チャールズ国王戴冠式と「信仰の隣人」

故エリザベス女王の後、国王を継承したチャールズ3世の戴冠式が近づいてきた。70年ぶりの戴冠式ということで英国内外で大きな話題を呼んでいる。戴冠式は6日、ロンドン中心部のウェストミンスター寺院で行われる。式典には、世界各地から2000人余りの要人が参加する。米国からはバイデン米大統領のジル夫人、日本からは秋篠宮ご夫妻が参列される。なお、英国王室からの情報によると、王室を離脱した国王の次男ヘンリー王子は出席予定だが、メーガン妃は欠席するという。

6日に戴冠式を迎える英国のチャールズ3世(バチカンニュースから、2023年4月30日)

6日に戴冠式を迎える英国のチャールズ3世(バチカンニュースから、2023年4月30日)

戴冠式では、チャールズ国王は金色の布の天蓋の下で、カンタベリー大司教によって祝福され、奉献された聖油が注がれる。ウェストミンスター寺院の戴冠式は、非常に宗教的な行事だ。チャールズ国王の多くの称号の中には、イングランドがローマと決別した後も維持された英国国教会の「信仰の擁護者」が含まれる。

メディアでは余り報じられていないが、聖公会が先月29日に発表したところによると、6日のチャールズ国王の戴冠式には宗教改革以来初めて、カトリック教会の司教が出席する。ウェストミンスターのカトリック大司教、ヴィンセント・ニコルズ枢機卿は戴冠式の終わりにチャールズ国王に祝福を与えることになっている。

戴冠式には、カトリック教会の代表だけではなく、他のキリスト教の宗教団体の代表も出席する予定だ。英国ギリシャ正教会のニキータス・ロウリアス大司教、「自由教会」の指導者ヘレン・キャメロン議長もチャールズ国王を祝福する。戴冠式の後、他宗教の合同挨拶が読み上げられる。プログラムによると、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、シーク教の代表たちがチャールズ3世に「信仰の隣人」として挨拶することになっている。

今回の戴冠式で注目される点は、チャールズ国王が宣言で「(全ての)信仰を保護する」と表明するか否かだ。チャールズ国王は皇太子時代の1994年、英国の宗教的多様性を反映させて「(英国国教会の)信仰の擁護者ではなく、(全ての)信仰の擁護者になる」と述べ、英国内で大きな議論を呼んだことがある。

新国王は母親エリザベス女王の死後、「これまでの伝統を継承しながらも時代の変遷に応じた改革を実施したい」と語ってきた。英国国教会ではヘンリー8世以来、戴冠式では伝統的に「Defender of the Faith」と宣言してきた。チャールズ3世はそれを「Defender of Faith」と宣言するというのだ。「the」(英国国教会を指す定冠詞)を除き、「全ての信仰の擁護者」という意味合いを込めて「Defender of Faith」と宣言することになる。英国内の保守派からは抵抗があるといわれているが、英国民の過半数は「戴冠式の式典自体はキリスト教会の伝統に基づくものだから問題はない」と受け取っているという。

英国の現政界を見れば、リシ・スナク首相はヒンズー教徒であり、ロンドンのサディク・カーン市長はイスラム教徒だ。そしてチャールズ3世は英国国教会の首長である。すなわち、英国は英国国教会を中心に他宗派の信者たちと共存しているわけだ。チャールズ3世はその現実を踏まえ、自身の戴冠式に「信仰の隣人」を招くことにしたのだろう。チャールズ3世にとって、英王室の最初の改革ともいえる。

ところで、ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁のマッテオ・ブルーニ広報官が先月20日明らかにしたところによると、ウェールズの英国国教会100周年を記念して「バチカン教皇庁は4月初めに真の十字架の遺物の一部を英国王に寄贈した」という。同広報官の説明によると、「真の十字架の遺物の断片は、国王陛下のチャールズ3世への贈り物であり、ウェールズ聖公会の加盟教会であるウェールズ教会の100周年を祝うもの」という。贈り物の十字架の遺物は、バチカンに保管されてきた貴重なものだ(バチカンニュースから引用)。

なお、聖公会(アングリカン・コミュニオン)は西暦597年、ローマ教皇の支配下でカンタベリー大主教が管理するローマ・カトリック教会所属の教会として始まったが、1534年、英国王ヘンリー8世はローマに離婚願いを申請したが、バチカンがその願いを拒否したことを受け、ローマ教会の支配から脱し、英国王を首長とする英国国教会を創設した。現在、世界に約7000万人の信者を有する。聖公会の教えは本来、ローマ・カトリック教会の教えを土台とし、宗教改革のプロテスタントの影響を受けてきたことから、新旧両教会の中道教会とも呼ばれる。

参考までに、英国国教会では2002年まで再婚することが禁じられていた。チャールズ国王とカミラ王妃は2005年に通常の結婚式を挙げ、その直後にウィンザー城のセントジョージ礼拝堂でカンタベリー大司教から祝福を受けている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。