ある投稿が目に入った。
核問題の専門家がいない中で核なき世界を議論。 https://t.co/1PC2pxGDdx
— nobu akiyama (@nobu_akiyama) April 27, 2023
この秋山信将・一橋大学教授は、日本人でもかなりレベルが高く、世界に通用する数少ない専門家だと常々思っている方だ。その先生が今回の「朝まで生テレビ」に関して、放送前に上記を書いた。
そうなら、是非拝見したいと思った。「核無き世界」だけでなく「ウクライナ戦争をどうするべきか?」「停戦を呼び掛ける?」も、重要な議題だ。
(出演者の1人)小原凡司氏:停戦ができればいいが、日本人がウクライナに停戦すべきというのは”おこがましい”。止めたいというウクライナの希望は、どこかで受け入れないといけない。だが欧米が既にやっているが、押し付けるものではない。
森本敏・元防衛相:ウクライナが負けるようなことにしてはいけない。2度と欧州で侵略できないようにするレベルに落とし込むのが一番重要。
両方とも「正論」だ。同意できる。このお2人と片山さつき議員、さらに武隅氏(ジャーナリスト)は、安心して聞いていられた。
だが残りの方はどうか。弁証法的考えで、アンチテーゼとしての価値があるが、世界のことを知らないといえる。その結果、日本の国益を損なうと思うので、ここで検証してみたい。
実名を出す理由は、当然ながら個人攻撃が目的ではない。あくまでも、それなりの肩書をもち、数百万以上の視聴者が見て、日本の世論形成に直接影響する力をもつ人々だからだ。可能ならば反論を期待、アゴラで議論をしたい。
筆者は過去40年くらい米国を中心に世界中でこの種の議論をして、食べて来た。日本語だと直球で厳し過ぎる表現になるかもしれない。だが「事実」と「論理」。これが世界に通用する。
正答は1つではない。最終的に結論は出ないかもしれないが、議論すれば、それまでお互いに気が付かなかった事実・視点・解釈がみえることも多い。自身で事実を直接調べず、現場も見ないで、人が書いたもの、伝聞ばかりに基づく「思い込み」「決め付け」は、日本の国益を損ない、我々の安全が脅かされるからだ。
羽場久美子氏。青山学院大の名誉教授。最初に登場する専門家だ。筆者と同じヒロシマ「被ばく2世」らしい。だが世界を知らない。僭越ながら、もっと勉強したらと申し上げたい。
まず、以下の発表をこの番組出演の数週間前に、大々的に記者会見でやった。信じられないことに、いつものこの番組の司会、田原氏も同席している。同意見らしい。
日本市民の宣言。(田原、羽場、伊勢崎各氏ら)
「露とウクは即時停戦のために協議を再開すべき。G7は交渉のテーブルを作るべき」
「これ以上戦争を続けてはならない」
上記の発表に対して、篠田英朗・東京外国語大学教授が、以下を書いている。
「ロシア・ウクラ戦争”停戦”マウントをとる高齢者への疑問」この篠田先生、筆者自身の無知で、これまで存じ上げなかったが、上記を拝読すると世界を知っている専門家だ。素晴らしく、鋭い論考だと分かる。
羽場氏:「露は何度も停戦を提案したが、ウクライナが拒んだ」
そして上記の主張。なにを言っているのか。これまで占領した地域は、そのままロシア領として認めろ的な提案だ。最初から受け入れられるはずがない。それに応じない「ウクラが悪い」的なことをよく言える。この羽場教授は世界国際関係学会アジア太平洋会長という立派な肩書があるが、本当に国際政治学者なのか?
