電力料金値上げを危惧する前にすべきこと

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電気料金の値上げが止まらない。電気は今や産業界だけでなく、市民の日常生活で欠くことができない最も重要なエネルギーであり、特に家計に占める光熱費の割合が高くなる低所得者層は、料金値上げの痛手をもろに受けてしまう。

低所得者層に限らず、値上げには誰もが反対したくなるところだが、先進国に限らず世界中どこの国でも電気の需要は増加傾向にあり、供給エネルギーに占める電化率が年々高まる中、電気料金はこの先益々上昇していく可能性が高い。

ただ、私たちは電気料金の値上げに神経をとがらせる前に、まず日本が置かれているエネルギー(電力)の特殊事情をしっかり把握しておく必要があるのではないだろうか。つまり多少電気料金が高くなったとしても、将来長期にわたり、エネルギー(電力)が安定供給されるシステムができていれば良いのだが、問題は現状の供給システムのリスクが大きく、まさに“日本のアキレス腱”となっていることである。

主要国と日本のエネルギー事情は、どのように異なるのだろうか?

日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁
経済産業省・資源エネルギー庁のホームページです。広報パンフレット、日本のエネルギー 2022年度版。

日本のエネルギー自給率がかなり低いことは周知の事実ではあるが、小国のルクセンブルクを除けば何とOECD加盟国中最下位なのである。

また自給率の推移をみると、東日本大震災後、原子力発電が激減した時期の最低値と比較すれば若干持ち直してはいるが、震災前の半分程度であり、ここ2.3年は頭打ちとなっている。エネルギーの内訳では依然として石油が多いが、こと発電に関しては石炭と天然ガスが中心である。

主要国の電力事情 - 電力事情について 

主要国の電力事情 - 電力事情について | 電気事業連合会
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発電に着目すると、確かに日本の発電量は伸び率こそ高くはないが、一人当たりの発電量は小国を除き表中では第3位である。1位のカナダ、2位のアメリカは、自国でエネルギーを量産できるから当然の結果といえよう。

また、ロシアからの天然ガス供給停止を恐れる欧州だが、一人当たりの発電量が多くの国で日本より少ないだけでなく、総人口でドイツは日本の3分の2、フランスは日本の2分の1であるから、日本は欧州の国々と比べかなりぜいたくに電気を使っていることがわかる。

実際、日本の総発電量は世界第5位(2021年)であり、上位4カ国はいずれも国土が広い人口大国の中・米・印・露である。

自給率を逆にエネルギー輸入依存度の観点から見れば、先進国では韓国と共にトップレベルであり、約9割を海外に依存するという危機的状況は、電力の自給率においても大きく変わることはないだろう。

このような電力のほとんどを海外に依存する日本の実態を鑑みれば、国内で自由競争をあおり、消費者向けに料金を下げようとしても、今回のウクライナ侵略のような不測の事態が突発的に起こればひとたまりもない。日本の特異なエネルギー事情を考えれば、やはり電力は多少高くても、国(公共機関)が直接管理・運営し、安定供給できるようにした方がよいのではないだろうか?

そのためにもまず政府がすべきことは、長期にわたる電力の安定した供給システムを構築することであろう。例えば、日本の天然ガス輸入先を見ると、比較的政情の安定したオーストラリアやマレーシアが中心ではあるが、以前ロシアへの経済制裁に絡み、オーストラリアが天然ガスの日本への輸出分を、不足している欧州などに優先して振り向けるのではないか、という情報が流れるなど、決して安閑としてはいられない状況である。

今後も世界的にエネルギー・電力の供給不足が起こることを想定し、最も不利な立場にある日本は、他国に先駆けて迅速に決断・実行しなければならないだろう。

対外的には、エネルギー輸入国の分散や関係国との信頼関係の構築を継続的に行うとともに、国内的には、世界のベストテンに入る広さを持つEEZに着目し、海底に眠るエネルギー資源の開発に努めてほしい。また現実的には、原子力発電の再開と再生エネルギーの効率化・コスト低減を並行して進める必要があるのではないか。

そして消費面においても、国民はいたずらに節約に走る必要はないが、これを機に電気に頼り過ぎない経済活動や日常生活の在り方を、真剣に考えていく必要があるのではないだろうか。


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