定年退職後「昼ご飯作りたくない」と言われないためにするべき習慣(滝川 徹)

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先日70代の男性が妻から「昼ご飯、作りたくない」と言われて驚いたという記事が話題になった。週に3日は外に出てほしいとも言われたという(参考:「昼ご飯、作りたくない」妻の言葉に驚いた 退職後男性の居場所探し)。

この男性のように定年退職後に居場所がなくなったり、妻から三行半を突きつけられてしまう例は多い。熟年離婚の割合は2020年には過去最高の21.5%となった。

離婚の原因は個人の問題、プライベートな話になりがちだが、熟年離婚については「お金を稼ぐことが家族への一番の貢献」という誤った社会的価値観にあるのではないか。経済的に成功しても妻が夫婦関係に必ずしも満足するとは限らない。むしろ他の要素に大きく依存する。

妻の満足度が大きく依存する要素は一体なんなのか。理想の働き方を追求する時短コンサルタントの立場から考えてみたい。

itakayuki/iStock

妻から返ってきた予想外の言葉

トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長在任時に全社員の残業をゼロにしながら19期連続増収増益を達成した吉越浩一郎氏。吉越氏著書『ほんとうは仕事よりも大切なこと(プレジデント社 2012)』で、大企業の社長を務めた人物(以下社長)と夫婦で会食した際の話を紹介している。

食事と酒が進み、何かの話の流れで社長が妻に「きみは、僕の戦友だからな」と感慨深げに言った。すると「あなたに戦友と呼ばれる覚えはありません」と返ってきた。社長は顔を赤くして黙りこんでしまい、場の空気は冷たく固まってしまったという。

このエピソードからわかることはは「家庭のため」という名目で仕事に邁進したとしても、妻は必ずしも満足しないということだ。

吉越氏はこのエピソードについて以下のように語る。

数十年の結構生活で、どれだけ家庭を顧みたのかという思いが拭えない。夫の社会的地位によって得た経済基盤はそれなりのものがあったとしても、代わりに失ったものが大きすぎる。そんな思いがうっ屈していたのではないでしょうか

お金を稼ぐことが妻や家族に対する一番の貢献。そう考えている男性は多いだろう。

しかし妻の夫婦関係における満足度はお金よりもその他の要素に大きく依存する。そう主張するのはシカゴ大学社会学教授の山口一男氏だ。

平日16分夫婦の会話が増える=月収10万円UPと同じ効果がある

山口氏は著書『ワークライフバランス 実証と政策提言 (日経BP 2009)』で妻の夫婦関係満足度に関する分析を行っている。

同氏はその構成要素を『「心の支えになる人」としての夫への信頼度』と『夫への経済力信頼度』としたうえで、前者の影響は後者の影響より3倍大きいと主張する。

夫婦関係満足度への貢献度合いは平日1日当たり16分夫婦の会話時間が増えることと夫の月収が10万円増えることは等しいと説明する。つまり収入より家庭内の時間の使い方のほうが夫婦仲に大きく影響するということだ。

では具体的に男性はどうしたらいいのか。まずはテータの通り、平日1日当たり16分会話を増やすことを意識してはどうだろう。それだけで月収が10万円増えるのと同じ程度の効果があるのなら試す価値は大いにある。

たった16分で何が変わるのかと感じる人もいるかもしれない。しかし小さな習慣でも長い時間をかけると大きな成果につながる。

定年後を見据えて小さな習慣を積み重ねることの大切さ

ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家、ジェームズ・クリアは著書『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣(パンローリング株式会社 2019)』で小さな習慣を積み重ねる効果を次のように語る。

投資した金が複利で増えるように、習慣の効果も繰りかえすことで大きくなっていく。(中略)2年、5年、あるいは10年後に振りかえってはじめて、良い習慣による利益と悪い習慣による損失がはっきりと目に見えてくる

複利とは雪だるま式に増える事を意味する。たとえば1日だけ腕立て伏せを行っても効果はゼロだ。しかし10年、20年と続けた場合、身体・健康に大きな変化が生まれる。これと同じように1日たった16分の会話でも、定年まで続ければ大きな成果が見込めるはずだ。

定年後の過ごし方は人生の充実度を決定する重要なカギを握ると吉越氏も言う。

収入やキャリアは言うまでもなく大切だ。しかし人生を長い時間軸で考えれば、働く時間を減らしても妻や家族と過ごす時間を増やすほうが合理的ではないだろうか。少なくとも筆者はそう考えている。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年6月2日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。