米債務上限引き上げ交渉で原則合意、その中身とは?

ウォール街では「カブキ」、日本では「プロレス」と呼ばれる米債務上限引き上げ交渉で、漸く進展がみられました。

バイデン大統領とマッカーシー下院議長が5月27日に約90分にわたる電話会談を経て、2025年1月まで31.4兆ドルの米債務上限の適用を停止する”原則合意”に到達。31日に共和党が多数派を占める下院で採決する見通しとなりました。これで、イエレン財務長官が6月1日から6月5日に先延ばしした債務不履行(デフォルト)を回避する期待が高まります。

バイデン大統領は原則合意を受け、声明にて「合意は全員が自ら望むものを手に入れるわけではないことを意味し、妥協の産物である。それが統治者の責任だ」との見解を表明したように、妥結のために譲歩した様子をにじませます。とはいえ「破壊的な債務不履行(デフォルト)に陥れば景気後退、退職金の支払い停止、数百万人の雇用喪失を回避できるため、米国民にとってグッドニュースだ」と付け加えることも忘れません。

マッカーシー下院議長も「誰もが望む結果になっていないが・・・米国民にふさわしい原則的な合意であると信じている」と述べつつ、「新たな課税も、新たな政府プログラムもない」と強調しました。

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原則合意内容の柱は、米大統領選を挟み債務上限を2025年1月まで約2年間にわたり適用を停止する半面、同期間の歳出を抑制するというものです。主なポイントは、以下の通り。

チャート:原則合意の主なポイント

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(作成:My Big Apple NY)

共和党下院が可決した内容と比較すると、ご覧の通りとなります。フードスタンプ支給やエネルギー生産制限の緩和など共和党案が通った一方で、バイデン政権肝煎りのインフレ削減法に盛り込まれた気候変動対策向け税額控除、学生ローン免除(法廷闘争中)、メディケイドへの就労条件追加などは盛り込まれませんでした。

チャート:共和党下院で可決した歳出削減法案

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(作成:My Big Apple NY)

あとは米上下院で可決するのみとなりましたが、問題は下院議長選で大暴れした共和党下院で保守強硬派が支持するか否か。既にフリーダム・コーカスのボブ・グッド議員(バージニア州)はツイッターで「支持できない」と反発し、ダン・ビショップ議員(ノースカロライナ州選出)も「選択肢のカードを持つ傍らで、完全降伏した」と憤懣やるかたない様子。チップ・ロイ議員(テキサス州)は、今回の原則合意の詳細は不明と断りつつ「債務を4兆ドル引き上げる」として、疑問を投げかけます。

画像:グッド議員、原則合意内容に否定的

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(出所:Bob Good/Twitter)

下院は共和党の議席数が222議席(民主党は213議席)で、過半数の218議席を獲得する上で造反は4人までにとどめなければなりません。フリーダム・コーカスのジム・ジョーダン議員(オハイオ州)やウォーレン・デビッドソン (オハイオ州)一部の議員は原則合意を評価する半面、内容を精査したいとも発言しています。
また、民主党のプログレッシブが反対しないとも限りません。

常識的に考えれば、デフォルトに陥り米国民の生活を脅かせば反対した党の支持率低下につながりかねず、原則合意に譲歩するしかないように見えます。果たしてバイデン大統領とマッカーシー議長は、採決までにいずれの党派の強硬派を説得できるのか、それぞれの結束力が試されます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年5月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。