改めてスラップ訴訟に罰則を求める

アゴラ編集部の記事「立憲民主党が「脱糞民主党」を名誉毀損で刑事告発していた?」を読んだ。にわかには信じられなかった。表現の自由を保障する憲法21条違反の反立憲主義であり、衆議院の解散総選挙が噂される昨今、立憲民主党(以下、立民党)にとって、党のイメージ戦略を考えればこれ以上は思いつかないくらいの悪手、と感じたからだ。それゆえ、本当の話なのか訝しんだ。

弁護士の徳永信一という方がいらっしゃる。この話題に関してどうやら同じ印象をお持ちになったようで、自身のツイッターで次のようにツイートされた。

法律の専門家ではないが、徳永弁護士のツイートと同様に考えるのが世間的な常識であるように思う。

ところが、常識では割りきれない行動に出るのが立民党。アゴラ編集部の記事通り昨年公党として一個人を実際に訴えていたらしい。

訴えられたパンパカ工務店氏は、警察から家宅捜索を受け、物品を押収された模様で、自身のnote「警視庁から家宅捜査された」で「押収品目録交付書」の写真を公開している。

また弁護士ドットコムニュースが以下のような記事「「排泄物放置事件」めぐり立憲民主党を揶揄、ネット投稿者の情報開示命じる…東京地裁」にして報じてもいる。

Twitterなどに書き込まれた内容が名誉毀損にあたるとして、立憲民主党(泉健太代表)が起こした裁判で、東京地裁(長尾崇裁判官)は3月23日、権利侵害を認めて、投稿者の情報開示をプロバイダに命じる判決を言い渡した。

同記事では長尾裁判官がパンパカ工務店氏の個人情報開示を命じた理由についてこうある。

極めて低俗かつ卑猥な表現の仕方で原告の社会的評価を低下させようとする意図のもとにされていることは明らかであって、各投稿は、その表現の仕方の点において政党に対する表現の自由として最大限に尊重されるべきであるという類いのものではないというべき

失礼かもしれないが、パンパカ工務店氏のツイートに対する評価は長尾裁判官の考えとほぼ同じだ。ただし、或る一点を除いて。

「政党に対する表現の自由として最大限に尊重されるべきであるという類いのものではない」との指摘にまったく同感だが、表現自体を制限しかねない司法権の介入にはどうしても首肯できない。司法判断によって表現に正邪高低の基準が設けられれば、それが検閲の呼び水となって、結果的に社会の自由度を著しく低下させることになるからだ。特に政治家(むろん政党も含む)や政府、法曹三者のような国家の三権力に対するからかいの類はたとえ低俗かつ卑猥であっても認められる社会であってほしい、と個人的には考えている。

少し前にこんな記事「スラップ訴訟には罰則を科すべきだ」を書いたのも同じ動機によるものだ。何かを表現をすれば、無視されない限りかならずなんらかの批判を受ける。パンパカ工務店氏のツイートにも立民党支持者らを中心にたくさんの批判が寄せられたはずだ。SNSがこれだけ普及している現代なら尚更だろう。あらかじめ表現させないのではなく、誰かの自由な表現がそれを認めない人びとから批判を浴びる。その繰り返しが保障されていることこそ自由主義社会の基盤だ、と固く信じている。

今先進国は、例外なくポリティカル・コレクトネス(以下、ポリコレ)が巻きおこす嵐のただ中にある。一部の国民が彼らの信じる正義によって国全体で表現や行動を禁じようとする動きには、嫌悪しか湧かない。ポリコレを掲げるのは自由だが、それを拒否する自由のない国家は社会主義国だ。

何度も記事に書いてきたが、この国の自称リベラルは、ほとんどが似非リベラルで、本質はアナクロ社会主義運動の継承者たちにすぎない。無力な個人を告訴して黙らせようとする立民党の振る舞いは、彼らが真のリベラルではないことを自ら喧伝しているに等しい、と感じる。

立民党は今後どうするつもりなのか。告訴を取りさげずにこのまま裁判を進めるのだろうか。

今年3月、ちょうど同じ図式の裁判に注目すべき結果が出たことを弁護士ドットコムニュースは報じている。

ツイート投稿者を「いきなり提訴」した世耕議員を裁判所が批判、名誉毀損訴訟が異例の和解

自民党の世耕弘成参院議員に関するツイートをめぐり、名誉毀損で訴えられた青山学院大・中野昌宏教授が反訴していた訴訟は2023年3月17日、東京地裁(古田孝夫裁判長)で和解が成立した。

東京地裁が表明した和解条項に関する記事の内容は次の通り。

公人の政治的姿勢、言動等に関しては、国民の自由な論評、批判が十分に保障されなければならない。(中略)
その上で(世耕氏側が)事前の削除要請・交渉もなく、訴訟を提起するという方法をとったことについて、公人に対する言論を萎縮させるおそれがあるものと被告に受け止められ、反訴が提起されるに至ったことは、裁判所ならびに原告および被告にとって遺憾。

あくまで和解で、判決ではないので、判例にはなり得ないのかもしれないが、この裁判結果はパンパカ工務店氏に対する訴訟にも影響を与えるのではないだろうか。文面から察するに和解条項は事実上原告側の訴えを「濫訴」――「スラップ訴訟」と認める内容になっている、と思える。所詮は反スラップ訴訟法の制定を望む人間の身勝手な解釈だろう、と笑われてしまうのが落ちかもしれないが。

パンパカ工務店氏は経済的窮状を訴えている。潤沢な資金を持つ公党立民党相手に公判でどれくらい戦えるのかは想像もできない。それでも、ぜひ勝訴してほしい、と願う。優越的な立場の個人や組織が訴訟を起こして無力な個人から表現の自由を奪う反立憲主義を退けるために。改めて強く求めたい。スラップ訴訟に罰則を科すこと、を。

先にお名前を挙げさせていただいた徳永弁護士はこんなツイートもしている。

義侠心のある方のようだ。パンパカ工務店氏は、いよいよ行きづまったら、徳永弁護士を頼ってみるのはどうだろう。もっとも、本当に力になってくれるかどうかは保証しようもないのだが。

whim_dachs/iStock