さらに以下のコメント。
羽場氏:「英国による劣化ウラン弾供与は、”核抑止”を越えて、実戦配備になっている」
本当になにも分かっていない。劣化ウラン弾をどこまで知っているのだろうか。弾頭そのものや、戦車の穴をみたことあるのか?使った兵士から話を聞いたことあるのか?想像だが、100%証明できていない放射能汚染データばかり読んで、海外の同じ意見の仲間とだけ議論しているのでは?と推察する。
劣化ウラン弾は確かに国連では禁じられている兵器だが、日本も昔は使ったことがあるし、米国などの言い分もある。健康被害も各種議論がある。筆者は直接(生)取材をした。米軍は、通常、国防に命を賭ける兵士の健康を優先にする。反論を多数抱えても、かなりいい加減な医学データを元に、信じられないくらい簡単に訴訟が起きる。重要視することと関心の高さは多分世界一だろう。だがこの問題では因果関係を認めていない。英国も問題無しと判断するので、供与した。各種議論があり、結論はいまはまだない。
ここでの論点は、羽場氏がいう「核抑止を越えて」という部分だ。基本的に「核抑止」は「核兵器」の役割だ。電磁パルス攻撃が抑止力のリストに入りつつあるが、それが世界の常識。安価で貫通力が強い「劣化ウラン弾」は、核兵器とは違うもの。なぜどのような抑止力を持つのか?昔、国連の片隅でこのような少数集団が各種主張するのを見たことがある。だが今回のような「劣化ウラン弾の抑止力」聞いたことない。意味不明。
羽場氏:「日本は降伏しなかったので原爆などを経験した。だからウクライナにも同じ経験をさせてはならない。まずは戦いを止めるべき」
日本とウクライナの違いをご存じだろうか。1945年当時の日本に味方はいなかった。あくまでも、「全体主義・軍国主義」に「退場願う」という考えが、世界の殆どを占めていた。だが、ウクラのケースは?地球の1/3 以上が、経済・軍事などいろいろな形で、ウクラを支援している。大きな枠組みで基本的な論考は「民主主義とその勢力を守る」という理念だ。そこの非常に大きな違いを無視して、同列に扱う。論理的・道義的・倫理的におかしくないか?
羽場氏:「ウクライナ戦争は米側と非米側(露など)の”代理戦争”」
この番組の非常に若い男性出演者も指摘した通り。これも羽場氏は事実を知らないのか?プーチン軍の侵攻開始後、しばらく欧米は動かなかった。事態を注視していただけ。ウクラを代理として戦争をやらせるなら、ロシア軍侵略開始を受けて、喜んですぐに動いただろうが、それは事実としてない。
小生は明確に覚えているが、昨年2月か、プーチン軍侵略直後、ワシントンでも「まあクリミアもひどかったが、あの延長線上。兄弟喧嘩みたいなものだよね。同盟関係もないし、どうしようもないか、静観かなぁ」という声が多かった。同盟緩解がないとはいえ、いま思うと失言と言えるが、老害バイデンも「米軍は介入しない」まで言った。だが、それからしばらくして、ウクライナ人が毎日女性兵士も含めて、祖国防衛で必死に戦って、血を流す。死んでいる。民間人も虐殺されている。それをみて欧米、特に米国民は支援を決めた。
最近放送されたTVドキュメンタリー「緊迫の72時間」を見ましたか?欧米は、クリミアの時と同じようにロシアの勝利をかなりの程度まで確信していた。だがウクライナ人の命を賭けた戦いをみて、方針が変わった。本気で支援し始めた。これらのロシア軍侵略直後の「史実」が、直接取材、史実に基づいて理解できる(もし日本が侵略されても、日本人が自分らで真剣に戦う準備をせずに、実際に戦わないとする。そうならば、同盟関係があっても、米が支援しない可能性が浮上する。だから岸田総理が支持率下降覚悟、国会無視で防衛費倍増、ミサイル購入を勝手にバイデンに約束した理由にもなる)。
