3月24日号のScience誌に編集委員長が「Eroding trust and collaboration」というタイトルの一文を寄せている。
2018年のトランプ政権による中国を主とするアジア人研究者に対するスパイ容疑騒動で信頼を失った研究者の擁護のコメントだ。表題は直訳すると「信頼と共同研究に対する侵害」となり、まさにトランプが自己擁護する際に用いている「魔女狩り」のような様相を呈していた。
中国との蜜月時代には、国が中国との共同研究や中国人研究者を大切にしてきたにもかかわらず、「Make America Great Again」のもと、中国排斥運動のような形で、中国生まれの研究者の糾弾が始まった。私がシカゴから日本に戻ろうと考えた時期に、まさに突然とこれらの動きが巻き起こったのだ。糾弾された研究者たちは信頼を失い、彼らが築き上げた実績は水泡のごとく消え去ってしまった。それが、政治的意図を持った誤った糾弾であれば、まさに冤罪で研究者たちの経歴を潰してしまったことになる。
私もかつて、築地の新聞社の陰謀で、信用も経歴も失いかけたことがある。当時、東大医科学研究所に在籍していた上昌弘先生たちのグループの支援で冤罪を晴らすことができた。今でも、感謝の気持ちで一杯だ。一歩間違っていたら、私の経歴は十数年前に終わっていたかもしれないと思うと、Scienceの編集長のコメントにあるように、真実はどこにあったのかという検証が必要だ。もし、スパイがでっち上げられたものならば、この研究者たちの汚名を晴らしてあげたいと思う。
「信頼は一日して成らず、失うは一瞬」であり、失った信頼を取り戻すのは大変で、「取り戻すのは一生」と言われる。その通りだが、失なわれた信頼が、悪意に満ちた意図が理由であれば、研究者たちを皆で支援してあげて、誇りを取り戻してあげたいものだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。