「日本で公務員の人気が低下」と中国メディアで話題に

黒坂岳央です。

中国のニュースメディア、澎湃新闻」(The Paper)(中国語)に日本の公務員についての記事が取り上げられ、転載先の新浪(Sina)で200を超える多くのコメントが寄せられている。

内容を簡単にいうと「中国では公務員人気が高まる一方、日本では近年、公務員の人気が低下している」というもので、その理由を多面的に分析している。

驚かされるのはその冷静かつ、的確な指摘である。日本人にとっては耳の痛い話も含まれているが、実際とても正確によく観察していると感じる。考察するに値する良質な記事と思い、私見を述べて取り上げたい。

※本稿では「公務員」と非常に大きなくくりで取り上げている。公務員、と一口に言っても様々な仕事があり、それぞれ事情はまったく異なる。だが個別の事情を考慮すると収集がつかないため、全体論的な議論となる点をご容赦頂きたい。

maroke/iStock

日本の公務員の憂鬱

記事では地方公務員は手厚い福利厚生と高い社会的信用が得られるが、窓口業務では利用者から怒鳴られたり鉛筆1本を買うのに、何重もの承認を経て1ヶ月近くの期間がかかる「非効率さに不満を抱く職員がいる」と紹介されている。中国では年々、公務員試験の受験者が増加しているものの、日本では過去10年間で減少傾向がある。

全体的に業務の効率化、IT化は遅れており公務員から一般企業へ転職した人は快適さに驚くとともに、これまでいた職場が停滞していたことを理解することになる。「ノー残業デーは、実質ノー残業”代”デー」であり、働く職員側の待遇は決していいものではないと取り上げている。

実際、自分の知人で公務員出身で今は一般企業で働いている人物から話を聞いたことがあるのだが、「自分のついている公務員の仕事の欠点は、長く働いても労働市場の価値があるスキルが得られないことだ。その組織でしか通用しない調整力とか、資料作成力。他の企業では評価されない」といっていた。

副業禁止も敬遠の理由?

昨今、副業を認める企業が徐々に増加してきたように思う。かつては副業をするというと、その会社での反乱分子のような扱いを受ける時期もあった。自分自身、会社員時代は副業をしていると堂々と言える雰囲気ではなかったので、週末起業としてこっそりやっていた(一度だけ仲のいい同僚に週末起業について打ち明けたら引かれてしまった経験がある)。「副業禁止の会社は時代錯誤、やめておきなさい」という人も出てきており副業解禁の雰囲気が少しずつ広がっていると感じる。

だが公務員は原則、副業禁止である。これは組織内で禁止されているということもあるし、利用者に知られるところとなれば強い抗議をする者が出ることは容易に想像できる。仮にスキルは労働市場で強烈に価値を帯びるものでなく(全部とは言わない)、副業も禁止となれば「万が一、何かあって仕事を続けられなくなってやめた時はリスクが大きい」と感じる人は出てしまう可能性はある。

「公務員は安定」は本当か?

「公務員は安定している」といわれる。確かに一般企業のように業績不振から解雇ということは少ないだろう。しかし、大局的にキャリアを考えれば本当に経済的な安定といいきれるかは分からない。

人生は良くも悪くも何が起きるか分からない。たとえ精力的に働き始めても、精神的、肉体的な病に倒れてしまえば働けなくなる可能性は残されている。また、職場の人間関係などで続けたくても離れざるを得ない事情を持つ人もいる。いざ労働市場に放流されることになってしまえば、すぐさま経済的基盤を立て直せるか?というところまでは保証されていないだろう。

仮に一般企業で高度な専門性の高いスキルを持つ人材になれば、転職に困ることはない。もちろん、リストラなどもあるかもしれないが、いざそうなってもスキルと経験に価値があれば転職すればいい。一般企業は流動的だが、その流動性は必ずしもハイリスクというわけではないのだ。

これは公務員と一般企業のどちらが優れているか?という二元論的な議論ではなく、長い人生を長く働く上で不確実性やリスクをうまく波乗りして働き続ける上での安定性を考慮しても良いのでは?という提言に近い。もしかしたら世間で言われている「公務員は安定が魅力」という真偽を考え直す時が来ているのかもしれないという話になる。

自分は公務員の仕事をしたことがないし、これまであまり考えたこともなかった。しかし奇しくも中国メディアの記事から我が国の状況を学ばされる事となった。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。