代理戦争の側面はもちろんある。だがそれを全面に押し出すと、昔の冷戦と同じ、双方の言い分があり、永遠に結論が出ない。双方ともに正しい。米国の責任、間違いもたくさんある。下手するとプーチンは米国の侵略行為からの正当防衛で正しい。一方的にウクライナ支援は正しいことではない。このような論に達する。完全否定はできないかも知れない。だが、現時点での優先事項は、祖国防衛で毎日死んでいるウクラ人を支援すること、虐殺されている民間人を守ること、ウクラという国を無くし、ロシアの一部に同化させることが目的で、(昔のシベリア抑留日本人と同じように)強制連行されているウクラ人の子供たちを助けることではないだろうか。引いた大きな枠組みでの議論は、(日本人が好きな)お互いの言い分を聞くという印象を与えて、一見納得できそうだが、いまこの時、直面する現実の問題から目を背ける。さらに、現状を武力で現状を変える蛮行を認めて、中国に誤ったシグナルを送ることにもつながる。それは日本の国益を損なう。
柳澤という元NHK記者も、ロシア軍侵略直前に「思い込み」で言った「米国は戦争を煽っている」という発言も耳を疑った。抑止を目的で開戦前に諜報を公開するなど国益を損ないつつ公表していたことを、全く理解していない。いかに全力で戦争阻止をしようとしたか分かっていない「決め付け」ばかり。伝聞ばかりで、ワシントンの直接取材などしていないからだろう。
ただ、当然ながら、ウクライナ戦争の「背景・歴史」はお互いに言い分があるので、代理戦争の側面はある。
その一方で重要な論点は、例えば「NATO東方拡大」をプーチン正当化に役立てることがある。米国は過去100年くらい世界に民主化で働きかけている。よく米だけでなく欧州でも、筆者が現地で実際に言われてきたが、米国の世界の民主化の「成功例は日本」だ。だから他の要因もあるが、米国は英国と一緒に世界に民主化を働き続けている。今回のウクラ支援もその一環といえる。
ウクライナ戦争のように、専制国家が戦争を始めることはよくあるし、同時に米国のような民主国家でも戦争を何度も何度も始める。だが民主国家「同士」の戦争は、非常に少ない。
そしてNATOの東方拡大は米国の責任で、それを脅威に感じた露がウクラの対して開戦・侵略したことは正当化できるという論。プーチンが何度も使っている論だ。
だが考えるべきことがある。NATO加盟諸国の1つ1つが独立国であり、自国の判断で加盟を決めて来た。米国の働きかけで拡大が起きた。だから代理戦争で、プーチンを正当化できるという考えは、様々の要因があり、数冊の本が書けるくらい多種多様な議論・反論ができる。
ユーロ・マイダン革命、ミンスク合意などなど、耳を疑ったが、司会の田原氏はよく分からないと言った。当然ながら、今回のプーチンの蛮行を説明する要因だ。これらの史実はウクラを論じる時、最低限必要な要因だ。
筆者は侵略直前にも書いた。それらも当然説明要因として議論する価値があるが、より重要なのがプーチンが描く「大ロシア」構想。民族・宗教も直接関係する側面だ。正当化できるかは別論だが、ここはロシア人にとって手強い部分だ。
NATO東方拡大だけに関して言えば、独立国としての各参加国の自主判断、独自性を無視するという意味で無理がある。
羽場氏:「中印などグローバルサウスが中心の国連の中立軍を入れて、停戦交渉を可能にする」
国連の中立軍? 一体なにを言っているか。昔、国連軍、PKOなどという時、国連が軍を持っていると思い込んでいた日本人がいた。このレベルに近い。
この羽場氏が言うことは、国連を30年以上現場取材した人間として耳を疑う。中印などがウクライナに自軍を送り込んで停戦を実現、維持、促進させる? そもそも安保理の承認が得られる? ロシア・ウクライナが受け入れる? 中立軍が自分の血を流すのを覚悟で、現場に乗り込む?あり得ない。
これまでの歴史をみても分かる。過去、国際貢献でも殆どが憲法9条などが障害になって、日本はやってこなかった。カンボジアPKOの議論を知っていますか?小銃が1丁?2丁?という日本の議論など聞いて、あの時、筆者は日本人として国連で恥ずかしかった。その後、サマワ辺りでも日本の自衛隊は外国軍に守ってもらっていた。日米地位協定を批判する人はこの事実も直視するべき。
理想論に基づく綺麗ごとばかり言っても、結局自分の血は流したくない。そんな日本が中立軍を呼び掛けても、どこの国の誰が聞きますか? そんなこと中国が実行する?
