電力各社が、使用ずみ核燃料プールが一杯になったため、発電所の構内への乾式貯蔵を検討しています。これを朝日新聞などは「発電所がなし崩しに最終処分場になる」と批判していますが、技術的には何の問題もありません。中間貯蔵も再処理も地層処分もやめ、サイト内で永久に貯蔵すればいいのです(2021年9月15日の記事の再掲)。
伊方原発では発電所内で「乾式貯蔵」している
核廃棄物は全国の原発に1万8000トンあり、使用ずみ核燃料プールの75%が埋まっている。これを再処理しないとプールがあふれて原発が止まる――という話がよくあるが、これは錯覚である。
使用ずみ燃料を貯蔵する場所はいくらでもある。各発電所のサイト内にキャスクを置いて乾式貯蔵すればいいのだ。四国電力の伊方原発と九州電力の玄海原発ではこうして構内貯蔵している。
今は最終処分までの一時的な保管方法ということになっているが、このまま半永久的に保管してもかまわない。スペースは100年分ぐらいある。乾式貯蔵は枯れた技術で、安全性は問題ない。空気が循環するだけで冷却できるので、何もしないで放置しておけばいい。
サイト内だから立地問題はなく、警備もできる。何か起こっても地上に置いてあるので、すぐ対応できる。再処理をやめたアメリカでは核廃棄物はすべてこの方式で処理しているが、何の問題も起こっていない。
つまり地下数百メートルに埋める「最終処分」は必要ないのだ。最終処分は地層処分でやるという固定観念があるが、最終処分地が見つからなくても、いつまでもサイト内で「中間貯蔵」できる。電力会社が地元との協定を改正して無期限に置けば、核廃棄物の問題は解決するのだ。それがヒッペルなどの提案である。
最大の問題は「地元感情」
これは技術的には簡単だが、政治的には問題が多い。まず地元との約束を破ることになる。六ヶ所村の場合は「最終処分地にしない」という協定を国と青森県で結んでおり、大臣が変わるたびに更新しているので、これを破ると「3000トンの核廃棄物を持って帰れ」という話になる。
各発電所でも、サイト内にキャスクを置くことには地元が反対する。四国電力や九州電力や中部電力は「中間貯蔵ではなく構内貯蔵だ」という協定を地元と結んでいるが、関西電力はそういう協定を結んでいないので、使用ずみ核燃料プールが一杯になると原発を止めないといけない。そういう発電所があるかぎり、六ヶ所村の再処理工場は存在する必要がある。
しかしその目的は「核のゴミはよそに捨てる」という各発電所の地元との約束を守るための時間稼ぎなので、再処理工場が動く必要はない。むつ市の中間貯蔵施設では、5000トンまで乾式貯蔵できる。その処理コストは原子力委員会の試算では使用ずみ燃料1トンあたり6900万円で、再処理の4億6000万円よりはるかに安い。
もう一つは、六ヶ所村に置いてある3000トンの使用ずみ核燃料が燃料からゴミに変わることだ。使用ずみ核燃料は、再処理して高速炉で燃やす燃料だという建て前になっているので、その資産価値は15兆円程度。各電力会社の資産に計上されている。それがゼロ(あるいはマイナス)になると電力会社は大幅な赤字になるが、これは会計規則の変更で解決できる。
意外に大きな問題は、海外に置いてある37トンのプルトニウム(MOX燃料)である。これは最終的にすべて日本に搬入されることになっているが、各電力会社に所有権があるので、政府が変えることはできない。2012年に民主党政権が失敗したのも、これが原因だった。これはそのまま引き取ってはくれないので、政府が賠償する必要がある。
電力会社が核燃料サイクルにこだわっていたのは総括原価方式を守るための人質だったが、発送電分離した今では意味がなくなった。今では立地市町村の地元感情が唯一の問題なのだ。これは民主国家の宿命であり、これを解決できるのは電力会社でも役所でもなく政治家、それも首相だけである。