タクシーの利用には、顧客の立場からすれば、多くのリスクがつきまとう。手を挙げてタクシーに乗るとき、どの程度の質の運転手にあたるかは全くの偶然であって、運転手間の能力、経験、知識、就労意識の格差が大きいことは決定的なリスクである。
そもそも、運転手の質に関するリスクだけでなく、空車のタクシーが見当たらないリスク、混雑状況に応じて、長時間となり高額となるリスクなど、タクシーの利用にリスクが多すぎることは、電車が確実という顧客の評価となって、タクシー需要の低迷を招いていると考えられる。そこで、タクシー利用のリスクを低下させる工夫によって、タクシーの潜在需要を開発できるはずである。
実は、既に、スマートフォンの普及と位置情報の高度利用は、技術的環境を根本から変えている。顧客が目的地の正確な位置情報を入力すれば、顧客の正確な現在位置に基づいて、目的地までの固定料金と見込み時間、顧客周辺にいるタクシーの運転手の評価と正確な位置が示され、顧客が特定のタクシーを選択すれば、料金支払いが自動決済され、タクシーが顧客に到達するまでの見込み時間が示され、後は待つだけとなる、これは既にウーバー(Uber)が実現していることである。
しかし、技術環境の変化がウーバーを生んだと考えることは正しくない。そうではなく、既存のタクシー産業の構造が矛盾に満ちていて、顧客の利益を損なっているだけでなく、産業の発展も阻害しているという事実の分析に基づき、タクシー産業のあるべき姿を理論的に構想することで必要となる技術要件が明らかになっていって、その高度技術の利用費用が閾値を超えて低廉となったとき、一気に事業として花開いたということである。
ここでタクシー産業について述べたことは、情報技術利用のあり方、利益相反を回避する利益誘因構造の設計、働く人が自律的に活動する喜びなど、全ての産業に共通した課題であり、普遍的に適用できることである。問題は、タクシー産業の場合は成果の定義と測定が容易であるのに対して、一般的には成果の定義と測定が難しいことである。しかし、それは技術的なことにすぎないわけだから、必ず何らかの解法があるはずである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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