羽場氏は中国の学者と話していて実現に向けて中国側も乗り気というようなことも言った。もちろん、小さな動きが大きく成長することがあるので、意味はある。しかし現実論として、共産党独裁の国、習近平がそんな学者集団の言うことを聞きますか? 今回の記者会見に同席して、羽場氏とほぼ同じ意見の伊勢崎氏も、筆者は昔直接やり合ったことがあるが、彼は現場を少し知っている割には、理想論ばかり、現実を無視。もし日本に被害が出た時に、自分らでは責任が取れないのに、綺麗ごとだけをいう。
羽場氏:「もうすぐ米は中に経済的に負ける。覇権を取られるのが受け入れられないので敵対する」
日本人の多くは悪化するいまの米中関係が、80年代の日米経済摩擦との共通点がかなりあると思い込む。経済的に米は中に負けて、覇権を失うのが嫌なので、敵対関係を煽っているという論だ。違う。米国を本当に理解すれば少しは分かるはず。経済でも「正当な競争」で負けるなら、米国は別に敵視などしない。
前回のアゴラにも書いたように、経済以外の共産党独裁、言論・報道の自由がない側面、やはり民主的ではない部分を、米国は脅威に感じて、敵視している。2つの大戦とベトナム戦争を合わせた以上の100万人が死んだ「コロナ」発祥情報の隠蔽が1つの例だ。
司会者の田原氏。以前は日本国内の高い評価を恐縮だが、存じ上げない。だが最近の発言は、現場を知っているジャーナリストとして頭を傾げることがかなりある。
田原氏:「この国に絶対に戦争をさせない」
こちらが戦争させないと、いくら叫んでも、プーチンのような人間は、自己正当化、自分勝手な理由を作り上げて侵略する。それが冷徹な現実だ。その時になにもしない? 準備もなし? 戦争させないと叫んで終わりではなく、現実的になにが抑止になるか考え、具体的な議論をして、実現するのが肝要だ。
田原氏:「いろいろな国が核を持っているから、戦争が起きないと思っていた」
冷戦終結後以前から、これからは全面核戦争はまずないが、大中小の紛争と戦争はかなり大きい確率で起きると指摘されており、それが世界の常識だ。
田原氏:「日米地位協定の改定を求む。ドイツ・イタリアはできた」
基本を理解していない。ドイツなどは、NATOという軍事同盟の一員で、お互いに助け合い、お互いに血を流し合うという義務を果たす。一方の日本は憲法9条という足かせで、基地提供と引き換えだが、米国は日本のために血を流す。だが日本は米国のために血を流さない。共通の敵と戦う時、日本だけ仲間のために血を流さない。こんな片務条約、不平等条約は世界にない。ドイツなどと日本の立場が基本的に違う。その結果が同じであるわけがない。地位協定問題の理由の1つがこれだ。
歴代の米政府はそれなりに納得している。だが米国民と議会はどうか? そもそも、日本と関係がある人を除けば米国人一般は日本のことはあまり知らない。ワシントンに長期いれば分かること。昔、トランプが「日本が米国のために血を流さなくて良い、これでいいのか?」と、メイン州で問いかけた時、それまで知らなかった観衆は驚き、不満の声を挙げた。
小川和久氏という軍事アナリストがいる。最近、日本は米国にとって1つの州のようなもの、どこかに攻撃されても、米軍が自動的に動くと言う内容を言った。違う。全く分かっていない。多分伝聞ばかりだろう。少しはご自分で、ワシントンの直接調査をしたらよい。最近ではいつ訪問したのだろうか。誰と会ったのだろうか。5年くらい前まではそうだったが、最近の米国を知らないで、思い込みを書くことは日本国益を損なう。
前米インド太平洋軍司令官デイヴィッドソン大将の台湾有事のシナリオも、「軍事的にあり得ないウソだ。一刀両断にした」という宣伝文句で、小川氏は本を売っている。CSISなど過去10数年以上、米国は欧州などとも協議しつつ「上陸可能性」も含めて、台湾有事のシナリオを数十本20以上検討、公表している。多分それもご存じないのでウソと言う。反米、米国批判は本が売れると聞くが、ひどい話だ。
また上院軍事委員会でウソをいうと刑事罰を受けること。基本的なことも知らないようだ。ウソならば、米メデイアや専門家が大騒ぎする、だが他のシナリオもそうだが、賛否両論はワシントンの常識のため、なにもない。ウソというなら、デ大将ご本人が東京に来た時に議論を申し込めばよい。それさえもできない。いかにご自分の主張に自信がないかの証明になる。日経が大将ご本人に最近再度確認した。本人はいまだに間違っていないと言った。だが小川氏は大将にその確認もできないし、していない。ご本人こそ、ウソを書いたという証明になる。小川氏が書くのは、多分日本語だけなので、欧米では誰も相手にしないが、卑怯で姑息な論法だ。
