5月6日にイギリスではチャールズ王の戴冠式が行われました。
しかし日本での報道と現地での現状にはギャップを感じることが多いです。
まず 今回の戴冠式で日本のテレビではやたらと 王室反対派のデモが登場しますが、現地ではやっている人達は非常に数が少なく、しかもそんなに多くの場所でやっているわけではないので本当にマイナーです。
日本の報道は海外では大して騒がれていないことを大ごとのように報道することがよくありますが、 これもまさにそうでありましょう。
イギリス 全体としては王室の支持率は下がっているものの、しかしまだまだ大っぴらに反対するという人はかなりマイナーです。これは私の書籍である「世界のニュースを日本人はなにも知らない4」にも明記してありますが、王室は相変わらず人気はあるのです。
これは日本のテレビや新聞が左傾化しており偏った見解を持っているので、皇室に対して遠回しに攻撃をしたいという意図があるのではないでしょうか。
ですから日本の皆さんは、日本のイギリス王室報道は、三歩ぐらい引いて見た方が良いように思います。
2点目にイギリスでは今回の戴冠式がそれほど盛り上がっていないということです。
その原因は、まずイギリスが燃料費高騰とそれに連なるインフレで生活が本当に厳しい方が多いということです。インフレ率が10%近く、給料や年金は上がらない、光熱費は3倍近く、ガソリンは1L 300円を超えますので、どうやって生活すれば良いというのでしょうか。
日本は政府が割とよくやっており、安定を重視していますから、様々な分野で相当補助金が出ています。日本は気がついていない方が多いのです。イギリスや欧州の経済的困窮は本当に厳しいのです。
そんな中で莫大な税金を使って行われる行事を歓迎できる国民は多くはありません。
王室離れする伝統的支持層
3点目に現在の王室に対する不信感が国民の間で高まっているというのがあります。
私は実際、戴冠式の数日前に郊外やロンドンの中心、バッキンガム宮殿の前などに行ってみたのですが、エリザベス女王の葬儀の時は大違いでした。
葬儀のときに大勢見かけた真面目な感じの中年以上のイギリスや欧州大陸、旧植民地の女性達が実に少なかったのです。
イギリスの大陸欧州も王室のファンのコア層は50代以上の女性です。
特に保守系で経済的に比較的安定した人々で、身なりが割とキチンとしていて地味だが秩序を重視する方々。ところが今回はそのような方々がバッキンガム宮殿の周りにはあまりいなかったのです。葬儀の際は、このような方々がおり、私は周りの人々とおしゃべりしてすぐに友達になったのです。
とても品がよく感じの良いインドの方、イタリア、 フランス 、イギリス、ジャマイカ、 アメリカなどの人々です。
遠くから飛行機でやってきた方も多くエリザベス女王に最後のお別れをしたい、素晴らしい方だったということを次々と述べておりました。
そこには エリザベス女王に対する深い尊敬の念を感じたのです。
ところが今回の戴冠式ではどうでしょう。
まずバッキンガム宮殿の周りで徹夜していた人々は、どちらかというとヤンキー系の人々で、家族連れで来ており、通行人の迷惑関係なしに巨大なテントを道路に張って数日間住んでいるのです。
戴冠式は始まっていないのに、アルコールも入っており泥酔している人もいました。パーティー気分なのか、頭にユニオンジャックの帽子をかぶったり、全身に国旗をまとって酒を飲みながらの大宴会です。
どちらかというと国王や王室に対して尊敬を示すというより、単にバカ騒ぎしたいので来てみた、という印象を受けました。要するにちょっと 荒い地域の花火大会状態です。
小学生や中学生の子供達もいましたが学校は休みではないので、授業を1週間近く勝手に休んで野宿しているのでしょう。学校側はこういう欠席を歓迎はしませんし、罰金が存在することもあります。
さらに驚くべきことに、バッキンガム宮殿の前では、自分で勝手に作成した王冠のオブジェを持ってきて宣伝しまくっている人、絵を書いて周りの人に見せまくっている人など、自分のプロモーションや商売に熱心な人々もおりました。
