僚と昼食をガッツリ食べていた。しかし今では昼食にオートミールをよく食べている。
オートミールはアメリカの伝統的な朝食メニューだ。有馬佳代氏の先程の書籍によれば食物繊維が玄米の3倍・米の19倍あり、現代人が不足しがちなミネラルが豊富なスーパーフードとされている。
昼食をオートミールですませるとコンビニ弁当や外食と比べると金銭的な支出もずいぶんと減る。先日スーパーで市販のものを購入すると税込300円だった。一袋でおよそ5回食べられるとして1回あたりの昼食代は60円になる。
オートミールはもちろん一つの例にすぎない。しかし仕事のパフォーマンスを軸に昼食を考えると昼食の支出を大胆に減らせるイメージが少しは掴めたのではないだろうか。
理にかなっているとはいえ、南雲氏のように昼食を食べるなとまで言うつもりはない。筆者もそこまではしていない。昼食を食べることが何よりの楽しみという人もいるだろう。
まずは昼食をできるだけ軽く・控えめにすませることからはじめてみてほしい。筆者も長い期間を経て今の形にたどりついた。あなたにとって仕事にもお財布にもベストな、最適な昼食が見つかることを祈ってやまない。
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滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年4月11日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。