ご本人的にはそれでよいのだろうが、とんでもない一方的な解釈で、台湾有事シナリオがウソなら、日本国民に無責任で危険な安心感を与える。さらに米軍責任者がウソで煽るなら、米軍全体が信用失墜などと、日本人の多くが解釈するという意味で、日本国益と日米関係を損なう。日本では小川氏のレベルでも専門家と言えるのだろう。彼はデ大将自身と議論もしないし、できない。筆者の問いかけに反論もできない。本当に信じられないレベルだ。
台湾などの有事で、米は日本を防衛するか?佐藤正久自民党議員は、かなりの程度まで世界の中の日本と現況、日米関係を理解している本当に素晴らしい専門家だ。彼が最近ワシントンに来て議会関係者と会った。小川氏のような伝聞ばかりではない。例えば尖閣諸島が攻撃された場合、誰も住んでいないヤギだけがいる小さな島で米兵の命を賭けるのには抵抗があるという内容を言った。米軍出動はないとまで言っていない。しかし、議会関係者と話た結果、少々の不安を感じたとした。
これは過去20年以上、筆者が何度も何度も行って来たこと。ワシントンで多数に言われたことで、筆者はモンデールなどから始まる米政府の「尖閣攻撃でも米国が日本を守る」という約束を聞いた。筆者はそれを疑う日本人の多くを20年以上に渡り説得してきた。国務省、国防総省の担当者のインタビューでも紹介した。5年くらい前までは尖閣だけでも、米軍が動く可能性があった。筆者は断言できる。
しかし、トランプ誕生辺りからワシントンの雰囲気が変わった。既に米国は国力が落ちて、求心力も減少、トランプが言うまでもなく内向きになり、国内は分断されて、世界のことはあまり優先ではなくなった。警察官などやらないし、できない。これまでの世界を民主化するという理念への熱情が薄れている。つまり、同盟国であっても、日本の尖閣辺りが攻撃されても、日本人自身がウクラ人のように真剣に祖国日本を守る気がないなら、米軍がすぐに出動するという雰囲気ではなくなっている。
そして地位協定。筆者は横田基地を訪問して米側の責任者、ソンバ―グ法務官とも長時間対談した。彼と長時間、直接対談した日本人ジャーナリストは多分いないと思う。
取材前に勉強して分かったのは、ドイツよりも日本の方が優遇されている側面もある。
肝は前述のような日本は米のために血を流さないこと。これが米議会・世論に知れた場合、改定案が通過しても、批准する時、その不平等性が議会で問題になる。現在より、日本に不利になる可能性が高い。それが分かっているので、日米両政府は改定しないで、その代わりに、合同委員会で、毎回毎回柔軟に対応してきた。日米政府が議論して合意の上で事態収拾をやっている。
協定に関する規定の解釈と、現実的な適用は硬直化していない。常に流動的、柔軟に問題に対処しており、日本政府も納得している。ソンバーグ法務官は「協定は生きている」と、明確に筆者に強く言った。つまり、地位協定の改定は日本にとって有利になり保証がないどころか、逆にいままでより日本に不利になり可能性があるという。
田原氏:「米国の覇権が継続できないので日本に一部肩代わりを依頼」「米国が岸田総理に防衛予算倍増を要求した」
田原氏や他の普通の日本人が思い込んでいることで、ぽっかり抜け落ちていることがある。
まずは「米国が日本に要求」という部分は、ここ10年くらいまでは確かにあった。筆者もジョセフ・ナイやデイック・アーミテージのような米政府高官、駐日大使、知日派、CIA, NSCなど米諜報関係者多数の対談を、20年くらい前を中心に数えきれないくらいの数をやった。その度に「日本は米国にオンブに抱っこ状態から卒業して、もう少し防衛義務を果たせ。防衛予算を増額、自衛隊も現場で即応体制ができるようになれ」と言われた。その結果、30年以上前にはあまりなかった日米軍事訓練も増えた。自衛隊の若者が災害支援以外の任務を実感するようになった。
しかし最近の動き、特に10年くらいはそれに加わることが出ている。
元外交官でキヤノングローバル戦略研究所の宮家氏は信頼できるし、コメントを安心して聞いていられる専門家だ。彼も最近指摘した。ここ10年くらいは米国からの圧力、依頼はあまりない、それより、日本が自ら望んでいることが中心で、それが増加している。