良い意味で自由、悪い意味では無秩序です。
日本だったら眉をひそめそうな人だらけですが、周りにいる人間もパーティー 気分なので気にしていないどころか、一緒に大騒ぎです。
彼らにとって王室はインスタグラマーや、面白いYouTuberと同じような扱いなので、大騒ぎして自分を宣伝することができれば良いわけです。
そして主役は自分であり、自分が楽しむことが重要で、秩序や尊敬ではないわけです。
こんな雰囲気なので、エリザベス女王の葬儀の時に見かけたようなコアな王室ファンが、この場を避ける気持ちがよくわかりました。厳かさ、権威、歴史、そういったものは無視されていました。
伝統的な王室ファンの人々が今回の戴冠式を完全に祝福気分でないのは、チャールズ王がここ最近のスキャンダルにきちんと対応してこなかったというのが大きいでしょう。
今回の戴冠式には、児童の性的虐待で有罪となったアメリカの元富豪エプスタインと親しく、彼が性的虐待を行っていたカリブ海の島に滞在していたアンドリュー王子と、エリザベス女王やフィリップ殿下が危篤なのにもかかわらず暴露Podcastや暴露本の出版を辞めなかったハリー王子が参加を許されていたのです。
公務をクビになった彼らは軍服を着用することは許されなかったのですが、出席は可能でした。
これにはがっかりしていた人々が多く、戴冠式当日も聖職者や周りの人々がこの2人には挨拶をしなかったり、非常に厳しい視線を投げかけていたのが目立ちました。おもいっきりイギリスらしい仕草が発揮されていました。
遠回しに「あんたなんなん、嫌いやわ」と言っているわけです。テレビ中継でもわかるほどでしたから、現場ではかなり厳しかったのではと推測いたします。
そして当然チャールズ王とカミラ妃の長年の不倫、離婚、そしてダイアナ妃の悲劇的な死の影響もあります。
メディア時代の申し子であったようなダイアナ妃の死は、ハリウッドのスターやエルビス・プレスリーの死と並ぶような歴史的な出来事であり、80−90年代を代表するような悲劇でした。
イギリスの人々はこの悲劇をまだ昨日のように覚えており、その原因となったのがチャールズ王だと認識しているのです。
ところが戴冠式で王冠を被ったのはチャールズ王と元々不倫相手だったカミラ妃でした。まるで安っぽいソープオペラの一場面のようだと感じた人が少なくなかったでしょう。
そして戴冠式後のバッキンガム宮殿でのバルコニーでの国民への挨拶にはなぜかチャールズ王とは血が繋がらないカミラ妃の孫達が同席していたのです。これには大変ショックを受けた国民が少なくありませんでした。
王室は公的なものであるはずで、神の代理として人々に奉仕するという目的があるのに、チャールズ王はある 意味王室を私的なものにしてしまったのです。
戴冠式で繰り返された、
「神は王を守りたもう」
「王は神に奉仕する」
というフレーズが実に白々しく聞こえたのではないでしょうか。
国王自身が神に対しての神聖な誓いを立てた結婚を最初から無視し、堂々と不倫をやり、年若い妻を苦しめ、結果的に死に追いやってしまったのです。
イギリスも伝統的な人々というのは王室というのはただの血族ではなく、国としての統合を象徴するもの、シンボルであるという意識を持っています。
バッキンガム宮殿前に2つあるお土産屋さんには多くの王室グッズが揃っていますが、戴冠式直前であってもグッズの半分以上はエリザベス女王に関するものです。
淡いピンク色の美しい茶器や女王様の写真をあしらったタオルなどが並んでおり、王室のコアなファンである女性たちには大人気で手にとって眺めている方が大勢いました。エリザベス女王はその死後も人々の心を掴んでいるのです。
ところがチャールズ王のグッズは、非常に種類も数も少なく、手に取っている方も少ないのです。王室の先行きを暗示しているような印象を受けました。
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