新聞の苦境は公知の事実である。日本新聞協会によれば、2000年の発行部数5371万部が2022年には3085万部と縮小が続いている。2012年度には1兆1519億円だった販売収入が2021年度には8229億円まで減少し、同じ期間に広告収入も4458億円から2669億円まで減った(日本新聞年鑑’23による)。
1981年版の日本新聞年鑑によれば、朝日新聞の国内取材網は総局1、支社9、支局79、通信局208で構成されていた。2023年版には総局44、支局151が掲載されている。末端の通信局は支局に呼称変更されたうえ、57も減っている。81年には高知総局の下に中村、須崎、安芸、室戸の4通信局があったが、今では高知総局しかない。経営悪化につれて、国内取材網は縮小されてきた。
日本新聞協会から報告書「デジタル時代の新聞の公共性を考える」が出版されたというので取り寄せて読んでみた。
「知る権利に応え、民主主義を支える新聞の公共性、権力を監視し、より良い社会の実現を目指す新聞の立場はこれからも変わらない」というのが報告書の基本的立場である。それに沿って多くの識者が今後について提言している。
そんな中で、米国企業による調査結果を引用して厳しい指摘をしたスマートニュースメディア研究所の瀬尾傑氏は唯一の例外といってよい。
瀬尾氏が引用したのはエデルマン(Edelman)の「トラストバロメーター」と題する調査結果である。すでに2021年版も公開されているが、メディアを「社会を分断する勢力」と見なす割合が40%で、「社会を統一する勢力」の28%を上回っている。なお、政府は37%対37%で評価が割れ、企業は23%対47%で統一する勢力との意見が強い。
「民主主義を支える新聞の公共性、権力を監視し、より良い社会の実現を目指す新聞の立場」と真正面から対立する、「社会を分断する勢力」という調査結果である。
エデルマンは27か国で同じ調査を実施している。「虚偽の情報やフェイクニュースが武器として利用される可能性を心配している」割合が平均で76%、わが国でも64%に達している。しかし、メディアも信頼できないというのは深刻である。
なぜ報告書はこの問題を正面から取り上げなかったのだろうか。10年ほど前に朝日新聞が「角度をつけて」報道していると指摘されたことがあった。今でも依然として角度をつけていると人々は感じているのではないか。
国境なき記者団が2022年版「報道の自由度」調査結果を発表した。日本は68位、G7で最下位と朝日新聞が報道している。しかし、国交なき記者団は、朝日新聞は報道しない重要な指摘を、毎年恒例で行っている。発表原文の冒頭を翻訳して紹介する。
「記者クラブ」のシステムは、認められた報道機関だけが政府のイベントにアクセスし、役人にインタビューすることを許可する。「記者クラブ」はジャーナリストを自己検閲に誘導し、フリーランサーや外国人記者を露骨に差別している。
速報性では他のメディアに負けるのは明らかだから、読者の信頼に足る正確な報道が生き残りのための細い道である。角度をつけたり、報道しない自由を行使したりすれば破滅が近づくだけだ。