特筆すべきだが、ウクライナ戦争以前から「自国は自国で守る」という意識が、日本国内でも高まり、徐々にその実現に向かって前進し始めている事実がある。
冷戦が終り、米国の覇権も翳りをみせる。国内問題でますます余裕がなくなっている。それまで日本の面倒をみようという気持ちが弱まっている。多極化がますます進み、先行きの不透明さが増している。ウクライナと、より強敵な中国に対処する2正面が難しい。
日本は前線国家として、逃げられない。最悪の場合、米国は東アジアから手を引ける。それらを考えると、ウクライナ戦争に関する民主主義陣営防衛は別論だが、自国防衛に関して、日本が米国の覇権の一部を担うとか、冷戦時代のことなど、狭量な思考は要因として小さい。
米国の後ろ盾がなくなり、丸裸になった場合も考えないといけない。その結果、日本が独自に防衛体制を整える必要性が増している。弾薬が2週間しかもたないとか、弾薬庫やミサイル設置が地元の反対で実現できないなど、言っている余裕は、もうないのだ。
向こう2年くらいはほぼ大丈夫と思うが、それ以降「台湾有事」は、1割くらいの確率で起きそうだ。
田原氏:「今回の防衛費倍増は理解できない。最初に数字ありき、中身が分からない。なんで急にこんな倍増案が出たのか?米国からの圧力だ」
この発言も分かっていない。政治家中心の日本国内の取材ばかりで、米国の直接生取材をしているとは思えない。
日本国内の防衛費論議、人件費高騰、より高くなっている新しい装備品の買い替え、ウクライナ危機のずっと前から、なんとかしないといけないという議論が日本国内であった。ウクライナ危機で、一般国民の理解が深まる前からだ。米国の圧力などは無視できるくらい小さい。
米国にとって対中国政策は、これから10年以上最終戦の外交課題だ。不沈空母としての日本との関係は豪州やNZ,インド太平洋諸国以上に重要な側面がある。だが同時に、米の余裕のなさ、トラ台頭など国内問題を考えると、日本の米国への依存度はこれからどんどん減っていく。
そして、日本人の多くがもつ理想論である「9条があれば平和が保てる」「戦争しない国の宣言」も本当に日本の平和に貢献するのだろうか。唯一の被ばく国として核兵器廃絶を世界に訴える。これらが、米国の核の傘から出れば、説得力をもつようになる。ただし、防衛予算は米国の肩代わり分が無くなるので、いまの数倍が必要になる。筆者は反対だが、核シェア可能性も議論するべきだ。
田原氏:「米中対立を和らげるのが重要で、それが日本の役割」「バイデン・菅会談。台湾に武力行使させないように日本に頼む」
これも田原氏の思い込みの典型例だ。日本の役割を過大評価している。二階氏や林外相が習近平と関係が良好だというのが根拠だろう。習近平にとって敵対する米国との関係に関しては、二階氏などの親交は全く大きな要因ではない。米国は特に日本に依頼することはない。とにかく協力して、邪魔しないでくれというのが中心だ。
少し前に日本人識者(名前失念)が、田原氏に明確に言ったように「日中関係は米中関係の一部」であるのが世界の常識だ。中国は日本を米国の属国だと思っている。つまり、米国と離れて日本が中国と交渉して、米中関係改善に関する何かを、独自に引き出すことはまずないし、できない。つまり、バイデンが日本に米中関係改善を頼むことはない。経済関係ならある程度日本は独自にできるが、それも米国の期待を裏切るレベルまでは無理だろう。
まずは、日本人がスパイ容疑で拘束されたケースで、林外相が習近平に働きかけて釈放など結果を出すのが良い。田原氏は林外相が頼めば、釈放されると思ったという。やはり分かっていない1つの証拠だ。一応、中国は法治国家。最初から無理なのだ。特別扱いも期待できない。田原氏が思い込んでいるような外交力、特に米中改善に役立つ力は日本にはない。つまりバイデンが頼むことはまずない。
田原氏:「露は核を使わない。脅しだけ」
猿田氏:「これ以上戦争継続でもどこにも行き着かない」
両氏のコメントに関係があるので、一緒に論じる。この戦争は、どこに行くか、どこにも行き着かないかの話ではない。一部は違う意見も出つつあるが、欧米が実際にやっている支援継続に意味はある。前述の羽場氏ら世界知らずの日本人が求めるような停戦は、半年くらいはない。世界を知らない日本人には受け易い「停戦」という言葉だが、自分らが民主主義勢力の一員であることを忘れている発言だ。
