本日の憲法審査会では、緊急事態条項(議員任期の特例延長規定)に加えて、憲法9条について考えを述べました。
自民党の案や日本維新の会の案についても、一つの考え方ではありますが、折角、改正するのに、改正した後も「違憲論」が解消されない可能性があります。ここが最大の弱点です。
いわゆる「自衛隊明記論」は、自衛隊という「組織」についての違憲論が消えると思いますが、今の両党の案だと、自衛隊の「行為」、つまり行使する自衛権の範囲については、戦力不保持を定めた憲法9条2項を巡るこれまでの複雑な解釈を維持するとしており、結局のところ、改正後も、条文を読むだけでは自衛権の行使の範囲が不明のままなのです。例えて言うなら、お父さんが働く「職場」の違憲性は消えても、お父さんが「やっていること」の違憲性は消えないので、国防規定としても不十分だと考えます。
仮に、自衛権の範囲はこれまで同様、「解釈」に委ねることとし、「自衛隊の組織としての違憲性の否定」と「シビリンコントロールの明確化」のみを改憲の目的とするのであれば、むしろ、第5章「内閣」の章に、「必要な自衛の措置をとるための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」との規定を設けた方がいいのではないかと提案させてもらいました。
なお、9条を改正し、自衛権行使の本質を議論するのであれば、やはり、戦力不保持を定めた9条2項を残したままでいいのか、あるいは、自衛隊を「軍」して位置付けなくていいのか、自衛隊員は「軍人」ではないのか、国際法上の身分のあり方等も含めて、より本質的な議論を深めるべきだと考えます。
2020年12月にまとめた国民民主党の論点整理では、9条2項を存置する案と、存置しない案の2案の条文イメージ案を取りまとめて議論を継続しています。今後、憲法審査会でも、こうした自衛権を巡る本質的な議論を提起していきたいと思いますし、各党会派のご意見も伺いたいと思います。
本日の発言概要は以下のとおりです。
憲法審査会発言要旨(2023年4月13日)
国民民主党代表 玉木雄一郎
まず、緊急事態において国政選挙が実施できない場合の対応について述べたい。
先週、奥野委員から「立憲民主党は、議員任期延長のための憲法改正に絶対反対ではない」「解釈や法改正でできないことが明らかなれば改憲も当然」との意見表明があったことを評価したい。これまでの議論の中で、繰延投票で対応はできないことは明らかになったと思う。残された論点は、緊急集会の「一時的・臨時的・限界的」な射程が、どこまで伸び得るのかということに収斂されてきたと思う。
前回示した3会派の案は「選挙の一体性が害されるほど広範な地域において国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難であることが明らかな場合」に延長を認めることとしており、逆に言うと70日までは緊急集会の活用と棲み分けを明確にしている。
ここで公明党に伺いたい。先日、参議院憲法審査会で御党の議員から、70日を超えても緊急集会で対応せざるを得ない旨の発言があったと承知している。本院でのこれまでの主な議論は、あくまで、緊急集会は、期間限定、かつ、事後的に衆議院の同意がなければ効力を失う臨時のものであり、取り扱える案件も内閣が求めるものに限定されているというものであった。
仮に70日を越えて対応できるとしたらどの程度の期間、どのような案件について対応できると考えているのか、改めて、公明党のご意見を伺いたい。そもそも、衆議院と参議院で意見が異なるのか。
次に、立憲民主党の篠原委員に、前議員の身分復活について伺う。前回「(前議員に)国会(議員)と同じような権能を与えてもいいんじゃないか」と述べ、同時に「全てのことを憲法にきちんと規定しなくちゃいけないというのは理想だ」「安全保障の大事な部分だって、違憲だと思われるようなこともしているわけですから」と述べておられる。これは、選挙ができないような緊急事態においては、違憲だと言われても、前議員に議員と同じ特別な身分を与える法律を作れとの趣旨なのか。
しかし、議員でないものに議員同等の権限を与える立法は、議員任期を定めた憲法45条、46条、国会が唯一の立法機関と定めた憲法41条、参議院の緊急集会による対応を定めた54条2項などに違反する立法になると考える。本当にかかる立法が可能と考えているのか。立憲主義の観点から心配で夜も眠れないので、改めて真意を伺いたい。
次に、新藤幹事から説明のあった自民党の9条改正案について一言、国民民主党の考えを申し上げたい。我々も9条改正案を議論しているが、まず、何のために改正するのか、改正の目的、「憲法事実」についての認識の共有が重要だと考える。
自民党の改憲4項目の解説文書を見ると、①憲法学者や教科書の中に違憲論がある、②共産党が違憲だと言ってるが主な憲法事実と位置付けており、実体的に「~ができないから、~をできるようにしたい」という実体的な目的がない。
かつては、集団的自衛権の行使ができないから改正が必要だとの議論だったが、平和安全法制の際、解釈変更したので、実体的改正の必要性が消失している。逆にいえば、今の自民党案だと、共産党さんが自衛隊を合憲だと認めてしまえば改正理由がなくなるのである。共産党も9条の条文を守りたいなら、自衛隊を合憲と認めたらいいのである。
私たち国民民主党は、せっかく9条を改正するなら、そうした弱い理由ではなく、国家・国民を守るため、国家にどのような軍事的公権力の行使を認めるべきかと言った本質的な議論が必要だと考える。よって、改正する以上は、追加で何ができるようになるのか、つまり、自衛権の位置付けを、国民に明確に示す改正であるべきと考える。
自民党案も、そして維新案も同様だか、改正案は示されているが、その自衛権の範囲については従来の「9条の解釈」を「維持」あるいは「範囲内」であるとしている。つまり、改正してなお、自衛権行使の中身は、結局、現行の「解釈」に委ねられている。
自衛権行使の範囲を解釈に委ねている以上、戦力不保持を定めた9条2項との関係から生じる現在の違憲論は残り続けることになる。自衛権の範囲の解釈をめぐる違憲論争に終止符を打ちたいのであれば、「維持」あるいは「範囲内」としている「9条の解釈」の内容を改正案に明記すべきではないか。例えば、「新3要件」をそのまま明文化することも一案である。
結局、両党の改正案では、条文を読むだけでは自衛権行使の範囲が判然としない。よって、仮に自衛隊の組織名を明記することで、自衛隊という組織についての違憲論は消えても、その自衛隊の行使する自衛権の範囲については解釈の余地が残り違憲論が消えることはないのではないか。違憲論が消えないのであれば、本来の改憲目的を達成することができず、「労多くして益少なし」の改憲となってしまう。
仮に、自衛権の範囲はこれまで同様解釈に委ね続けることとし、「自衛隊の組織としての違憲性の否定」と「シビリンコントロールの明確化」のみを改憲の目的とするのであれば、むしろ、第5章「内閣」の章に、「必要な自衛の措置をとるための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」との規定を設けた方がいいのではないか。
9条を改正し、自衛権行使の本質を議論するのであれば、やはり、戦力不保持を定めた9条2項を残したままでいいのか、あるいは、自衛隊を「軍」して位置付けなくていいのか、自衛隊員は「軍人」ではないのか、国際法上の身分のあり方等も含めて、より本質的な議論を深めるべきだと考える。
なお、2020年12月にまとめた我が党の論点整理では、9条2項を存置する案と、存置しない案の2案の条文イメージ案を取りまとめて議論を継続している。本審査会でも、こうした自衛権を巡る本質的な議論を提起していきたいし、各党会派のご意見をも伺いたい。
編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2023年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。