ウクライナ戦争を語る時に、最初から最後まで、常に忘れてはいけないこと。プーチン軍が独立主権国家ウクライナを一方的に侵略している事実だ。そして、習近平はどうなるかじっと見ている。それもあり、一部日本人がいうような、代理戦争、喧嘩両成敗的な考えは受け入れてはいけない。このプーチンの蛮行は絶対に認めてはいけないのだ。
もうすぐウクライナ軍の反攻が始まる。結果予想は難しい。しかし、ある程度までいくが、クリミア奪還はほぼ不可能と思う。出来たとして東部の一部奪還で合格点くらいか。クリミアまでいくと、一番恐れたロシアによる戦術核使用が現実味を帯びる。
田原氏は「核使用などない。使えない。プーチンの脅しに乗せられるな」という。もう1人の親露でここに紹介する価値もない木村氏も「ロシアは使わない」と断言する。これも現実が分かっていないと思う。
まずは最初からプーチンの脅しに必要以上に乗せられることは有害だ。だが使用可能性には準備が必要だ。あり得ないなどというのは最悪のトンボ思考で、破滅を迎える。
猿田氏のいう「行き着く先」、来年くらいには仮の結論、朝鮮半島のような停戦状態になるだろう。それまでに、プーチン政権はかなり疲弊する。プーチンが夢見た「大ロシア復活」に楔を打ち込む。現在ウクライナ人が流している血の代償ともいえる。筆者は過去1年くらい言っていること。朝鮮半島のようになる可能性大。それでも、現在ウクライナ人が血を流している意味だ。
そして追い詰められると、プーチンは戦術核を使う。一応、半年くらい前の米国務長官の明確な警告をした。もし使えば、欧州への核攻撃と捉えて、非核、通常兵器で、ウクライナ領内のロシア軍を殲滅する。これがいまでも将来も、間違いなくプーチンに対して強い「抑止」になっている。だが、クリミア奪還までウクライナ軍が達しそうになると、プーチンはロシア全体を守るため、国家の危機、限界点を越えるという理屈で、小型核が使用される可能性が限りなく大きくなる。
「戦術」などという言葉は死語だ。筆者が日本人ジャーナリストとして唯一ロスアラモスを訪問取材、日本に紹介したB61-11などの使い易い「低出力核」は、いまやプーチンにより戦術ではなく戦略的に使われ始めた。
基本的に信頼できる森本氏の発言で、1つだけ発言で分からないことがあった。
森本氏:「中国専門家と会った。ロシアが実験に失敗したこともあり、一方的に核軍縮を止めた。米露の交渉が再開するなら、英仏も話し合いに入れろと露がいう。もしそうなら”中国も参加したら?”と、自分が言ったら,中国は自分にこう言った。”2035年くらいか、米露と同じ1500くらいになったら考慮する”という。かなり驚いた」
彼がなぜ驚いたのか、分からない。温暖化もそうだが、中国は20年以上前から、欧米と同じレベルになるまで、このような枠組みで拘束されたくないと言い続けているからだ。
日本など世界の多くが望むはずの「核廃絶」は夢のまた夢でも、「核軍縮」「核拡散防止」は何とかしたい。筆者は核廃絶論者の、キッシンジャー、ペリー、シュルツら、反対の立場のシュラシンジャー、マクナマラ、イーグルバーガー、ジム・ベーカー、レアードら米国を動かしてきた国防長官、国務長官の長時間直接対談を、複数回やっている。
廃絶をぶち上げてノーベル賞をもらったオバマもそうだが、廃絶の基本的な理由は、日本の被爆体験ではない。もちろん、どれだけ結果が悲惨なものになるかを学んだ体験にはなっている。可能ならば、無くしたいという気持ちにつながる。
だが一番の目的は「核拡散防止」だ。核管理ができない国家、明確なドクトリンもなく、勝手に1人が使用を決められる独裁国家、最悪なテロリストらに核が渡ることを恐れて阻止するというのが米国の廃絶論理だ。
だが、現在の中国の方針をみると、廃絶どころか、軍縮、拡散防止も残念ながらかなり難しい。これまで真面目に核軍縮に取り組んできた米国も、これもソ連側の直接当事者や。カザフスタンなどの現場なども直接(生)取材したが、生物・化学兵器も含めてソ連・ロシアにも裏切られた。
さらに中国の核戦力拡大、これを受けて、米国も現在真剣に新たな核戦力「増強」に向かいつつある。
当然ながら、最後の最後まで、諦めてはいけないが、残念ながら人類は、目標と希望の逆の方向性になる可能性が高い。